こらぼでほすと 解除5
空母の甲板に、ヘリは下ろされた。すぐに兵士が武器を手にして乗り込んできたが、歌姫様は冷静だった。責任者と思しき人物が、面前に立ったので、「どういうことでしょうか? 」 と、尋ねる。
「無事で何よりでした、ラクス・クライン。そちらのヘリが故障した様子でしたので、たまたま近くを飛行していた我が軍のMSで救助させていただきました。」
「お助けいただいてありがとうございました。では、通信機をお借りして代替機を呼びますわ。」
「いえ、それには及びません。ラクス・クラインは今後、ユニオンのために働いてくださるのですから、このまま本国へ送らせていただきます。」
「申し訳ありませんが、それはできかねます。これから、プラントでのコンサートへ向かいませんと間に合いませんので。そのようなご相談でしたら、後日に連絡をくださいませ。」
「ラクス・クラインはプラントなどへ行く必要はありません。コンサートがやりたいということでしたら、ユニオンで会場を手配いたしましょう。・・・今後は、我らが護衛もさせていただきますので私設の方はお引取り願います。」
予想はしていたから、誰も驚かない。歌姫様の名声をユニオンが取り込みたいからの作戦だ。最初から、それは解っていた。
「では、護衛たちを引き取らせますので送っていただけますか? 」
「もちろんです。・・・・ただし、そちらのニール・ディランディだけは、あなたと同道していただきます。」
シートでくったりと寝ているおかんを指差して、責任者は人の悪い笑みを漏らす。
「それは困ります。この方は、重大な疾病を抱えていらっしゃって、プラントで一刻も早く治療をしなければなりません。私くしが、こちらに残れば、あなたがたの目的は達成されるはずです。」
「はははは・・・情報通り、その男は、あなたの大切な方のようですな。わざわざ、プラントまで移送せずとも最先端科学ではユニオンが先を走っております。治療は、我らが行ないますので、どうぞ、そのままお連れください。」
あーあー怒らせた、と、ヒルダは内心で、やりやがった、と、笑う。こと、おかんに関して、歌姫様はそれはそれは大切にしているのだ。それを人質として使うなんて言えば、激怒する。明らかに歌姫様の背後の気配が変わる。他人にはわからないだろうが、長年、護衛をしているヒルダたちには、それがわかったのだ。
「あなたがたでは治せないのではありませんか? 」
「では、冷凍処理をさせていただきましょう。永遠に年を取らず、あなたの側に置けますよ? 」
ハイネのほうは、やりやがった、というより、あれ? と、不審なことに気付いた。ほとんど、表向きには接触していないはずのニールと歌姫様の関係を、ユニオンが知っているからだ。大切な方というのだから、何かしらの情報は持っているはずだ。人目のある場所での接触はしていない。ということは、本宅か別荘のスタッフぐらいしか、二人の親密さなんて目にすることはない。
・・・・どっかにスパイでもいやがったか・・・・ということは、ヘリも細工されてたんだな・・・・・
確かに、ヘリは本宅に降下して放置されていた時間がある。別荘のほうは、整備の人間がいたから、誰かが監視していたはずだ。それに、別荘のスタッフはラボには降りられないし、秘密が厳守できる人間しか配置されていない。本宅は、その点では劣る。なんせ、規模がでかいから、そこまで人間の調査ができない。公的部分で働いているスタッフは、ある程度は調べてあるが、徹底的にではないから、そこいらに穴があったかもしれない。戻ったら、そこいらの燻り出しもしておかなくては、と、ハイネは予定を心のメモに書き込む。
「お待ちください、ラクス様。こちらには女性士官はいないのではありませんか? 」
ハイネが、恭しく歌姫様に意見を申し上げる。公式にということになると、こういう物言いをハイネだってする。
「別にかまいませんよ? 自分のことは自分で出来ます。」
「ですが・・・。」
「私くしのことは大丈夫です。どうぞ、お引取りを。」
「そうですな。確かに女性士官はおりませんが、空母に滞在いただくのは、僅かのことですから問題はないでしょう。」
冷たくない程度の言葉で、歌姫様は退ける。まあ、そう言うのは予想の範囲内だ。とりあえず、女性士官の有無を空母の責任者から引き摺りだしておこうと思った程度のことだ。女性として出入りするべき場所には監視はつかないんだな、と、ハイネは教えるつもりだった。
では、と、歌姫様がヘリから降りると、すぐに兵士がニールも運び出す。外で担架に移されると、そのまま運ばれていく。
