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窓から空を見上げた。灰色の分厚い雲に覆われた空は涙を止めそうにない。ほんの少し前までは雨なんて降りそうになかったのに、空は気紛れだとカミツレは思った。
多種多様な傘がパズルのように見える。その中の一つにエモンガが描かれた子供向けの傘があった。
あんな傘を自分も持っていた時期があった。まだ幼い頃、ポケモンを持ってはいけない年齢の頃に、代わりにと母が買ってくれた傘に、エモンガがプリントされていた。セットになっていたエモンガがモチーフのかっぱを喜んで着て、エモンガ柄の傘を手に雨の中、走り回っていた時期もあった。歳が上がるにつれ周りの目を気にして使わなくなった傘とかっぱはまだ何処かにしまってあるはずだ。
カミツレは立ち上がると、あやふやな記憶を頼りに探し始めた。

暫くして埃を被ったかっぱと傘を発見した。ふう、と一息吐いてから、かっぱを広げてみた。長い間折り畳まれて眠っていたかっぱはアイロンを掛けたワイシャツのようにしっかりと折り目が付いていた。
――カミツレちゃーん!
自分を呼ぶ声が聞こえた気がして、カミツレは振り向いた。その時やっと、収納スペースの奥に保管されていた傘とかっぱを取り出す為に、出して退けた荷物が部屋中に散乱していたことに気付いた。
先程のは幻聴だろうかとカミツレは思った。幻聴を聞く程疲れてはいないのに、何故。しかも自分を呼ぶ声だなんて、この生憎の天気で薄暗いことも重なって少し不気味だと思った。
――カミツレちゃーん!

「……また……」

やはり、疲れているのだろうか。目を閉じて頭を押さえた。
――カミツレちゃーん! 留守ですかー?
カミツレははっと目を開いて、立ち上がった。足の踏み場を作りながら窓へ寄って、玄関を見下ろす。屋根が邪魔で見えなかったが、カミツレは恐らくあの子だろうと予想した。
また足の踏み場を作りながら部屋を出る。そしてノック音と人の声が聞こえる玄関へ向かった。
玄関に近付くにつれて、声の主が予想通りの人物だと分かった。

「カミツレちゃーん! いるのは分かってるわよー!」
「……今開けるわ」

ドア一枚挟んでもよく聞こえるフウロの声にカミツレは呆れた。
ドアを開けると雨音が響いた。本当に、空は気紛れだ。

「今日はどうしたの? 何かよ……う……」

カミツレは目の前に広がる光景に驚いた。雨があまりにも酷かったからではない。フウロが、頭から水を滴らせていたからだった。まるでバケツの水を被ったかのような姿は、この雨の中、傘も何も差さずにいたからに他ならない。
当人は「電気付いてるのに出て来ないから嫌われちゃったかと思ったのよ?」と普段と変わらず接してくる。
カミツレはフウロの濡れた腕を掴み、家の中へ入れた。

「タオル持ってくるから、そこで待っていて」

フウロはいきなりのことに驚いて、状況把握が出来ず、ただ頷いた。
体から落ちた滴が床に溜まって小さな水溜まりが出来た。そんな足元の小さな出来事にフウロは気付かず、カミツレが消えて行った方を見つめている。
戻ってきたカミツレはタオルを何枚も抱えていた。抱えていたタオルは花瓶をのせた台に置き、一枚だけ広げ、フウロの頭に被せて拭き始めた。

「わあ! カ、カミツレちゃん痛いっ!」

フウロは力いっぱい拭かれる痛みに我慢出来ず、カミツレの両腕を掴んだ。
カミツレの腕に水が伝った。

「カミツレちゃん、もしかして怒ってるの?」
「どうしてそう思うの?」
「眉間に皺寄ってるから……」
「じゃあ、どうしてわたしが怒っているか分かる?」
「……アタシがびしょ濡れだったからかな?」

手の動きが止まった。その通りだった。
フウロはどう弁解すべきか悩んだ。

「あのね、えーと、濡れたくて濡れたんじゃないのよ? 天気も良いしたまにはポケモンに乗って空の旅っていうのも良いかなって。でもいきなり雨降ってきちゃって、雨宿りさせてもらおうと思った来たの。駄目だったかな?」

不可抗力であることを伝えても、カミツレは今一つ納得がいかない様子だった。けれど天気の心変わりの速さは確かに自分の目で見ている。その被害に遭ったか、遭わなかったかの違いである。

「こんな雨の中追い返すなんて出来ないもの。止むまでここにいるといいわ」
「本当に!? ありがとう! やっぱり持つべきものは友達ね!」
「ストップ! ……あなた、今自分がびしょ濡れだって理解してるの?」

抱き締められそうになったカミツレはすんでのところでフウロを押さえた。
湿ったタオルがひらひらと床に落ちた。床の水溜まりの上に落ちたようで、これ以上ないほどに水分を吸っていた。もうタオルの役割を果たせないと思ったカミツレは新しいタオルをフウロに渡した。

「着替えた方が良さそうね」

タオルが何枚あっても足りそうになかった。
着替えがあるのならそうするのが一番だが、まさかフウロがこんな事態を予想して着替えを持ってきているはずはない。そうなるとカミツレの服を貸すしかなくなる。だが問題があった。スーパーモデルと謳われるだけあって細身のカミツレと、痩せてはいるけれど一部分が平均を上回っているフウロ。

「(サイズの大きいものか、伸縮性のあるもの……)」

クローゼットを思い浮かべて、条件に合うものを探す。
数ある服の中、やっと思い当たるものがあった。灰色のスウェットが何処かにあったはずだ。

「あなたはシャワーでも浴びていて。その間に服を探してくるわ」
「えっ、良いわよ。雨宿りだけで十分だから」
「ここはわたしの家よ。あなたはわたしの家にいるの。ルールはわたし」

自分でも随分なことを言ったものだと思った。ぽかんとしていたフウロも、次の瞬間には笑っていた。

「カミツレちゃん、今日は一段と変ね」
「……どういう意味かしら」
「さあ? じゃあアタシはお言葉に甘えてお風呂に入ってきます!」
「ち、ちょっと!」

べちゃべちゃと床を水浸しにさせながら浴室へ向かうフウロが見えなくなったところで、カミツレは溜め息を吐いた。
置きっぱなしにされた未使用のタオルを手に取り、床を拭いていく。嵐の後の街のようだ。
フウロが風呂に入ったのを確認してから、洗濯機を回した。乾燥まで勝手にやってくれる、忙しいカミツレが愛用する便利な機械だ。

カミツレはクローゼットを物色していたが、目当てのものがなかなか見つからず困り果てていた。
フウロを風呂に行かせてから結構な時間が経っていた。もう出てきてもおかしくない。だのに代わりのものすら見つからない。
譲り受けたものの、自分は着ないだろうと思っていたスウェットだ。もしかしたら捨てているかもしれない。
スウェットの存在は思い出せた。
スウェットを捨てたことは思い出せない。

「他にあるとすれば……」

一つの考えに辿りついた。スウェットは捨ててはいない。もう着ないものはしまってある。
あるとすれば、あそこにあると思い、部屋を出た。
荷物が散乱した部屋に入る。広げられたエモンガのかっぱがよく目立っていた。
カミツレはある段ボールに目をつけた。ガムテープが貼られていて、中を確認しなかった段ボールだ。他の段ボールは傘を探していた時に開けていて、服らしいものは何もないと記憶している。
作品名: 作家名:刺身こんぶ