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「とこしえの 第一章 初陣(3)」

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より一層森永は低く低く頭を畳にすりつけるようにして下げる。
「あなた様は、真っ直ぐなご気性の持ち主であらせられます。オレが今後もあのように人を殺める事があっても、宗一さまはお赦しくださいますや」
「是非に及ばず」
哲博の決死の問いかけに対しあまりにもの即答に、哲博ははっとして顔を上げると宗一と目が合ってしまい慌ててまた頭を下げる。
「面を上げよ、哲」
宗一が命じると、哲博はそろそろと頭を上げて、目を伏せた。
「ただし、条件がある。オレの目を見て誓え、哲」
条件・・・・哲博は口の中で呟いてゆっくり瞼を上げて宗一を見た。
 宗一の姿はいっそ眩しい程に清々しく見え、森永は自然目を細めた。
「今後、オレため以外に人を殺める事かなわず。オレのためだけにその刀を振るい、オレが殺せと命じた者は誰のことも殺せ。我が命に従い、我が命に背く事は許さぬ」
「は、誓いまする」
もちろんだ、と、哲博は思った。もう宗一のため以外にそうするはずが無いと、本当はあの幼き頃より決めていたのだ。
 自分は、宗一のために生き、宗一のために死ぬのだと。
「よし、ならば、これより森永哲博はオレのものだ。そなた自身もそなたを自由にしてはならぬ」
言って、宗一は哲博の顎を掴むと、ぐいっと自分の方に向けて目を細めて笑った。
「覚悟いたせ」
その言葉に、哲博の心は解き放たれた気がした。もう自分自身も自分を自由にしてはならぬ、その言葉は哲博の心に染み渡り、まるで真綿に包まれたように甘い締め付けで森永の自由を奪ったのだ。
 その疼くような拘束は、かつて感じた事の無い程、哲博を歓喜させ思わず自らの主君たる宗一を抱き寄せた。
「宗一さま、宗一さま、お慕いしております。指の先、髪の毛の一筋に至るまで己の身は宗一さまのものでございます」
「そ、そなた、大袈裟な・・・」
非常に迷惑そうな声を上げてそう言いかけたが、哲博はあまり耳に入っておらず、その唇を吸った。
 あまりの驚きに、宗一はしばし忘我して身動き取れずにいたが、ややして哲博の舌が宗一の唇を割入ると言う仕儀に至っては流石に我に返り、もがいて哲博を引きはがした。
「そ、そなた、何をする!」
やっとの思いで宗一は哲博の肩を押しのけるが、哲博の腕は剥がれそうになく宗一の細い腰に回ったまま互いの顔を見合わせた。
「身も心も宗一さまにお仕いさせていただきますれば、ご奉仕を・・」
「ば、馬鹿か!そ、そこまでせずとも良いわ!」
あまりにきょとんとした顔に宗一は毒気を抜かれて慌ててそう叫ぶと、哲博は腰に回した腕の力を緩めた。宗一はその腕から逃れて座り直す頃には、哲博は既に居住まいを正して頭を下げた。
「ほんによろしゅうございますか、あの・・・ご気分が高ぶられていらっしゃるとお察しいたしましたが」
言われて、宗一はかっと頬に朱が指して怒鳴った。
「よ、余計なお世話だ!馬鹿者!」
「左様でございますか、では、お着替えをお持ちいたします」
哲博が少し残念そうにいうと、宗一は、さがれさがれ!と、手をふって追い払った。
 先刻、ずっと側にいること誓い合ったばかりなのに、もう若干哲博が忌々しく思われた。
 哲博が居なくなった部屋は、ぐっと冷え込んで暗くなった気がした。実際、日は完全に落ちて、外は暗くなっている。目が慣れていて、辺りを見るのに苦労はしないが。
 暗くてよかったと思う。
 今、自分の顔は人に見せられるような顔色じゃないだろう。
 なんなんだ、哲の奴・・・。突然の事で宗一の頭は整理がつかないでいた。慕っているというのはそう言う意味での事なのか、それとも、本当に小姓として奉仕しようと思ってだけなのか。確かに、小姓にそう言う事をさせる者も居ると聞いた事はあるが・・・。
 知らぬ内に宗一は自分の唇を手で触っている事に気がついて慌てて手を放した。
 くそ!あのやろう!
 宗一は、生涯側にいろと言ったことをもう少しだけ後悔しはじめていた。