さて、どうやって逃亡するかなあーと考えていたら、降りろ、という指示だ。獲物はないことはない。逃亡方法は、どうするかなあーとハイネは、のんびりと考えていたら、背後から突き倒された。ヘリの出入り口なんて、人一人が通れる程度だから、兵士が先に下りていた。どすっと眼の前の兵士たちの束に勢い良く突っ込む。そして、派手な銃撃音がして、ひょいっと身体が浮き上がる。ヘルベルトに担がれて、ヘリの背後に逃げ込んだ。
「ぼやぼやしてんじゃないよ、運転手。そこのMS。」
ヒルダがヘリの陰へ駆け込んで、すぐに顎で手近のMSを指し示した。屈みこむように置かれている。たぶん、ヘリを確保してきたMSだ。
はいよ、と、ハイネも行動に転じる。こういう場合、ナチュラルな人間よりは身体が軽い。ひょいひょいとMSに飛び上がり、コクピットへ飛び込む。そこには先客があったが、それは持ち上げて外へ投げ捨てる。そこまで一分とかかっていない。外では激しい銃撃音だ。
ちゃんと獲物を確保して逃亡ルートも考えているのが、さすが現役の護衛陣だ。まだ動力は動いたままの状態だ。すぐに、動いてヒルダたちを回収する。MSの片手でヒルダたちを確保し、別の手で銃撃から保護する。そして、コクピットへ移動させた。
「出しとくれっっ。まずは、あたしらが無事に逃亡しなきゃね。」
「ちょっと荒い運転になると思うんで、どっかに身体を固定してくれ。」
すでに機体は浮き上がっているが、同じように浮き上がる機体がある。ヘリの確保に出ていた機体は、同じように動力が動いていた。これをかわして素早く空母から離れなければならない。
穏便にいくとは思っていなかったが、即殺しにくるとはユニオンも容赦がないな、と、ハイネは考える。
追い駆けてくるMSのほうは容赦なく銃撃してくる。幸いなのは追撃型のミサイルがないことぐらいだ。移動に二時間近くかかっているから帰り道も同じくらいかかるはずだ。えっちらおっちら逃げるなんてしてられないから機体を反転させた。ビームサーベルを抜いて、追い駆けてきた機体に斬りかかる。フェイスなめんなよっっ、と、叫びつつ、バッサバッサと敵は斬り落とす。この機体は水面下での活動ができるタイプではないから、海に落としてしまえば追い駆けてこれない。
そのまま動力を全開にして飛び去ることに成功した。まずは、自分たちの安否を報せることから始めて、本宅のスパイについても報告する。全てを暗号通信で手配した頃に迎えのディアッカのグフが接近してきた。
「無事で何よりでした、ラクス・クライン。そちらのヘリが故障した様子でしたので、たまたま近くを飛行していた我が軍のMSで救助させていただきました。」
「お助けいただいてありがとうございました。では、通信機をお借りして代替機を呼びますわ。」
「いえ、それには及びません。ラクス・クラインは今後、ユニオンのために働いてくださるのですから、このまま本国へ送らせていただきます。」
「申し訳ありませんが、それはできかねます。これから、プラントでのコンサートへ向かいませんと間に合いませんので。そのようなご相談でしたら、後日に連絡をくださいませ。」
「ラクス・クラインはプラントなどへ行く必要はありません。コンサートがやりたいということでしたら、ユニオンで会場を手配いたしましょう。・・・今後は、我らが護衛もさせていただきますので私設の方はお引取り願います。」
予想はしていたから、誰も驚かない。歌姫様の名声をユニオンが取り込みたいからの作戦だ。最初から、それは解っていた。
「では、護衛たちを引き取らせますので送っていただけますか? 」
「もちろんです。・・・・ただし、そちらのニール・ディランディだけは、あなたと同道していただきます。」
シートでくったりと寝ているおかんを指差して、責任者は人の悪い笑みを漏らす。
「それは困ります。この方は、重大な疾病を抱えていらっしゃって、プラントで一刻も早く治療をしなければなりません。私くしが、こちらに残れば、あなたがたの目的は達成されるはずです。」
「はははは・・・情報通り、その男は、あなたの大切な方のようですな。わざわざ、プラントまで移送せずとも最先端科学ではユニオンが先を走っております。治療は、我らが行ないますので、どうぞ、そのままお連れください。」
あーあー怒らせた、と、ヒルダは内心で、やりやがった、と、笑う。こと、おかんに関して、歌姫様はそれはそれは大切にしているのだ。それを人質として使うなんて言えば、激怒する。明らかに歌姫様の背後の気配が変わる。他人にはわからないだろうが、長年、護衛をしているヒルダたちには、それがわかったのだ。
「あなたがたでは治せないのではありませんか? 」
