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ゆらのと

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自分が押し切って関係が変わったばかりのころは、桂が強張った表情をするのを何度も見た。
それが最近では、たまにではあるが、こんなふうに穏やかに微笑むようになった。
自分のそばにいて安心してくれているように感じる。
めちゃくちゃ幸せなんですけど。
桂の表情を見ながら、そう思った。
そばで桂が安らいでいると、温かい気持ちが胸に満ちる。
大切に、この世で一番大切にしたい相手だから、幸せであってほしい。
それが自分のそばにいるときであれば、いっそう嬉しい。
ただ純粋にそう思うのと、自分は桂に無茶な選択を迫ったという負い目がある。
幸せであってほしいと願いながら、それとは矛盾して、相手に望まない関係を選ばせた。
男とはありえないと思っていた桂に、男である自分に身体を差し出させた。
そんなふうに、まずは身体のほうから関係が変わった。
しかし、徐々に、心のほうも変化してきているように感じる。
性的な交わり以外で、いわゆる恋人扱いをしても、桂は以前のように拒否反応をしめしたり戸惑いを見せたりすることはなく、あたりまえのように受け止めるようになった。
そして、たまにだが、自分のそばで微笑むようになった。
穏やかに、満ち足りたように。
もしかして、と思う。
同じ想いを抱いてくれているんじゃないか。
聞いてみたくなる。
だが、結局は聞かない。
桂が認めてくれるかどうかわからない。
自分の希望的観測であるだけかもしれないし、そうでなかったとしても、認めることには桂の中でまだ抵抗があるかもしれない。
戸惑わせたくない。
それに、今の状態は自分にとっては充分すぎるぐらいに良い。
だから聞かない。
今のところは。
桂と肩を並べて鳥居をくぐる。
そのあとは、たわいのない話をしながらあたりを散策し、昼頃になると桂の薦めるそば屋に入った。
桂が薦めるだけあって美味く、満足して店を出た。
空は晴れているが、吹く風はやはり冷たくて、寒い。
しかし、食事をして腹が満ちたのと、心のほうも満ちているので、あまり気にならない。
帰り道がわかれるまで、気分良く、桂と歩いた。
そして、ひとりになっても、気分は良かった。
今度いつ桂の家に行こうかと考えたりした。
そのうち、万事屋のある二階家が見えてくる。
万事屋の玄関へと続く階段のまえに、郵便配達員がいた。
「よォ」
声をかける。
顔見知りだ。
郵便配達員は銀時のほうを向き、笑顔で会釈する。
「こんにちは」
「うち宛、あるか。あったら、もらってくぜ」
そうしたら階段をのぼる手間が省けるだろうと考えた。
郵便配達員はにっこり笑い、手紙を二通差しだした。
それを銀時は受け取ると、郵便配達員は礼を言って去っていった。
銀時は手紙を二通持って階段をのぼる。
片方はハガキで、通販会社からの安売りの知らせだ。
もう片方は封書だ。
封筒の表の宛名は坂田銀時、そのあと、封筒をひっくり返して、差し出し人の名が書かれているはずの裏を見る。
だが、裏にはなにも書かれていない。
だれからの手紙なのかわからない。
階段をのぼりきり、玄関のまえで足を止める。
なんとなく気になって、その場で、差出人不明の手紙を開封した。
封筒の中から便せんを出す。
三つ折りになっている便せんを開き、内容を見る。
「!」
我らの暁の星である桂小太郎と別れろ。
便せんには、そう書いてあった。
作品名:ゆらのと 作家名:hujio