とある世界の重力掌握
「私を止めるために立ち塞がったのだ......犠牲は覚悟の上だったんじゃないのか? それとも所詮は世間知らずのお嬢様。『悪は最後には倒される』というヒーローものセオリーでも信じていたのか? 君はまだしらない。この学園都市の闇を。君はまだしらない。自分が『限りなく絶望に近い運命を背負っている』ことを 」
なにを?と言い返そうとした美琴だったがその言葉は出なかった。なぜなら、目の前の木山春生の胴体に穴が開いたからだ。
「な......に? 」後ろを振り替える木山。その先にあるのは道路沿いに建つ一軒のビル。
「まさか.....狙撃手.....警備員(アンチスキル)か....... 」
「そこの君! ただちにその場から離れなさい! これより警備員による鎮圧作戦を開始する。一般人ははやく現場から離れなさい! 」
突然響くアナウンスが木山の推理が正しいことを証明した。
「な! 鎮圧って...... 」
戸惑う美琴の口がいきなりふさがれた。
「ん!? 」
いつの間に近づいたのか覆面姿の警備員が美琴の口を布のようなもので押さえている。とたんに急速に視界が狭まり意識が遠のいていく。
「(これ、昏倒効果のあるガスがしみこませてある!)」
眠気に逆らおとするが、あえなく美琴の意識は闇へと沈んでいく。
闇に沈んでいく美琴の耳に最後に響いたのは無情な声。
「これより、容疑者木山春生を射殺します! 」
無数の銃声と爆発音が響きわたるのを確認したところで美琴の意識は唐突に途切れた。
「う......ここは....... 」
唐突に視界が開き、まぶしいばかりの光に目の前が真っ白になる感覚を覚える美琴。光りが収まり天井が見えるようになって自分が病院にいることを意識する。
「あれ? 私、確か...... 」
木山との戦闘の最中、突如木山を警備員の弾が貫き、その直後、背後に近寄っていた警備員に口をふさがれ、意識をなくした美琴だったが。それでは病院にいるわけがわからない。
「なんで、病院(こんなとこ)に.....とりあえず起きて.....っつ! 」
起き上がろうとして全身に走った痛みに思わず倒れ伏す美琴。
「おやおや、まだ起きるには早いと思うよ? 」あきれ顔で近づいてきた男を見て美琴の表情が固まる。
「リアルげこ.....じゃなかった、古門の担当してた医者よね? 」
「古門....ああ、彼か。そうだね、ついでに言うと今回も彼の担当をしているよ。私は複数の患者を担当することも珍しくないんでね 」
「古門は無事なんですか?! 」
「他人の心配より少しは自分を心配したらどうかね? 全身打撲にいくつかの裂傷による大量出血で一時は危篤状態だったんだよ? 」
カエル顔の医者の言葉に驚きを隠せない美琴。
「私、そんな重傷だったんですか? 」
「まあ、たしかにね。それでもあの現場から生還できただけ君はましかもしれないよ 」
へ?と困惑の表情になる美琴。その美琴にカエル顔の医者は一枚の写真を見せた。
「これが君がいた現場の今の姿だ 」
カエル顔の医者が見せた現場は、まさしく天災級の破壊が引き起こした地獄絵図と化していた。
美琴と護が戦っていたあの高架道路。
それを含む現場一帯が巨大な穴となっていた。
さらに遠巻きに離れていた警備員の装甲車や特殊車両がフレームが完全にゆがんだ状態で廃墟となったビルに突っ込んだり、橋の上から落ちて転倒したりしている。
「これ、いったい..... 」
「彼の仕業だね 」
「彼って..... 」
「きまってるじゃないか.....古門 護くんだよ..... 」
そんな馬鹿なと美琴はその言葉を否定しようとした、だがあの場にいたのは警備員たちと護と美琴、そして木山春生だけ。自分にはあんな光景は作り出せない。木山にも可能とは思えない。警備員など論外だ。となると.......
「いくらあいつでも、こんなこと....... 」
「彼の能力は重力を自在に操ること.......だったね?かれはあの場でその力を全力で使用したようだね......木山春生が射殺されようとした瞬間だったそうだよ..... 」
そうしてカエル顔の医者は当時の状況を語りだした。
「これより容疑者、木山春生を射殺します! 」
無線で報告を終えた警備員の狙撃手はレンズの十字に木山の頭を重ねた。その時だった........
『超重力砲(グラビティブラスト)!』無線機から突如少年の叫びが響いてきた。
なんだ?と首をかしげた狙撃手は直後に気づいた。この声は、学園都市第4位の声であることを。
次の瞬間、狙撃手が潜んでいた建物は狙撃手もろとも崩壊した。
「きみ! いったいなにを!? 」驚き、抑えようとする警備員の隊員を『吹きとばして』護は起き上がる。
「落ち付け! 何をしてるかわかってるのか! 」慌てて銃を向け威嚇する警備員に護は視線を向ける。
瞬間、隊員たちは戦慄した、護の眼が真っ赤に染まっている。
「止まれ! 」一人の隊員が上空に威嚇射撃を放つ。
だがその放った銃弾はいったん上に上がった後、倍のスピートで『放った本人に命中した』。
「な!? くそ、かれも敵対者とみなす!射撃せよ! 」
隊長らしき男の隊員の指示のもと、警備員の一斉射撃が護を襲う。だがその銃弾は届かない。護から放たれる強力なGは弾を押し返すと同時に重力の波となって隊員たちを吹きとばす。
上空のヘリに乗る隊員は驚愕していた。いままで倒れていた少年が急に妙な攻撃でビルを崩壊させ、さらに銃を向けた警備員たちを文字通り『吹き飛ばした』のだ。
「こちらD1、こちらD1、これより上空からの援護射撃を始める! 」
そう無線にどなった直後、パイロット席かの機長が悲鳴のような声をあげた。
「どうした! 」
「あの少年が!あの少年が装甲車を吹き飛ばした直後にこちらに目線を向けました。あきらかに狙ってます! 」
「ただちに退避しろ!ビル一戸破壊するレベル5だ。むやみに近づくな! 」
慌てて高架道路から遠ざかろうとするヘリ。高架道路の下では遠巻きに警備員の部隊と装甲車。さらにどこから出てきたのか、学園都市製の高性能ヘリ通称『六枚羽』が上空を旋回しつつ少年を狙っている。
「あんなものまで、持ち出すか?! 」
少年1人に対してオーバーキルすぎないかと思ってしまうのはやはり彼が『能力者』ではないからだといえよう。彼はレベル5のもつ意味をしっかり理解していなかった。
高架の下で無言で佇む護。その瞳は真っ赤に染まっているが、そこにはなにも映っていないかのようにその包囲の輪を狭めつつある部隊や、上空のを舞うヘリに対して何の反応も示さない。
最初に攻撃を仕掛けた警備員部隊を吹きとばしはしたものの、その後は行動をおこさない。
「なにを考えてる? だが今がチャンスだ。意識を失っているうちに木山を処分しろ! 」
先ほどの攻撃の余波を受け気絶している木山に近づこうとする隊員たち。
その途端、護が動いた。
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン