こらぼでほすと 解除11
とりあえず、ロックオンの私室へ案内してもらった。靴もないのだから、散歩するなら、それを借りることからになる。スメラギとラッセは、トレミーで待機しているから、そちらが起きているかを、フェルトが確認に行った。他は着替えまで鑑賞するつもりはないから、ブリーフィングルームで待つことにした。
「下着も変える? 」
「いや、そこまではいいよ。」
「じゃあ、とりあえず一式。パジャマはランドリーしとけば、明日には綺麗になってるからさ。」
ロックオンの制服一式を借り受けると着替える。伸縮性の高い素材だから、多少の大きさの違いは、なんともない。ただ、腰周りとか背中の部分なんかは、かなりスカスカで、ロックオンも、そうくるか、と、感じるほどの差があった。
「やっぱ、筋肉がないんだな。」
当人も、そこいらは解るから苦笑している。
「私服のほうがサイズ合うかもな。後で、そっちも貸すよ。」
「いや、どうせ検査だなんだとやられるから、いざとなったら、こっちの検査着でも借りる。・・・・なあ、ライル。トランザムバーストって、刹那の身体に負担はないのか? 」
「ないとは言わないけど、できるのは刹那だけだ。あんたが心臓を止めるぐらいなら、俺も刹那にちょっと無理してでもやって欲しいって願うぜ? 」
「・・うん、まあ、そうだけどさ。でもな・・・」
「命を削ってるとかいう類の負担じゃない。集中力を高めるみたいだから、精神的に疲れるらしいよ。」
「なら、いいんだけど。イアンのおやっさんは留守なのか? 」
「ああ、イアンは開発部門で新しいMSのほうをやってるよ。ミレイナも、そっちに行ってて留守なんだ。」
会話しながら、ニールが制服を着ていく。鏡を見ている気分だが、やはり自分よりひと回りほど身体が小さいという印象だ。
「俺、ティエリアが泣くのは初めて見たよ。それに、リジェネもさ。」
ロックオンは、ティエリアが嗚咽するのなんて見たことがなかった。ものすごくプライドの高いティエリアが人前で泣くなんて思いもしなかったし、立体映像で、ひょいっと現れたリジェネにも、びっくりした。
「あいつら、泣き虫なんだぜ? ミッションなら泣いてる暇なんかないけど、日常じゃ、わりと泣くんだ。」
ぴしっと制服を着終えると、ニールがくるりと自分を見回している。以前は制服がなかったから、気楽な格好だった。制服を着ると、なんだか気持ちも引き締まる気がするから不思議だ。
「それは、あんたがいるからだろ? ・・・あんま似合ってないな? 兄さん。」
「そうだろうなあ。俺、制服着たことない。」
「え? 」
「俺が居た頃は、制服なんてなかったんだよ。」
「そういや、ハロの映像の兄さんって、暑いんだか寒いんだか、よくわからん格好してたな。」
ハロに残されていた過去の映像は、ロックオンも見たことがある。センスが悪いとツッコミしていたのは、実兄の格好だ。
「あれは、ベストにいろいろと細工してあったからだ。銃弾と銃を隠すために、裁断から考えられてた服だったんだよ。」
商売柄の服というものがある。ニールの職業は、武器を隠す場所が必要だったから、そういう衣装を用意していた。それの習いで、そういう格好をしていた。見た目がどうとかいうことではなく、実用性の問題があったから、暑いんだか寒いんだかわからないなんてことになっていたのだ。
「ああ、なるほど納得。」
周囲をぐるっと見渡して、ニールはベッドに腰掛ける。以前のトレミーの個室と変わらない設備だから錯覚しそうになる。
「設備とかは、変わってないんだな。」
「そうなの? 俺は旧型のほうは知らないんだけど。」
「ああ、部屋の配置なんかは、まんまだよ。・・・他は最新鋭になってんだろうけどな。」
ロックオンも、その隣りに座る。靴を用意して、ほれ、と、勧めると、ニールも、それを履く。用意できたが、ニールは、そのまんまベッドに倒れこんだ。
「大丈夫か? 」
「・・うん・・・帰って来られるとは思わなかったな。不思議な気分だ。」
「いや、あんたは帰って来たわけじゃないぞ? ただのお客さんだ。ここは、俺の部屋。」
デュナメスの帰還をハロに命じた段階で、ニールは帰ることはないと思っていた。どう考えても、戻れる状態ではなかったし、帰る術もなかったからだ。それが、生き延びて治療まで受けているのが、不思議な気分だ。もしかして、天国で夢でも見てるんじゃないか? と、疑いたくなる。
「・・・わかってるよ。おまえと、こんなふうに、ここで話せてるのが、何より現実だ。」
