こらぼでほすと 解除9
「わかってる。後でちゃんと逢おう。」
「おう。」
触れ合うように繋がっていた刹那の姿が消えていく。それに伴って、開いていたニールの意識も閉じて行く。ありがとう、と、言葉にできたか定かではないが、ふわりと温かい空気が周囲を廻ったから、それでよしとする。
ハイネが、その空間に取り込まれた時には、すでに刹那とニールは二人して空間に浮かんでいた。それも、ふたりの透き通るような姿が重なっていた。話し声は、意識を向ければ聞こえてくる。どちらもが、どちらものことを想っている優しい空気だ。これが治療なのだとしたら、治るだろうとはハイネも思う。極力、邪魔しないように自分の意識は縮めた形にした。
だが、刹那が、「ニールには聞こえないから大丈夫だ。」 と、声をかけてきた。刹那が作り出しているから、空間も刹那の考えるように支配できるらしい。イノベーターの力の具現は凄まじいと感心しつつ、ぼんやりと、その空間に漂っていると、急速に空間が閉じ始める。終わりの時間がきたのだろう。長時間はできないとは聞いていたが、時間は十分程度だ。ゆっくりと空間が閉じて、意識が切り替わると、ちゃんと民間船の操縦席に座っていた。船内の状況を、素早くチェックすると、どこにも問題はない。
「ドクター、生きてるか? 」
船内通信で、ドクターを呼び出したら、あちらも無事な様子だ。話には聞いていたが、体験すると驚くものだ、という素直な感想が流れてきた。
「機器のほうは問題はない。・・・これから、ニールのチェックをする。」
「お願いします。一端、組織のドックへ入港しますんで、到着したら連絡します。」
トランザムバーストは、すぐに続いてできるものではない。だから、ニールの検査をする間は、一端、組織に引き上げることになっている。ダブルオーは、民間船の側で待っていたが、ハイネが、「案内よろしく。」 と、通信すると、すぐに目標座標を送って来た。それを取り込んで、航路設定すると、ダブルオーが先導する形で動き出す。一度で完治させられていればいいんだが、と、考えつつ、ハイネも、操縦に専念した。
組織のドックは外見からは、ただの資源衛星だ。ドック自体に隠蔽皮膜を被せてあるから入り口すら見えない。侵入ポイントの座標と、そこに入れるパスワードがなければ、誘導すら受けられない。ダブルオーが先導する形で、ドックへ侵入する。そこから、ニールの入った医療ポッドは、ドックの医療ルームへ搬送された。そちらて遺伝子段階の異常についてのチェックをするためだ。
後から周辺の警戒をしていたケルビィムたちマイスター組のMSも戻って来た。ハイネが民間船のエンジンを切って、ドックに出ると、アレルヤが待っていた。
「お疲れ様、ハイネ。」
「久しぶり、アレルヤ。医療ルームへ案内してくれるか? 」
「もちろん。」
「他のは? 」
「医療ルームにすっ飛んで行っちゃった。まだ、ニールの目は覚めてないのにね。」
アレルヤはおかしそうに笑って、通路へ案内する。子猫どもは、慌てて医療ルームへ走ったらしい。まだだって、と、ハイネも笑いつつ、後に続く。ドクターの助手としての仕事をハイネが受け持つことになっている。こちらにもドクターと看護士はいるだろうから、それほど忙しいことはない。今現在、ニールの遺伝子情報のチェックを行なっているはずだ。これは、何時間かかかるはずだから、慌てて医療ルームに向かっても、まだニールの目は覚めているわけではないのだ。
途中で、ロックオンも待っていて一緒になった。こちらも気楽な雰囲気だ。
「なんかいろいろとあったんだって? 」
「ああ、おまえの兄貴の貧乏くじは半端なもんじゃねぇーと実感したよ。」
「くくくく・・・ニールの貧乏くじって強烈だもんね。」
「そうなのか? あの人、悪運は強いと思うけどさ。」
「悪運と言い換えてもいいけどさ。・・・・まあ、なんとかなったさ。」
「キラのエゲつない攻撃のお陰だろうな。あいつ、ほんと、とんでもないな? ハイネ。空母を一隻完全に破壊しただろ? 」
「それぐらいはしておかないと、後々、同じことをやりやがるんだよ。空母一隻で済んで、万々歳と思ってるだろうぜ? 」
被害が空母一隻なら安いものだ。だが、それだけでは済んでいない。漏れた情報は、それぞれが極秘事項のもので、これについての事態の収拾には、かなりの時間がかかるだろうし、首脳陣の責任問題にも発展する。この騒ぎが鎮まるには、かなりの時間がかかる。情報統制を外れた情報が、敵味方関係なく流出しているからだ。
「僕は、どっちでもいいよ。あのさ、ハイネ。ニールの治療が終わったら、ちょっとイベントやるつもりだから。」
「イベント? 」
「うん、ちょうど今日、ティエリアの誕生日なんだ。もし、一回で完治できてたら、今日、誕生日のお祝いをするからね。二回目も必要なら二回目の後になる。」
「ああ、そういうことならオッケーだ。六日間ぐらい滞在させてもらうからさ。その間なら問題ない。」
完治していなければ、二日後に再度、トランザムバーストを行なう。それでもダメなら一日おきに、ということになっている。ダブルオー自体は整備すれば、すぐに次のトランザムバーストを行なえるのだが、ニールの身体のメディカルチェックに時間がかかるから、そういう段取りになっていた。メディカルチェックだけでも数時間かかるし、それから目を覚まさせるには、さらに時間が必要だから、その時間が一日ぐらいは必要だという判断だった。
「ハイネ、その間は暇だろ? うちの仕事も手伝ってくれるのか? 」
「どうだろうなあ。ママニャンが目を覚ましたら、あっちについてるつもりだけどな。・・・もし、完治してなかったら、整備ぐらいは手伝うぜ。」
「付き添いは、うちのダーリンとか、ティエリアがやるから、あんたの出る幕はないんじゃね? 」
「実務がなければな。メシ食わせたりできるなら任せるけど、栄養補給を点滴でやるなら、俺が担当だ。」
「それって、どうなの? 」
「だから、意識が戻っても、食事ができる状態でないなら、無理に補給ってとこだ。だから、目が覚めないと、なんともいえない。」
「ケーキ食べられるといいな。」
アレルヤは、お祝いのケーキを輸送隊にリクエストしておいた。時間的に、どうなるか不明だったから、アイスケーキにしておいた。それを少しぐらい口にしてお祝いして欲しいと思っていた。
「ダメなら、俺がママニャンの代わりに食うぜ? アレルヤ。」
「そんなの意味が無いよ。」
「まあ、おまえらのママニャンは、無理にでも口にするだろうさ。」
体調が悪かろうが、そういうことならニールは、無理してでも口にするだろう。ティエリアのお祝いだと言われたら、とても喜ぶに違いない。ニールも、そのことは気にしていたのをハイネは知っていたからだ。
作品名:こらぼでほすと 解除9 作家名:篠義