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カッターを持ってきて、段ボールを開ける。中には服がいくつも入っていた。やっぱり、とカミツレは呟いた。
もう着ないからとしまいこんでいた服が次々と出てきた。その中には灰色のスウェットも入っていた。ずっとしまいこんでいただけあって、少しカビ臭いにおいがしたが、我慢してもらうことにする。

「あっ、いたいた。カミツレちゃん、お風呂ありがとう」
「どういたしまして。……下着くらいは乾いてると思うわよ」
「パンツだけ穿いてるよ。ブラはまだちょっと湿ってたから。けど凄いね、あの洗濯機。アタシも買おうかな」

ぱっと見、バスタオル一枚のフウロは弾んだ声で言った。そんなフウロにカミツレは「あれ、とても便利よ」と勧めた。しかしカミツレは、自身が購入した時、なかなか値が張るものだったそれを、フウロが買う気になるだろうかと心の中で考えていた。

「これ、ずっとしまっていたものだから少しにおうけど、乾くまで我慢して」
「何から何までごめんね」

スウェットがカミツレの手からフウロに渡された。だがフウロは一点を見つめて動かなかった。不思議に思ったカミツレが視線を辿ると、エモンガのかっぱに辿りついた。

「あれ、カミツレちゃんの?」

フウロは指を差して尋ねた。

「ええ……幼い頃に使っていたの」
「へえ。カミツレちゃんでもこんなの使ってたんだね。アタシもコアルヒーの傘使ってたなあ。かっぱはないけど、傘なら探せばまだあるかも」
「ひこうタイプ好きはその頃からなのね」
「人のこと言えないでしょ?」

夢に描いていたトレーナーとなったカミツレもフウロも今やイッシュのジムリーダー。幼い頃の自分は、将来こんなことになっているなんて思いもしないだろうとカミツレは思った。
あのエモンガの傘を差していた子供も遠くないうちに自分の元へやって来るかもしれない。

「いつまでその格好でいるの? 風邪引くわよ」
「はーい。着替えてくるね」

未だタオルのままで立っていたフウロに、カミツレは声を掛けた。
段ボールに服を戻しながら、カミツレは傘とかっぱをどうするか考えた。捨てるつもりは毛頭ない。久し振りに使ってみたい気もするが、やはりこの歳で使うのは少し恥ずかしい。
「カミツレちゃん!」とフウロが戻ってきた。スウェットの上だけしか着ていなかったが太股まで隠れていた。そうだ、大きすぎて着れなかったのだと思い出す。
「そんな格好で――」はしたないわ、とカミツレが言う前にフウロが口を開いた。

「もしコアルヒーの傘が見つかったら、その傘持って一緒に何処か行こうよ! 雨の日のお出かけも良いと思うの。きっと新しい発見があるよ! 考えておいてね!」

そう言うと、フウロはまた着替えに戻った。
カミツレは新しい発見、と口の中で呟く。

「そうね……わたし、やっぱり疲れてたみたい」

エモンガの傘とかっぱに目を向けた。
恥ずかしいけれど、何処か人目の少ない場所なら使う勇気が出る気がする。
本物のエモンガ達を連れて、この人工の光でいっぱいのライモンから離れて、自然を楽しめる場所。森や湖なんかに行ってみよう。
フウロにお願いして貨物機に乗せてもらって、ちょっと遠出も良いかもしれない。
わたしの始まりと一緒に、新しい思い出を、とカミツレは今の自分が使うには小さい傘を手に思った。
作品名: 作家名:刺身こんぶ