「では、冷凍処理をさせていただきましょう。永遠に年を取らず、あなたの側に置けますよ? 」
ハイネのほうは、やりやがった、というより、あれ? と、不審なことに気付いた。ほとんど、表向きには接触していないはずのニールと歌姫様の関係を、ユニオンが知っているからだ。大切な方というのだから、何かしらの情報は持っているはずだ。人目のある場所での接触はしていない。ということは、本宅か別荘のスタッフぐらいしか、二人の親密さなんて目にすることはない。
・・・・どっかにスパイでもいやがったか・・・・ということは、ヘリも細工されてたんだな・・・・・
確かに、ヘリは本宅に降下して放置されていた時間がある。別荘のほうは、整備の人間がいたから、誰かが監視していたはずだ。それに、別荘のスタッフはラボには降りられないし、秘密が厳守できる人間しか配置されていない。本宅は、その点では劣る。なんせ、規模がでかいから、そこまで人間の調査ができない。公的部分で働いているスタッフは、ある程度は調べてあるが、徹底的にではないから、そこいらに穴があったかもしれない。戻ったら、そこいらの燻り出しもしておかなくては、と、ハイネは予定を心のメモに書き込む。
「お待ちください、ラクス様。こちらには女性士官はいないのではありませんか? 」
ハイネが、恭しく歌姫様に意見を申し上げる。公式にということになると、こういう物言いをハイネだってする。
「別にかまいませんよ? 自分のことは自分で出来ます。」
「ですが・・・。」
「私くしのことは大丈夫です。どうぞ、お引取りを。」
「そうですな。確かに女性士官はおりませんが、空母に滞在いただくのは、僅かのことですから問題はないでしょう。」
冷たくない程度の言葉で、歌姫様は退ける。まあ、そう言うのは予想の範囲内だ。とりあえず、女性士官の有無を空母の責任者から引き摺りだしておこうと思った程度のことだ。女性として出入りするべき場所には監視はつかないんだな、と、ハイネは教えるつもりだった。
では、と、歌姫様がヘリから降りると、すぐに兵士がニールも運び出す。外で担架に移されると、そのまま運ばれていく。
さて、どうやって逃亡するかなあーと考えていたら、降りろ、という指示だ。獲物はないことはない。逃亡方法は、どうするかなあーとハイネは、のんびりと考えていたら、背後から突き倒された。ヘリの出入り口なんて、人一人が通れる程度だから、兵士が先に下りていた。どすっと眼の前の兵士たちの束に勢い良く突っ込む。そして、派手な銃撃音がして、ひょいっと身体が浮き上がる。ヘルベルトに担がれて、ヘリの背後に逃げ込んだ。
「ぼやぼやしてんじゃないよ、運転手。そこのMS。」
ヒルダがヘリの陰へ駆け込んで、すぐに顎で手近のMSを指し示した。屈みこむように置かれている。たぶん、ヘリを確保してきたMSだ。
はいよ、と、ハイネも行動に転じる。こういう場合、ナチュラルな人間よりは身体が軽い。ひょいひょいとMSに飛び上がり、コクピットへ飛び込む。そこには先客があったが、それは持ち上げて外へ投げ捨てる。そこまで一分とかかっていない。外では激しい銃撃音だ。
ちゃんと獲物を確保して逃亡ルートも考えているのが、さすが現役の護衛陣だ。まだ動力は動いたままの状態だ。すぐに、動いてヒルダたちを回収する。MSの片手でヒルダたちを確保し、別の手で銃撃から保護する。そして、コクピットへ移動させた。
「出しとくれっっ。まずは、あたしらが無事に逃亡しなきゃね。」
「ちょっと荒い運転になると思うんで、どっかに身体を固定してくれ。」
すでに機体は浮き上がっているが、同じように浮き上がる機体がある。ヘリの確保に出ていた機体は、同じように動力が動いていた。これをかわして素早く空母から離れなければならない。
穏便にいくとは思っていなかったが、即殺しにくるとはユニオンも容赦がないな、と、ハイネは考える。
追い駆けてくるMSのほうは容赦なく銃撃してくる。幸いなのは追撃型のミサイルがないことぐらいだ。移動に二時間近くかかっているから帰り道も同じくらいかかるはずだ。えっちらおっちら逃げるなんてしてられないから機体を反転させた。ビームサーベルを抜いて、追い駆けてきた機体に斬りかかる。フェイスなめんなよっっ、と、叫びつつ、バッサバッサと敵は斬り落とす。この機体は水面下での活動ができるタイプではないから、海に落としてしまえば追い駆けてこれない。
そのまま動力を全開にして飛び去ることに成功した。まずは、自分たちの安否を報せることから始めて、本宅のスパイについても報告する。全てを暗号通信で手配した頃に迎えのディアッカのグフが接近してきた。
作品名:こらぼでほすと 解除5 作家名:篠義