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花は桜木

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淀の方の元を退出した三成を、正家が仏頂面で待ち構えていた。
「会うたか、成田のに」
「会うた。なんというか、なかなかおもしろき人よの」
「そうか。わしには話どころか名乗りもなかったぞ」
正家はふん、と鼻を鳴らしながらも、少々の好奇心を押さえられない様子で三成に尋ねた。
「で、話してみてどうだ、どのような者だったのだ」
「どのような、と言われてもなあ」
腕組みをして少々考えた三成はおもむろに口を開いた。
「喩えるなら、そうだのう。さしずめ、やまざ」
「いやいやいや待て待て治部よ。……さすがにおなごを山猿呼ばわりは如何なものぞ」
三成の言葉尻をかき消した後で正家はぼそぼそと囁いたが、三成は怪訝そうに正家を一瞥した。
「は? 何を言うておる。山桜、と申したのだ。人の手が入らずとも強く美しく咲き誇る桜よ。しかしながら人の目に触れずしてその美しさは伝わらぬ」
「おい、まさかとは思うが、お主あの女に懸想など」
「するかよ。しかしまあ、ああいう御仁が男でなく、しかも殿下のお側にいる現在を感謝せねばなるまいよ。肥後や伊予を向こうに回すよりは余程厄介なお人じゃ、あれは」
目を白黒させる正家を尻目に、三成は淀の方の言葉を思い返していた。
『この方には真実しかないの。全て真実』
方向の違う道理をすべて腹の中に収めながらああも真っ直ぐでいられるなぞ男子(おのこ)にはなかなか出来ぬわい、と三成は肩を竦めた。
「花は桜木、とはよく言うたものよ。我らも斯くありたきものだな」
三成は一面の桜を見上げ、一休禅師の言葉を引いた。
『花は桜木、人は武士、柱は檜、魚は鯛、 小袖はもみじ、花はみよしの』
それは、最も優れているとされるものの喩えであった。

醍醐の花見から半年後、太閤秀吉が死去。
翌年、天下を二分する関ヶ原の合戦で三成が中心となった西軍は敗れ、敗軍の将として三成は処刑された。最期まで三成は大将として、武士の矜持を貫いたと後の記録に残されている。
作品名:花は桜木 作家名:河口