 その日宗一は、哲博を伴い巴奈の墓参りに来ていた。
 里を歩き回りながらの短い道中、巴奈の墓がある小高い森に入ると直ぐに宗一に声を掛けた。
「宗一さま、こちらに、小菊の咲いている原がございます」
「小菊?」
振り返ると、哲博は指を森の中指差しさらに言った。
「秋でなく、春に咲く小菊が巴奈さまは大層お好きだったと・・・」
宗一は何も言わず、しばし哲博の指差す方角を見ていた。何か引っかかる事があるような気がするのだが思い出せずにいたからだ。
「・・・よく覚えておるな」
少し遅れてそう言うと、案内せい、と、哲博を促した。
「こちらです。巴奈さまはオレが泣いているとこの小菊を下さって慰めて下さいました故」
先導しながら、懐かしそうに微笑んで語る哲博の横顔を眺めて、やはり何か引っかかると改めて宗一は思ったがそれが何なのか未だに思い出せない。
 案内された先には哲博の言うように、森の一角が開けておりそこに春の小菊が群生していた。小さく黄色いそれは、確かに母巴奈の一番好んだ小菊で、宗一はハッとして哲博を見た。
 そうか、と思う。あの初陣の報告に行った時、先に小菊を巴奈の墓に供えてくれたのは恐らく、森永から菜護にやってきた時の哲博だったのだろう。
 哲博は花を優しく手折りながら、巴奈の話しをし始めた。
「巴奈さまは恩人でございます。生まれたばかりのオレを抱えてゆく先を失っていた我が母を菜護の里に留め置いてくださったのは巴奈さまだったと、母がよく申しておりました」
手の中で小さな小菊の花束を作ると、それを宗一に差し出した。
「名も巴奈さまよりいただいたと」
宗一は差し出された小菊を受け取りながらむっと口を尖らせた。
「哲博など、赤子に付けるような名ではあるまいに」
そんな事を言うので、哲博は軽い声を上げて笑った。
「故に、森永の家で元服の折も願い出て哲博のままにさせていただきましてございます」
冗談めかしてそんな事を言うので、宗一は、ふん、と鼻を鳴らした。
「賢明だな。そなたを哲博以外で呼ぶなど考えもつかぬ」
「はい、オレも”哲”と再び宗一さまに呼ばれたかったのです」
言ってにっこりと笑ったので、宗一は思わず言葉を失って顔を真っ赤にしたが、直ぐに表情を歪めた。
「阿呆か」
「はい」
「褒めておらぬわ」
「はい」
全く笑顔を崩さないので、宗一は舌打ちしてつき合ってられないと、大股で歩き出したので、哲博も慌ててそれに続く。
 宗一はふと、そうして歩いている時懐かしい思いに駆られた。哲博と再会してすぐ、戦になった故にこのように以前のように里を歩くのは実に15年あまりぶりになる。
 しばらくは穏やかに過ごせるだろうか、哲博とて里にすむ実の母に会いにも行っていないだろう。昔、哲博を虐めた者どもに、このような体躯になった哲博を見せて歩くのも面白そうだと思う。弟妹にも会わせよう、兄が一人増えたと喜びそうだ。
 様々に今後の事が思い浮かんで来る。哲博と共にある、明日がある事にその時はただ、天の邪鬼な宗一だとて素直に喜びを感じていた。


続く


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2012/12/16