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とある世界の重力掌握

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「護の言ったとおりになった.....今のままじゃ警備員は撃破される.....本当は助けたいけど......敵の目が警備員に....向いてるうちに初春ちゃんを助けないと.....」

 こっそりと階段を登り、木山が警備員と交戦する脇をすり抜ける形で車に近づく哀歌。攻撃の余波でもくらったのか初春は意識を失っていた。

「まあ.....意識ないほうが....説明する手間が省けるし....後はさっさと安全地帯へ.....」

「おや、どこから現れたのかな?君は 」

そう簡単に事は運ばなかった。いつの間に警備員を壊滅させた木山が近づいてきていたのだ。

「あの子たちの知り合い....でもなさそうだな....君の顔には憶えがない.....だがその子を助けようとしたということは私が知らぬ仲間というところかな?」

 一歩一歩確実に近づいてくる木山を哀歌は睨みつける。

「あなたに.....教える必要が.....あるとでも....あると思ってるんてすか....」哀歌の返事にすこしため息をつく木山。

「確かにそうだな。ではこれだけ答えてくれないか?君は戦闘系レベル4以上の能力者か?」

「ええ.....まあ....」

木山は薄く笑う。

「そうか、それは良かった」

笑いの意味を理解できない哀歌に向けて木山は答えを突きつける。

「丸腰のレベル1や3だったら私は傷つけることを躊躇っただろうからな 」

 木山の言葉に不穏なものを感じた哀歌が初春を抱えながら上空に飛び上がった瞬間、横の車は凄まじい業火につつまれた。

「(手から火炎を放った.....まるで火炎放射器ね....というか、いったい幾つの力をつかうのよ?!)」

 飛び上がり、いっきに跳躍して高架の下に着地した哀歌はそこの地面に初春をおき、なにやら唱え、再び跳躍し木山の前に立ち塞がる。

「その身体能力....肉体強化系の能力かね?」

「そんな.....ところです.....それはともかく....護が来るまで.....あなたを止めます」

 木山は首を振る。

「君に止められると?」

「止めれるかなんて問題じゃありません......私は止めるために足掻く.....護との約束を果たすために」

哀歌の答えに木山は軽く息を吐く。

「そうか......なら、その決意を実証してみろ!」木山の右手から巨大な火球が放たれる。

「なめるな......私の決意は.....こんなものでは砕けない!」

哀歌の腕の動きに合わせて突如現れた巨大な炎の渦が火球を吹き飛ばし木山に襲い掛かる。

「く!?」

慌てて水流をぶつけ、炎を消しさる木山。だがその時には凄まじいスピードで接近してきた哀歌が懐に回り込んでいる。

「これで.....お終いです.....」慌てて防御の構えをする木山だったがもう遅い。哀歌の拳が木山の腹に直撃する......はずだった。

 だか、次の瞬間哀歌の拳は宙をきった。首をかしげる哀歌は20メートル先にたつ木山を見て原因を知った。

「瞬間移動(テレポート)まで......使ってる......まったくなんでもありみたいね 」

木山は肩をすくめ、苦笑している。

「なんでもありなのは.....そちらもだろう....私のこの力は擬似的に多重能力を再現した多才能力とでもいえる物だが......君の場合は見たところ多重能力者だ。肉体強化に発火能力の同時使用ときた......いったいどんな体の構造をしているか知りたいぐらいだな 」

 木山の言葉に哀歌はわずかに唇を歪める。

「実際は......少し違うけど.....そんなものかも.....手を引く気になった? 」

「まさか.....この程度で私は引かない。いや、引くわけにはいかないのだよ」

 再び放たれる火球。それを避け空中に飛び上がった哀歌。それを見計らったかのように回りに異物が出現する。


「(アルミ缶......空間移動(テレポート)で移したの? でもなぜ....)」

 哀歌の疑問に答えるかのように木山は自らの手の内を明かす。

「すでに分かっているはずだ。 私は複数の能力を自在に扱うことができる。そして私はまだ手の内を全てさらけ出したわけじゃないぞ? 」

「くっ!?」

危険を感じ退避しようとする哀歌。だが回りをアルミ缶に囲まれているうえに、空中では自由に身動きがとれない。

 歯噛みする哀歌に向けて木山は最後の一言を投げかける。

「さらばだ勇敢な少女。君の勇気は立派だったが舞台(ステージ)に立つには早すぎた 」

 その言葉を合図に起爆した無数のアルミ缶は凄まじい爆炎となり空中に毒々しい花弁を咲かす。哀歌の姿をかき消し火炎が爆ぜた。
<章=第十話 とある高架の決戦場>


「終わり....か 」木山は自らがおこした爆炎を苦々しげに見つめた。

「成さねばならぬことがあるためとはいえ......子供を殺すのは気分の良いものではないな....... 」

わずかに後悔の色を滲ませながらも自ら選んだ道を進もうとする木山。

(「たとえ極悪人と呼ばれようとかまわない......これが終わったならどんな罪でも償う。どんな罰でも受ける。それでも今は悪の権化となろうとも成さねならぬことがある!」)

だがその耳に聞こえるはずのない声が飛び込んできた。

「現出せよ!破壊大剣(ディストラクション・ブレード)!」

哀歌の叫びとともに先ほどまで彼女をのみこんでいた爆炎が一気に吹きとばされる。

「なに!? 」木山の驚きは単に彼女が生きていたからだけが原因ではない。それより信じられないのが目の前の少女が片手に全長が3メートルは越そうかという大剣を構えていることだ。


「(いったいどうやってあんなものを保持している?......いやそれ以前にあんなものをどこに隠し持っていた?)」

あまりにも理解不能な状況に混乱する木山を哀歌は上空から睨みつける。その眼に宿るのは『殺意』。

「さすがに......今のは効きました.......でもあれだけじゃ私は倒せない......私の能力は分類上は学園都市の中でもかなり希少な能力とされている『肉体変化(メタモルフォーゼ)』です。そして私の能力に付けられた名は『人外変化』.......その理由(わけ)を見せましょうか?」

哀歌は薄く笑うと自らの『翼』を大きく広げる。

「馬鹿な.....これはいったい...... 」

目の前に広がるありえない事象に木山は困惑していた。最初は肉体強化系の能力者だと思った。

そして発火能力(パイロキネシス)を見せたことによって多重能力者(デュアルスキル)の可能性も考えた。

だが目の前の少女(バケモノ)には、そんな理屈や理論がまるで通じない。

だれが合理的に説明できるだろう。爬虫類じみた『翼』をふるって空中にとどまり、3メートルを超す大剣を片手で構えることが可能な理由を。

「驚いてます?.....当然ですよね......こんな姿を見せちゃ......どんな人でも『バケモノ』と思いますよね......」

右手に構える大剣を高々と振り上げる哀歌。
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン