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こらぼでほすと 解除9

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変更した予定通りに、ハイネが操縦する民間船はランデブーポイントに到着した。そこには、ケルビィムが灯台よろしく待っていた。
「遅れてすまん。」
 ケルビィムの傍で、民間船も停止させる。本来の予定よりも、かなり遅れた。
「こっちは問題ないぜ、ハイネ。ここで停船しててくれ。すぐに、刹那が出て来る。」
 目標となるために、その地点に停止していたケルビィムは、ゆっくりと、そこから外れる。周囲の警戒のために、持ち場に向かった。すぐに、刹那が搭乗するダブルオーの機体が、民間船のレーダーに補足される。すでに、医療ポッドは開いてあるが、ニールのほうは眠ったままだ。GN粒子を存分に浴びれば問題はないから、意識はなくても構わない。
「いよいよか。」
 眼の前のパネルに映るダブルオーを確認して、ハイネも、ここまでの時間を考える。相変わらず、ニールの貧乏くじは健在で、ここまで来るのにハプニングが大きすぎた。とりあえず、あれで貧乏くじは打ち止めになってくれ、と、願ってしまう。
 ダブルオーは民間船のすぐ近くまで寄り、太陽炉を臨界点まで稼動させ始めると、周囲に緑色の粒子が溢れてくる。周辺が、それに包まれる頃に、刹那の、「トランザムッッ。」 という叫びが聞こえて、一層、深く粒子に包まれる。その瞬間に、ハイネも、その領域に取り込まれた。



・・・・ニール、ニール・・・・・

 呼びかける声が耳に届いて、ニールの意識が開いていく。目の前には、刹那の顔があった。
「あれ? 」
「トランザムを発動している。」
「・・・そっか・・・・」
 どうやら無事に、刹那の許へやって来たらしい。だが、ちょっと驚く光景だ。眼の前の刹那は、真っ裸の状態で微笑んでいるのだ。
「・・え?・・・」
「バースト状態の精神領域に、あんたは居る。だから、裸なんだ。・・・具合は、どうだ? 」
 もちろん、ニールも自分の身体を見回したら、ポンポンスーな状態だ。ちょっと特殊な領域に取り込まれているらしい、とは解るのだが、なんていうか気恥ずかしいものはある。
「・・・具合は・・・よくわからないな。まあ、悪くはないよ。これ、トランザムで、こんなことになるのか? 」
 ニール自身もトランザムはしたことがあるが、こんなことにはならなかった。これが、イノベーターだけができることであるらしい。
「この空間を作れるのは、今のところ、俺だけだ。・・・ここでなら、嘘はつけない。」
 だから、ニールが具合が悪くないのは本当だろう。直接、心同士を繋げたような状態だから、刹那でなかったら、ニールの精神構造に驚くはずだ。奥に潜んでいる闇が深すぎて怖いほどだが、刹那は慣れたものだ。刹那自身も持っているから、納得は出来る。表面の明るさが、普段のニールの姿だ。そこから、奥にある闇が内面で、刹那は、なんとなく気付いていた。この闇があるから、おかんはマイスターになった。たぶん、ニールにも自分の闇は見えているだろう。ぼんやりと、ニールが自分の背後を眺めて苦笑している。それから、視線を刹那に合わせる。
「嘘をつくような用事はないよ。・・・おまえさんの負担は大丈夫か? 」
「ああ、一度や二度では疲れない。ダブルオーの太陽炉のほうが臨界点に達しているから長時間は無理なんだ。だが、もし、一度で完治できなかったら、何度でもやる。あんたを治すまで続けるつもりだ。」
「あはは・・・ありがとう、無理しない程度でいいよ。刹那の身体のほうが大切だ。」
 緑の粒子に包まれて、そして、手を延ばしてきた刹那の手と触れ合うように重ねる。実体はなく精神的な接触だからなのか体温は感じない。だが、ふわりと温かいものが、ニールの身体に満たされていく。すると、周辺の声が聞こえ始めた。ドクターの「なんだ? これは? 」 という慌てた声や、ハイネの、「意味わかんねぇー。」 という不思議がっている声が届いて、頬が緩む。
「あんたにも聞こえるのか? 」
「ああ、聞こえた。おまえさんは、こんなの聞いているのか? 」
「この状態の時は、聞こえる。普段は、意識を切っているから聞こえないが、聞こうと思えば聞こえる。」
「これがイノベーターの能力なんだな? 刹那。」
「そうであるらしい。」
「でも、これって戦場の場合は、敵の声も聞こえるってことだよな? 」
 今は、周辺に悪意や敵意のある人間が居ないから穏やかな声だが、戦場なら、とんでもないことになるんだろう。敵の呪詛するような声や断末魔の声も拾ってしまうはずだ。
「全部が聞こえるわけではないが、概ね聞こえている。」
 刹那は静かに頷く。ちょっと困ったように笑っているので、ニールが考える通りなのだろう。脳量子波を使うということは、瞬時に相手と繋がることだが、本音だけが聞こえてくるのは、とても苦しいだろう。
「なるべく聞こえないように耳を塞いどけ。」
「そうはいかない。これで、解ることは大切だ。」
 それが、その人間の本音だからだ。それが解れば、どうすれば戦わずに交渉できるのかも解る。どうあっても戦わなければならない場合もあるだろうが、些細な諍いなら解消できる優れものではあるのだ。
 刹那から流れてくる気持ちは、「治したい。」「生きていて欲しい。」 というニールに向けられたものだ。それを聞いているだけで、嬉しい気分になる。
 対して、刹那が聞いているニールの心は、やっぱり、「生きていて欲しい。」 というもので、刹那も心が温かくなる。過去のことは、断片的にイメージとして流れてくるが、聞いていたものだ。だから、驚く内容のものはない。 
 あのテロの後、ニールが見ていた景色に心を留めた。そこは荒涼とした廃墟で、周囲には死体が収納されていると思しき袋が延々と並んでいた。ニールをマイスターにした原因が、ここにある。
 刹那の心の風景も似たようなものだ。廃墟に敵のMSが展開し、それが銃撃して周辺で爆発が起こる。爆発で、人間の身体がバラバラに飛び散っているが、刹那もニールも見知った光景だ。
 それを、ふたりして互いのものを眺めていた。ライルは見たくないと言ったが、刹那は見てよかったと思っている。外面のいいおかんの内面は想像していたが、実際には知らなかったことだ。互いに知れば、繋がりは一層深くなると思う。刹那の傷を薄れさせてくれたのはニールだ。だから、これから刹那もニールの傷を薄れさせる努力はする。それを決めて、ニールに視線を向ける。
「ニール、あんたが見た光景が二度と誰の目の前にも現れない努力はする。そのために、俺は戦うことを誓うから、あんたは待っててくれ。」
「待っていられる限りは待ってる。それでいいか? 」
「それでいい。」
 抱き締めるように刹那はニールの身体を包むのだが、いかんせん実体ではないから、どちらも擦り抜けてしまう。通り抜ける身体から、温かいものが流れてきて、どちらの身体も温かいものに包まれる。不思議な温かさだな、と、ニールは感じていたが、急速に、それが消えていくことに気付いた。
「すまない、時間がきた。」
「うん、無理しないで止めてくれ。俺のほうはいいから。」
 そうニールが言ったら、刹那は困ったように笑った。どうあっても、自分のおかんは、自分自身より刹那のことなのだ。
作品名:こらぼでほすと 解除9 作家名:篠義