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とある世界の重力掌握

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「ウウォオオオオオオオオオオアァァァァァ!! 」喉をひきさかんばかりの獣じみた叫びに隊員たちの動きが止まった次の瞬間だった。

上空を舞っていた戦闘ヘリ、六枚羽を含む、無数のヘリがすさまじい速度で地面に叩きつけられた。

「!! 」驚愕する隊員たちだが状況を冷静に確認している暇などなかった。なにしろ次の瞬間、彼らの体は真上から『押し潰されていた』からだ。

装甲車や特殊車両に乗っていたものは車両ごと、生身の者はそのまま全身にかかった異常な圧力によってただの肉塊となった。無数のシミが道路に広がり、包囲しつつあった警備員部隊は壊滅した。


「地獄だ...... 」

後方に控えていた予備部隊を率いる隊長はおのれの不運を呪っていた。


「後方待機と言われたから、戦闘はないと思ってたのにこれじゃああんまりだろうが! 」

嘆く隊長だが、死んでいった隊員たちに対してあまりにも失礼な発言に部下の副隊長がいさめる。

「隊長。そんなことでは、死んでいった仲間が浮かばれません! 予備部隊としての務めを果たしましょう! 」

「馬鹿野郎! 六枚羽まで潰した化け物相手にどうやって戦うつもりだ! 」

「無理を承知で突撃するしかありません! 全部隊前に!特殊音波発射装置搭載車を先頭に進め! 」

隊長を無視する形で副隊長は命令を出した。


特殊音波装置搭載車は、実は先ほどの部隊も装備していた。だが、ろくに使用する前に装甲車とともに飛ばされてしまったのだ。特殊な音波によって能力者の能力の使用を妨害するこの車両は、もはやこの戦いの切り札となっていた。


「目標(ターゲット)は自分か木山が攻撃されるまでは、行動を起こさない!ゆっくりと距離を詰めろ! 」

部隊は特殊音波装置搭載車を先頭に少しずつ、護に近づいていく。


「いまだ! 音波発射! 」有効距離まで近づいた複数の車両から、強力な音波が護に向けて放たれる。

「グ!?ウォオオオオオオ!! 」再び咆哮とともに重力がかかるが、隊員たちを外れて近くの建物を倒壊させる。

「効果ありです! 」

「よし、今のうちに作戦を達成するぞ! 」

一気に士気をあげた隊員たちが木山の確保と、護の処分に動き出そうとした瞬間だった。

「ん?」隊員たちが最初に感じたのは妙な浮遊感だった。

まるでプールの中で浮かんでいるような。そして足が地面から離れ、体が空中に上がる。

特殊車両も装甲車も浮かんでいる。そうこれはまるで『無重力』そう言い終わる前に隊員たちを支えていた地面ごと彼らがいた一画が空高く舞い上がった。

地球には引力、つまり重力が働いている。本来かかっているその引力より軽い引力の場所が現れればどうなるか、その場所にすさまじい上昇気流が発生しその場にあるものをすべて根こそぎ上に持ち上げてしまう.......

その結果が、写真にあった大穴である。

「で....その後、彼は気を失って倒れた。木山も同じだ。そしてここに運ばれてきた。あの破壊の中心にいただけあって重傷だったが何とかしたよ。しばらくリハビリは必要だろうけどね。それより不思議なのが、彼に関することが全くと言っていいほど取り上げられていないことなんだ。警備員のほうでもすさまじい被害を与えた張本人だというのに、なにも罪を問いに来ない。おかしな話だよ 」

美琴は黙り込み、思考を巡らしていた。

この医者の話が本当なら、護はなんだかとんでもない奴ということになる。第3位である美琴を超えるような実力を持つ怪物。だが、美琴の知っている古門 護に人が殺せるとは思えない。

現に憎んで当然の木山に対しても、最後まで話し合いに徹しようとしていた。その護が警備員を惨殺。とても信じられない美琴だった。


黙り込んだ美琴を見て、ため息をついたカエル顔の医者は、むりはしないようにねと言い残した後、思い出したようにこう言った。

「ああ、そうそう、動けるようになっても当分彼の個室にはいっちゃだめだよ? あれから、彼の友人という少女がずっと付いているんだ。入るのは無粋だろ? それとこちらはすこしリアルな話だ 」

一呼吸置いて、カエル顔の医者は美琴にとって衝撃的な琴を告げた。

「本来は話すべきではないことかもしれないけど......学園都市統括理事会の一人がここ数日見舞いに来てるんだよ 」

統括理事会は学園都市の上層部。統括理事長の下にある組織だ。そんなトップの人間がレベル5とは言え、つい数ヶ月前にこの街に入った人間に何の用だというのだろう?

困惑する美琴に、カエル顔の医者はやんわりとくぎを刺す。

「今は、関わらないほうがいいと思うよ? へたすると君まで飲み込まれるかもしれない 」

へ?と向き直る美琴だったがカエル顔の医者はそそくさと部屋を出てしまっていた。

「統括理事会...... 」

誰もいなくなった個室で美琴を思案を続けた。

そんな美琴の部屋の向かい側の病室で、無数のチューブを体につながれ、ボンベを口に装着され、無数の電極コードにつながれた状態でベットに横たわる護のそばに二つの人影があった。

1つは少女の影。もう1つは初老の男性の影。

「しっかりしろ護君 」

初老の男は実に残念そうな声でこういった。

「まだまだ、君は私にとって必要だ。わざわざ『来てもらった』意味がなくなる 」

意味ありげなセリフに少女、哀歌が訝しげな視線を送る。

だが男は気にするそぶりもなく、ドアから出て行こうとする。

「目が覚めたら少年に伝えておいてくれ。学園都市統括理事会の剣崎達也が君と会いたがっていたとな」

そのまま、どうどうと部屋を出ていく剣崎。だが哀歌の眼にはなぜか剣崎の向かう先が先の見えない漆黒の闇に見えていた。

「護を、あんな所にはいかせない.....すでに闇に落ちていても、これ以上深みには堕とさせない。だから起きて?護..... 」

もう何度目になるであろう、護の額の汗をぬぐいながら、哀歌は空を彩る星座に祈りをささげた。
<章=第十二話 とある終焉 新たなる闇>


「ふわぁぁぁぁ.........よく寝たな...... 」護は伸びをして、ベットのそばに置いてある携帯電話に手を伸ばす。

「7月20日.......夏休み初日か......もう『この日』が来たのか.......ていうかついこの間も騒動があったばかりなのに、イベントが立て続けに起こりすぎだと思うんだけどな...... 」

そう、ほんの数週間まえ、護は木山春生を止め、幻想御手(レベルアッパー)事件を止めるために彼女と戦い、結果的に木山を止めることに成功した。

だが、その代償はあまりにも大きかった。自分ではよくおばえていない『暴走』によって『警備員(アンチスキル)』部隊を壊滅させてしまった護はなんだかんだでいろいろと警備員に敵視されることになった。暴走だったのだから仕方ないのだが仲間を殺された側としては、だまっていられるわけがない。
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン