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とある世界の重力掌握

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「くそ....なにが守るだ.....結局僕は傷つけるだけじゃないか.....」病院のベッドに横たわる佐天を前に護は立ち尽くしていた。

 未明に行われた『ウォール』によるCIA武装工作員掃討作戦は無事に成功し構成員たちは各々の居場所に戻って行った。

「護.....辛いのはわかる......でも.....ここに立ち尽くしても.......その子は......それにこれは避けられなかった.....」

護に声を掛けるのは同じ『ウォール』の構成員の1人、竜崎哀歌。

 彼女がなぜ護についているのかというと、じつは哀歌は護と現在同居中だからなのだ。

 とある事情により学園都市内に住処を持たない哀歌は護の提案により、彼の家に住み込みで家事等を手伝うことを条件に同居しているのだ。

「分かってる.....分かってるよ哀歌。だけど、だけどそれでも僕は.....自分が許せない.....」

護達が掃討作戦を行っていたとき、佐天は幻想御手(レベルアッパー)を使いその後意識不明となった。

 そこまでは原作の通りであり、仕方ない面も少なからずあった。

だが1つ違うことがあったのだ。

それは佐天が幻想御手に手を出した理由である。

 元からあった能力者への劣等感に加えて、役立たずな自分のせいで大事な人に苦しんで欲しくないというのが理由だったと電話越しに対話した初春は言っていた。

 つまり、今回の出来事で護は佐天を守ろうと動いて結局彼女を追い詰め、彼女の悲劇への道を後押しすることになってしまったのだ。

「結局、僕は佐天さんを守ると決意しておきながら、善意の押し売りで彼女を追い詰めてただけだったんだ.....」

その事実に気づくのが遅すぎたことを後悔しても手遅れだ。

「それでも.......護は.......その子を助けたいんでしょ?.......その子の前で.....謝って.....自分の過ちを悔いて.....ありのままの気持ちを伝えたいんでしょう?.......」

 護が心の底で願っていることを浮き彫りにしていく哀歌。

「護が選ぶべき道は.....2つ。一生.......そこで立ち尽くして.....後悔しつづけるか......それとも自分の過ちを踏まえた上でそれを償う為立ち上がるか......護はどちらを選ぶ?」問いかけつつ指を2本立てる哀歌。

「僕は......」

護の瞳が揺れる、二つの道の狭間で翻弄されるかのように。

「僕は....」

翻弄されながら護は自らの決断を下す。それは........


「さてと......来てはみたけど......事件性の欠片もない......と。護が言うからには.......なにか起こるのだろうけど.....」

哀歌は護が示した事件が発生する可能性がある場所、つまり学園都市に無数に走る高速道路の1つだった。

 護が下した結論は、事件の元凶の排除。即ち真犯人たる木山春生を抑えることだった。だがとある用事の為にすぐには現場に駆けつけられない。

 そこで哀歌が、(護の下手くそな絵を頼りに)事件が起こるであろう現場に先回りし、リスクを排除し同時に足止めすることになったのだ。そのリスクとは風紀委員(ジャッジメント)の初春が人質となっていることだ。

 可能なら初春を救助し、その上で安全な場所に避難させる。それが叶わない場合、最悪木山の注意をこちらにそらせ、そのすきに初春に自力で逃げるよう促すことになっていた。

「にしても.....護の予知......前からおかしいとは......思っていたけど......まさか.....異世界から.....来たなんて.....反則よ.....」

 事件発生場所を伝える祭、護は他言無用と念をおした上で自らの秘密を伝えていた。

「普通は.....信じられないけど.....今までの実例と......私自身の例もあるし......護の言うとおり事件が起きれば......その事実は確定する.....」

 哀歌は空を見上げた、すみ渡る青空はこれから起こるかもしれない事件などまるで感じさせない。

「秘密.....か.....私も.....護に話さなきゃ......いけないよね....」

悲しげにため息を漏らす哀歌。

そこで哀歌の耳は、猛スピードで近づいてくる車のエンジン音を捉えた。

「来た!」

接近を察知した哀歌は高架道路に付属する階段に身を潜め様子を伺う。護の話によると木山をまず警備員(アンチスキル)の部隊が止めようとするらしい。だが敵わず蹴散らされ、ほぼ壊滅状態となるらしい。

 護は、最優先は初春の救助であり警備員の戦いには介入しないよう哀歌に頼んでいた。そして木山の力を確認するよう念をおしていた。

「能力者でもない......ただの研究者なのに......なんで護は.....あそこまで......念を押してたんだろ?」

その理由を聞く前に護はさっさと用事にでかけてしまった。

「まあ.....とりあえず....観戦しますか.....あ....警備員が来た.....」

完全武装の警備員一部隊に警備ロボ複数に背後には装甲車両まで控えている。

「これだけの部隊相手に......あの研究者が......事件を起こせるはずが.......ん?....」

警備員に前方を塞がれ逃げ場を失った研究者が車から降りて来た。事前にデータで確認した通りの顔、木山春生だ。

「まさか....本気で....完全武装の警備員相手に.....やり合うつもりなの?.....」

困惑する哀歌の目は次の瞬間信じられないものを目にした。

 木山の目が真っ赤に染まった。そして包囲している警備員の1人が自らの仲間に向けて銃弾を放ったのだ。

「な?!.....このタイミングで....仲間割れ....いや違う....あの表情からして.....操られてる.....」

仲間に向けて銃弾を放った隊員は驚愕の表情を浮かべていた。おそらく彼の意思で放ったわけでさないのだろう。

「となると......クリスのような.....念動能力系の力?.....警備員に使えるはずがないから......あの木山とかいう研究者が使ったとしか考えられないけど.....」

 哀歌が思案を巡らす間にも警備員と木山との戦いは続く。警備員たちは木山に向けて猛烈な射撃を加えるが、なにをどうしているのか木山の前の地面が隆起し盾となる。

 お返しとばかりに木山が突き出した右手から凄まじい渦巻きのような水流が放たれ警備員たちを吹き飛ばす。

 慌てて、警備ロボを前に出せば手から放たれるレーザーのようなもので円形に切り取られ。残存する警備員が銃を向けようとした途端、木山の手の動きに合わせて、警備員たちがいる場所に向かって一直線上が爆発し彼らを蹴散らす。

 そのすさまじい行いが示すのはただ1つ。

「多重能力者(デュアルスキル).....」

 学園都市内で複数の機関によって研究されながら、『脳への負担が大きすぎる』ため事実上不可能とされている事象。

 それを目の前の木山春生は実現していた。
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン