こらぼでほすと 解除11
「ああ? ロックオンはいい。ニールを出せ、ニールを。」
「あ、おやっさん? 俺、ニールなんだが? 」
「はあ? なんで、仮装なんかしとるんだ。おまえさんは組織から外れただろうがっっ。」
「いや、着る物がないからライルに借りたんだよ。・・・久しぶり。」
さすがに離れていると、判別が難しいらしい。ニールだと判って、イアンのほうも大笑いだ。
「ぬぁーにが、久しぶりだっっ? おまえ、デュナメスを再生できんほどにボロボロにして雲隠れとは、いい度胸だな。」
「・・・あーすいません。それについては謝ります。」
「それも、わしがおらん時にトレミーに戻って来るとは・・・」
「いや、それは俺が予定を組んでるわけじゃないから。・・・いろいろと迷惑かけてごめん、おやっさん。」
「なんだ? しおらしい態度じゃないか? そんな侘びぐらいじゃ許さんからな。フェルトが、どれだけ泣いたと思っとるんだ? 生きてるなら、さっさと報せろ。」
「そう言われても・・・俺、拾われた時は9割方死んでたらしいんで。」
「わかっとるわいっっ。・・・相変わらずだな? まあ、生きててよかった。モレノのやつも大概に薄情だったが、三発で勘弁してやったんだ。だから、おまえさんも三発だからな。」
「はいはい、謹んでお受けします。おやっさんも無事でよかった。」
「当たり前だ。わしは、可愛い娘の花嫁姿を見るまでは死ぬつもりはない。」
「ミレイナのか? それより、ミレイナの相手をボコボコにすんじゃねぇーのか? 」
「わしのメガネに叶わなければ、そうなる。」
「誰であろうと絶対にメガネに叶わないんだろ? ミレイナも大変だな? 」
あははは・・・と、ニールがテンポ良くイアンと掛け合い漫才のようなトークを展開する。イアンのほうも、ニールとなら慣れたものだ。あちらも、がはははは、と、大笑いしている。
「おまえさんだって、フェルトの相手には厳しいんじゃないのか? 」
「いやいや、フェルトはしっかりしてるからさ。俺なんかより、人を見る目は確かだよ。」
「そうやって、余裕をこいとるのも、いまのうちだ。・・・まあ、無事で何よりだ。」
「おやっさんもな。」
本当に、よく生き延びてるな、と、どっちも感心して笑い出す。ニールが、こちらに戻ると聞いて、フェルトに通信を繋げてもらったのだそうだ。ひとしきり近況について話すと、切れた。あちらは忙しいらしい。新しい機体を製作している陣頭指揮ともなると、おちおち休んでもいられないのだろう。
「さあて、通信も終わったし、お茶でも飲みましょう。まあ、あたしは酒盛りだけどね。」
イアンも話したいと言うから、ブリーフィングルームにやってきただけだから、それが終われば、のんびりと食堂で四方山話でもしましょう、と、スメラギが号令を掛ける。アレルヤとフェルトが準備のために、先に飛び出した。アイスケーキだけだが、ティエリアのお祝いをするためだ。
医療ルームで待機していたハイネの許へ、ロックオンが通信を繋いできた。食堂で騒いでいたら、ニールが眠いというので、そのままロックオンの部屋で休んでいる、という報告だ。
「別に、構わないぜ。手首にバイタルサインを確認するリングはつけてるから、何かあったら走る。」
「・・・まだ、結果は出ないのか? 」
「まだ、みたいだな。」
「交代しようか? ハイネ。」
「いや、ここで仮眠しつつ待機してる。ママニャンのほうを頼む。もし、明日、メシを食いたくないとぬかしたら、連絡くれ。栄養補給させるからさ。」
「わかった。連絡する。」
さすがに、全身からサンプリングしたからデータの解析には時間がかかる。明日の朝には結果が出ているだろうぐらいのことだから、ハイネも、ニールが寝ていたベッドに寝転がって連絡を受けている。ようやく、ぐっすりと寝られる状態だ。解析結果が出たら、携帯端末が呼び出してくれるようにセットした。やでやで、と、目を閉じると、勝手に寝られる。
ハイネの携帯端末が鳴り響いたのは、それから三時間後だった。結果としては、異常は見られないというもので、満足できる結果だった。まあ、どちらにせよ、名目上はトランザムバースト状態の数値計測だから、もう一度くらいはやる予定だ。念のためということで、ニールにGN粒子を再度浴びせることも予定している。
結果のデータを暗号通信に変換して、『吉祥富貴』のターミナルに送った。そこからは、キラが拾い上げて、各関係者に送ってくれる。これで、『吉祥富貴』の面々も安堵することだろう。
・・・・これで、生き永らえるのは確定だ、ママニャン。おめでとさん・・・・
通信した携帯端末で、ニールのバイタルサインの確認をして、ハイネも微笑む。体力的には、現役当時のようにはいかないだろうが、それでも気圧変化による体調不良は改善されるはずだ。
ヴェーダで、ちょこまかと働いていたリジェネも、検査結果には小躍りした。これで完治したも同然だ。これから徐々に体力を回復させれば、ママは普通の生活が可能になる。うふふふ・・と笑って、ひとつのデータを取り出して眺めて、また笑った。そのデータは、アレルヤが送ってくれたもので、誕生日を祝うカードだったからだ。リジェネ自身も、いつ生まれたかなんてことは把握していない。製造された日というのはあるのだろうが、意識が宿ったのとは日が違うし、たぶん、ティエリアとも、その日は違うはずだ。だが、アレルヤもママも、ティエリアとリジェネは双子という人間らしい括りで認識しているから、ティエリアが口にした日を誕生日として寿いでくれた。生まれた日を祝う意味を知らなかったが、アレルヤやママと出会える機会が訪れた日だと言われると、確かにおめでたいことだと今は思える。
「そうだよね。この世界の、この時間に存在するから、僕にはティエリアがいて、アレルヤたちやママがいるんだもんね。」
誕生することの意味を理解して、リジェネも嬉しいと思う。イノベイドは人類を変革へ導く水先案内人としての使命をもって製造されるが、それだけではない。イノベイド個人個人が、繋がる人間との縁のようなものがあって、それによってイノベイドも変化していくのだ。リボンズが歪んだものに変わってしまったのも、そういうもののひとつだろう。存在を認めて、共に生きていくことを喜んでくれる相手があれば、リボンズも、人類を統制しようなんて考えなかったかもしれない。
リジェネだって、ママやアレルヤと出会っていなければ、リボンズのように感じていたかもしれない。そう思えば、リジェネ自身は幸せな出会いができたのだと感謝する。
「とりあえず、ママと一緒に降りられるように僕もプラントからエターナルに乗せてもらおう。」
ティエリアがヴェーダから離れるので、リジェネも一緒に離れる。そうすれば、どちらもヴェーダに直接、意識を置けないから、どちらもがヴェーダを乗っ取ったりできないからだ。
歌姫に、連絡しておけばいいだろう、と、メールを送りつけたら、すかさず返信が来た。ママの身体は、どうだ? というものだ。
「大丈夫だよ、ラクス。ママの遺伝子情報の異常は完治した。たぶん、キラから連絡が入るはずだ。もう、何も心配しなくても大丈夫。」
作品名:こらぼでほすと 解除11 作家名:篠義