逢えるはずがなかった実弟と、ここで話しているのは夢ではない。そんな都合のいい夢はないだろう。横から顔を眺めて苦笑している実弟の顔を、まじまじと眺めて、少し視野が広いと感じた。手を延ばして、実弟の頬に触れると、ちゃんと外れずに触れられる。試しに左目を閉じたら、ぼんやりとだが、実弟の顔が見えている。
「・・あれ? 」
「どうした? 兄さん。」
「右の視力が、ちょっと回復してる。・・・ほら、左目を隠しても、おまえの顔がぼんやりとだが見えるよ。」
左手で左目を塞いでも、暗闇にならない。ぼんやりと霞んではいるが、実弟の顔が判る。
「トランザムバーストで回復したってこと? 」
「それしかないな。俺、本宅で寝るまでは、右はまったく見えてなかった。うすらぼんやりとしてるけど、今は見えてる。」
左目を塞いだままでも、ライルの鼻を摘めるぐらいには見えている。遺伝子情報の異常が治療されたことで、多少、視力も回復したらしい。ロックオンが、実兄の顔を覗くと、ピーコックブルーの一対の瞳は、ちゃんと虹彩が動いて、こちらに向いているのがわかる。以前は、一方は無反応だったから、治っていると、ロックオンにも判る。
「おーすげぇーなー。」
「な? 」
二人して視力が回復したことを確認していたら、扉が開いた。刹那が待ちきれなくて乱入してきた。そして、ベッドに横たわる瓜二つの姿に、微妙に眉間の皺を深くする。
「ロックオン、実兄を襲うのは感心しない。ニールは亭主持ちだ。」
で、ほとんど瓜二つのディランディーズの片方を、べりっと引き剥がした。もちろん、乱暴に引き剥がしたほうが、刹那の嫁だ。
「襲ってない。俺は近親相姦に興味はないんです。だいたい、自分と同じ顔なんて抱いたら、気持ち悪いってーのっっ。」
「酷い言われ様だな? ライル。俺だって、同じ顔に襲われるなんて勘弁願いたいぞ。・・・・違うんだ、刹那。おまえが治療してくれたお陰で、右目が少し見えるようになったんだ。」
「なに? 」
刹那も、ニールの顔を上から覗き込む。確かに両目とも、焦点が合って刹那の顔を見ている。綺麗なピーコックブルーの瞳が、どちらも生きている証拠だ。
「本当だ。ニールの両目が動いている。」
がばりと上から抱き締めて、刹那も興奮している。遺伝子情報なんてものは、検査結果が出ても実際、治ったかどうかなんて見た目には現れない。だが、視力が回復するということは、確実に治療は効果があったということだ。
「これで、俺の杖代わりもしてくれなくていいぞ? 刹那。」
「ああ、そうだな、ニール。・・・よかった、あんたが治っていることが、はっきりと判った。」
「下着も変える? 」
「いや、そこまではいいよ。」
「じゃあ、とりあえず一式。パジャマはランドリーしとけば、明日には綺麗になってるからさ。」
ロックオンの制服一式を借り受けると着替える。伸縮性の高い素材だから、多少の大きさの違いは、なんともない。ただ、腰周りとか背中の部分なんかは、かなりスカスカで、ロックオンも、そうくるか、と、感じるほどの差があった。
「やっぱ、筋肉がないんだな。」
当人も、そこいらは解るから苦笑している。
「私服のほうがサイズ合うかもな。後で、そっちも貸すよ。」
「いや、どうせ検査だなんだとやられるから、いざとなったら、こっちの検査着でも借りる。・・・・なあ、ライル。トランザムバーストって、刹那の身体に負担はないのか? 」
「ないとは言わないけど、できるのは刹那だけだ。あんたが心臓を止めるぐらいなら、俺も刹那にちょっと無理してでもやって欲しいって願うぜ? 」
「・・うん、まあ、そうだけどさ。でもな・・・」
「命を削ってるとかいう類の負担じゃない。集中力を高めるみたいだから、精神的に疲れるらしいよ。」
「なら、いいんだけど。イアンのおやっさんは留守なのか? 」
「ああ、イアンは開発部門で新しいMSのほうをやってるよ。ミレイナも、そっちに行ってて留守なんだ。」
会話しながら、ニールが制服を着ていく。鏡を見ている気分だが、やはり自分よりひと回りほど身体が小さいという印象だ。
「俺、ティエリアが泣くのは初めて見たよ。それに、リジェネもさ。」
ロックオンは、ティエリアが嗚咽するのなんて見たことがなかった。ものすごくプライドの高いティエリアが人前で泣くなんて思いもしなかったし、立体映像で、ひょいっと現れたリジェネにも、びっくりした。
「あいつら、泣き虫なんだぜ? ミッションなら泣いてる暇なんかないけど、日常じゃ、わりと泣くんだ。」
ぴしっと制服を着終えると、ニールがくるりと自分を見回している。以前は制服がなかったから、気楽な格好だった。制服を着ると、なんだか気持ちも引き締まる気がするから不思議だ。
「それは、あんたがいるからだろ? ・・・あんま似合ってないな? 兄さん。」
