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とある世界の重力掌握

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「そう難しく考えなくていい。要は、重力をかけるイメージをすれば使えるんだ。ただし、使い過ぎは危険だがね。なにしろ扱う力が力だ 」

教師は、次にグラウンドの端に置かれた廃車の前に連れてきた。

「この廃車に真上からさっきより強い力をかけるイメージをしてみろ 」

言われるままにさっきよりも強い力をかけるイメージをする護。

次の瞬間、ズグワァァン!という凄まじい音と共に、目の前の廃車は真上からかかった異常な重力によってただのスクラップと化していた。

「ふう........ここまでとはね、正直驚いたよ。測定結果レベル5で決定だな。君がこの高校で初のレベル5になる訳だ 」

護は教師の話を半分も聞いてなかった、レベル5といえば1人で国の軍隊に対向できる能力者を指すはず、この学園都市にも7人しかいない、最強の称号。

それに、自分がなると言われても実感がない。

なにより自分は『よそ者』。

いきなりレベル5級のちからがあると言われてもそう簡単には信じられない。

「序列とかは、後で統括理事会とかで出されて連絡とか行くと思うからまってるといい。いやあ、しかしウチに超能力者が誕生するとはな。先生は嬉しいぞ。ん?おいおいそんな不安相な顔をすんな 」

男性教師は護の不安げな表情を、能力に対する自信のなさだと受け取ったらしい。

「君の能力の使い方は、それだけじゃない。その力はまだいくつも応用が聞くだろうし........なにより、それは君の全力じゃないはずだ。気後れしなくても大丈夫だよ 」

確かに護は気後れしていた。それはレベル5という称号に対してだけではない。

新たな『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』自体に対しても気後れしていたのだ。

もし、この力を完全に受け入れてしまえば、この世界を、現実を『自分』の現実としてしまうこととなる。

あくまで、外から来たよそ者として、元の世界を『自分だけの現実』とするか、それともこの世界をそれと認めてしまうか。

それは、そう簡単に答えが出せる問題では無かった。
<章=第五話 とある目覚めと自分だけの現実(パーソナルリアリティ)>


「はぁぁぁ.......なんか色々ありすぎて心が追いつけてないかも....... 」

護は身体測定を終えた後、第7学区の街中を散策していた。

思ったより早く身体測定が終わってしまい暇を持て余すこととなった護はすぐにアパートには戻らずに、当初の予定だった散策をすることにしたのだ。

「しかし.......僕たちの世界にあった作品なんだから当たり前といえば当たり前かもしれないけど、なんか、現実と非現実がまじりあってるなこの街は...... 」

護はすでに大体の建物や店を見て回ったが、なんだかハイテクすぎてどう扱えばいいかわからない電化製品を扱う店から、そもそもこの作品世界のことを扱っていた雑誌を扱う店まで......元の世界にあるものも、こちらの世界にしかないものも複雑にまじりあっている。

「でも、今ではどちらが『現実』になるんだろ.....目に入るこの世界は今の僕にとってはたった一つの確かめられる『現実』だ......でも、この現実を認めたら僕は......戻れないような気がするんだよな.....だって認めることになっちゃうんだ。この世界が僕の生きる世界だって...... 」

すでにこちらの世界に来てしまってから、3日目になる。

3日もさめない夢はあるのか。

いやそれ以前にここまではっきりとした夢などあるのか。

試しに頬をつねってみてその痛みが本物だということを認識する。

「うう.....ほんとにどうすれば...... 」

ずっと考え事をしていると無性に甘いものが食べたくなった。

昔何かの番組で、疲れた時は糖分を摂取するとよいと言っていたことを思い出した護は、さっき通りかかった広場にクレープ屋台があったことを思い出しそこに向かった。

「さて......クレープも食べ終わっちゃったしこれからどうしようかな.....」

護は広場のベンチで1人座り込んでいた。

いまがまだ平日の午前ということもあり学生の姿はほとんど見えない。

広場には全くと言っていいほど人はいなかった。

「これから、家に帰って昼食にしようかな.....せっかく探索して料理屋も見つけたんだからそこで.....ってそうだ財布持ってきてないんだ.....どのみち、一度はアパートに戻らなきゃいけないか・・・・ 」

がっくりと肩を落とした護はふと自分の手に目をやった。

「重力を操る力か.....あの先生は力の使い方はこれだけじゃないとか言ってたけど.....そもそも重力の仕組み自体よく知らないしな......今のところ分かってるのは縦向きにかかる重量の強さを変えることができるってこと。じゃあ、想像するだけで力を使えるなら......横向きに重力をかけることはできるのかな?」

護は周りに目をやり人がいないことを確認してから、ベンチの横に置かれたごみ箱を目の前に置く。

「あれに横向きの重力をかけるイメージをする....... 」

護がイメージをかけた途端、ごみ箱は右からかかった強力なGにより吹っ飛び......広場の近くの銀行店の窓に直撃した。

「あっちゃあ、やっちゃったよ!」

頭を抱える護。

それと同時に気づいたことも1つあった。

(あのごみ箱、僕が一瞬力を使っただけで飛んで行って窓ガラスを割って止まった。もし僕がイメージした瞬間から自分で止める意思を持つまでGがかかり続けるならあのごみ箱はばらばらになるまで横にすすみ続けたはず。つまり力が働くのはイメージしている時だけということになるのか...... )

「おい!誰だごみ箱を投げたのは!」

店長らしき茶髪男のどなり声が響く。

ここで知らぬふりをしてにげだすという手もあったのだが、良くも悪くも正直な性格の護は素直に自首してしまい、その後、午後3時までの4時間、店の片付けと店長の説教、そして店の雑用の三重苦を味あわされることとなった。

「つ....つかれた....もう、動けない..... 」

なんか色々と雑用を押しつけられそれを全部こなすのに3時までかかったしまった護はさっきの広場の別のベンチに座り込むなり、即、意識が薄れてきた。

考えてみれば朝もそんなにご飯を食べていないし、昼も昼飯抜きで作業したせいで、ほとんど腹に食べ物が入っていない.....だが、それ以上に疲労が急激な眠気を引き起こしていた。

「ほんとは.....さっさとアパートに戻るのが一番なんだけど....もうげんか...zzzzzz.... 」護の意識は深い闇の中に落ちて行った。


夢の中で護は逃げていた、たくさんの同年代の子供たちと一緒に。

夢の中で護は6、7歳程の姿になっていた。

必死に逃げ続ける。

周りの風景は見えない。

ただ前に向かって走っている。

だが周りの子供たちは次々と後ろから迫ってくる強大な化け物の手でつかまれ、消えていく。

そしてついに、自分ひとりになった。

もう、おしまいだ.....そう思ったときに『あの子』が現れた。
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン