こらぼでほすと 解除5
キラは本宅の地下にあるサーバーに齧りついて、情報収集と奪還準備に勤しんでいた。ラクスの拉致については、連邦大統領から軍部への依頼だったと判明している。そこいらはリジェネから、すでに報告が入っている。そして、ユニオンの軍部と政府のマザーも掌握してくれた。これで、こちらからのオーダーが最優先になる。
「キラ、輸送機が空母に向かってる。」
「撃ち落して。」
「了解。」
ユニオンのレーダーもキラのものだ。おそらくラクスの移動用の足であるだろう。そういうものは、近づけてはいけない。アスランも、それは理解しているから、輸送機をユニオンの近隣基地からミサイルで狙う。軍部のマザーを掌握したから、可能なことだ。基地にあるサーバーは、全てがマザーの指示が最優先になる。人間が、どうこうしようと動かせないようにロックした。輸送機を正体不明機に仕立て上げて、ミサイル攻撃を指示する。
「ハイネから暗号通信だ。護衛陣は逃亡した。」
「了解、シン、レイ、イザークを呼んだから、きみたちラボへ行ってくれる? ディスティニーとレジェンドを起動して、洋上の空母のレーダーと通信を遮断。」
了解、と、シンとレイが走り出す。空母を孤立させて、そこに白兵戦というのがキラの戦術だ。だが、空母の兵力は、ある程度は削いでおきたい。なんせ、空母だけで小さな町の住人くらいの乗組員がいるのだ。いくら百戦錬磨の悟空たちとはいえ、その人数の相手はできないだろう。
「ムウさん、ハイネとヒルダさんたちの機体の発進準備。ハイネはフリーダムで。」
順々に準備を進めていく。空母からMSやら戦闘機やらも引き剥がす。準備が整ったら、空母の各隔壁を閉じて、乗組員も容易に集合できないようにするつもりだ。
「リジェネ、AEUと人革連の軍部と政府のマザーも掌握して。」
「オッケー。」
そして、同時に三大大国の力を全部削ぎ落とす作戦も併用だ。その騒ぎが起これば、『吉祥富貴』のことなど構っていられなくなるし、戦争を引き起こしていた上層部の首も挿げ替えができる。ラクスを平和の使節だというのなら、大人しくラクスの提案を受ければいい。それなのに、逆に拉致して広告塔にしようとする。そんな生き物は必要ではない。キラも怒っている。それなら、いっそのこと、三大大国の頭を変えてしまう方法を選んだ。
「キラ、AEUと人革連のほうは、俺が担当する。」
「お願い、アスラン。」
準備が終了するまでは必死だ。整ったら、一気にかかる。ハイネからの報告にチラリと目をやって、別室で待機している紅を呼び出す。
「紅、暇つぶし。地下に降りて来る人間をチェックして。スパイが混じってるみたいなんだ。」
「見分け方は? 」
「降りて来るのは、全部おかしい。」
「オッケー。で、殺していいのか? 」
「好きにして。」
基本、不殺が信条のキラだが、それでどうにもならない場合は殺すことも許可する。地下へ降りて来るということは、こちらに対しての破壊工作しかない。自分たちの生命を危険に晒してまで不殺でいるつもりはない。基本的に、ラクスのプライベートエリアになる地下には、生体認証かパスカードが必要になる。それを持っているのは、本宅のスタッフでは少数で、持っている人間はラクスが調査した人間ばかりのはずだ。それが取り込まれたのか、それともパスカードの偽造をやらかしたのか、そこいらは調べているのが惜しいから、紅に、そう指示をした。
「キラ、別荘にミサイルだ。自爆させておくよ? 」
「うぁおー本気だね? ユニオン。」
本宅のほうは、特区の市街地に近いところだし、このサーバーは地下にある。だから、狙われても問題はない。別荘のほうは、ラボは地下にあるが、滑走路やらの地上施設もあるから、そちらは狙われる。もちろん、それらも想定して防衛システムは組んである。別荘のスタッフには退避してもらっているから、そこが破壊されるぐらいは構わない。だが、滑走路は、これから使用するつもりだから死守する。これもミサイルの自爆装置を作動でオッケーだ。
歌姫様が案内されたのは、空母の貴賓室だ。ここで、しばらくお待ちください、と、体よく押し込められた。ニールも、側に置いてください、と、頼んで、こちらに運び込んで貰った。歌姫様の手にはハロがいる。全てを録画しているので、証拠としては十分だろう。おそらく、ここでの会話は盗聴されているとみていい。だから、内心で言葉を紡ぐだけだ。
・・・・本宅にスパイがおりますね・・・・・
ラクスも、あの責任者の言葉で気付いた。親密な関係と言われるのは、同衾しているからのことだろう。そういう意味ではないのだが、スパイは、そう報告したらしい。戻ったら、少し人員整理をしなければ、と、予定する。
そして、ゆっくりとベッドに横たわっているママに近寄った。意識はない。昏睡状態に近いから、今なら痛みも何も感じていないだろう。だから、それにはほっとする。手を取上げてみると、温かい。生きているのだと思うだけで、気持ちが落着いた。かねてから、ラクス自身が拉致された場合の『吉祥富貴』の行動はシュミレートされていた。キラは、すでに、それを実行しているだろう。だから、今のラクスは待つのが仕事だ。
「申し訳ありません。私くしのために、こんなところで窮屈な思いをさせてしまって。」
相手の名称はつけない。盗聴されている前提での会話だから、言質を取られるようなことは避ける。すでに習い性のようになっているラクスは、そんな会話でも十分に楽しい。眠っているママには聞こえないし、聞いているのは敵だけだから、なるべくは内心で話す。
・・・・ママの意識がなくて良かったですわ。起きていらっしゃったら、きっと私を守ろうとしてくださいましたものね? 怪我をしても自分の身体を楯にしても、私を助けてくださるつもりでしょ? そういうのは必要ではない、と、私が申し上げてもやってしまうのが、ママですわ・・・・・すぐに迎えが参りますので、しばしお待ちくださいな? キラが迎えに来てくれます。それから、宇宙に上がりましょうね? ・・・・・
ラクスは畏れていない。キラが助けてくれると信じているし、自分は生きている価値があると知っている。護衛たちは騒ぎを起こして逃亡した様子だから安心だ。
「せっかく、時間ができたのですから、爪のお手入れでもいたしましょうか? 本当は、お肌のほうもやりたいのですけど、化粧品などはないのでしょうね。」
持ち上げていたママの手を、しげしげと眺めてラクスは口にする。細くて綺麗な指だが、家事に勤しんでいるから荒れている。甘皮を取り除いて爪を磨くぐらいのことはできるだろう、と、洗面所に探しに行ったが、お目当てのものはなかった。
「爪きりもヤスリもないのですね。困ったことですわ。」
そういうケア製品なんてものはないらしい。仕方がないから、ハンドタオルを持って来た。これで爪を磨けば効率は悪いが手入れにはなる。こしこしとタオルで親指の爪を磨く。いい時間潰しだ。
作品名:こらぼでほすと 解除5 作家名:篠義