「そうだろうなあ。俺、制服着たことない。」
「え? 」
「俺が居た頃は、制服なんてなかったんだよ。」
「そういや、ハロの映像の兄さんって、暑いんだか寒いんだか、よくわからん格好してたな。」
ハロに残されていた過去の映像は、ロックオンも見たことがある。センスが悪いとツッコミしていたのは、実兄の格好だ。
「あれは、ベストにいろいろと細工してあったからだ。銃弾と銃を隠すために、裁断から考えられてた服だったんだよ。」
商売柄の服というものがある。ニールの職業は、武器を隠す場所が必要だったから、そういう衣装を用意していた。それの習いで、そういう格好をしていた。見た目がどうとかいうことではなく、実用性の問題があったから、暑いんだか寒いんだかわからないなんてことになっていたのだ。
「ああ、なるほど納得。」
周囲をぐるっと見渡して、ニールはベッドに腰掛ける。以前のトレミーの個室と変わらない設備だから錯覚しそうになる。
「設備とかは、変わってないんだな。」
「そうなの? 俺は旧型のほうは知らないんだけど。」
「ああ、部屋の配置なんかは、まんまだよ。・・・他は最新鋭になってんだろうけどな。」
ロックオンも、その隣りに座る。靴を用意して、ほれ、と、勧めると、ニールも、それを履く。用意できたが、ニールは、そのまんまベッドに倒れこんだ。
「大丈夫か? 」
「・・うん・・・帰って来られるとは思わなかったな。不思議な気分だ。」
「いや、あんたは帰って来たわけじゃないぞ? ただのお客さんだ。ここは、俺の部屋。」
デュナメスの帰還をハロに命じた段階で、ニールは帰ることはないと思っていた。どう考えても、戻れる状態ではなかったし、帰る術もなかったからだ。それが、生き延びて治療まで受けているのが、不思議な気分だ。もしかして、天国で夢でも見てるんじゃないか? と、疑いたくなる。
「・・・わかってるよ。おまえと、こんなふうに、ここで話せてるのが、何より現実だ。」
逢えるはずがなかった実弟と、ここで話しているのは夢ではない。そんな都合のいい夢はないだろう。横から顔を眺めて苦笑している実弟の顔を、まじまじと眺めて、少し視野が広いと感じた。手を延ばして、実弟の頬に触れると、ちゃんと外れずに触れられる。試しに左目を閉じたら、ぼんやりとだが、実弟の顔が見えている。
「・・あれ? 」
「どうした? 兄さん。」
「右の視力が、ちょっと回復してる。・・・ほら、左目を隠しても、おまえの顔がぼんやりとだが見えるよ。」
左手で左目を塞いでも、暗闇にならない。ぼんやりと霞んではいるが、実弟の顔が判る。
「トランザムバーストで回復したってこと? 」
「それしかないな。俺、本宅で寝るまでは、右はまったく見えてなかった。うすらぼんやりとしてるけど、今は見えてる。」
左目を塞いだままでも、ライルの鼻を摘めるぐらいには見えている。遺伝子情報の異常が治療されたことで、多少、視力も回復したらしい。ロックオンが、実兄の顔を覗くと、ピーコックブルーの一対の瞳は、ちゃんと虹彩が動いて、こちらに向いているのがわかる。以前は、一方は無反応だったから、治っていると、ロックオンにも判る。
「おーすげぇーなー。」
「な? 」
二人して視力が回復したことを確認していたら、扉が開いた。刹那が待ちきれなくて乱入してきた。そして、ベッドに横たわる瓜二つの姿に、微妙に眉間の皺を深くする。
「ロックオン、実兄を襲うのは感心しない。ニールは亭主持ちだ。」
で、ほとんど瓜二つのディランディーズの片方を、べりっと引き剥がした。もちろん、乱暴に引き剥がしたほうが、刹那の嫁だ。
「襲ってない。俺は近親相姦に興味はないんです。だいたい、自分と同じ顔なんて抱いたら、気持ち悪いってーのっっ。」
「酷い言われ様だな? ライル。俺だって、同じ顔に襲われるなんて勘弁願いたいぞ。・・・・違うんだ、刹那。おまえが治療してくれたお陰で、右目が少し見えるようになったんだ。」
「なに? 」
刹那も、ニールの顔を上から覗き込む。確かに両目とも、焦点が合って刹那の顔を見ている。綺麗なピーコックブルーの瞳が、どちらも生きている証拠だ。
「本当だ。ニールの両目が動いている。」
がばりと上から抱き締めて、刹那も興奮している。遺伝子情報なんてものは、検査結果が出ても実際、治ったかどうかなんて見た目には現れない。だが、視力が回復するということは、確実に治療は効果があったということだ。
「これで、俺の杖代わりもしてくれなくていいぞ? 刹那。」
「ああ、そうだな、ニール。・・・よかった、あんたが治っていることが、はっきりと判った。」
作品名:こらぼでほすと 解除11 作家名:篠義