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とある世界の重力掌握

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緑の服に身を包み、悲しげにほほ笑む少女。彼女は右手を一振りするだけで化け物を倒した。

その圧倒的な強さで、護を救ったた少女はそのまま護を守ってくれた。

「一緒に逃げよう? 」そういって護の手を引き駈け出した少女。

護を守り、励まし、勇気づけ、ともに泣いてくれ、ともに笑ってくれた少女。

その少女は、護のために.........

「うあぁぁぁ!! 」大声をあげて飛び起きた護に、まわりのベンチに座る学生たちからの痛い視線が飛んできて思わず身が縮む思いをする護。

だがそれよりも護の頭を占めていたのはさっき見た夢のことだ。

(あの、女の子.....誰なんだ?......)

護は夢の中の少女に覚えはない。

というより起きてみるとなんだか記憶があいまいでどんな顔をしていたかなどの肝心なところがあやふやなのだ。

(でも、なぜか懐かしい感じがする夢だった....どうしてだろ.....? )

頭をひねっても、なんら浮かんでこない。護はとりあえずこのことを考えるのはやめることにした。

「いま、何時だろ....って3時30分?まだ30分しか寝てなかったのか 」

まだ少し体はだるいが寝る前ほどではない。

家に帰るくらいの体力は回復したと感じた護はとりあえずベンチから起き上がろうとした......だが、次の瞬間背後から聞こえた爆音が護の行動を停止させた。

「んん!?いったい何が.....ってあれは!」

先ほど自分が迷惑かけた銀行店のシャッターが無残に爆破され3人組の強盗が外に出てきている。

「この場面....レールガンの一話であったやつだよな......たしかこの後、黒子が二人倒して、美琴が一人を車ごと超電磁砲(レールガン)で吹っ飛ばして......じゃあ、ここは大丈夫か 」

ほっと安心して立ち去ろうとした護だったが、ふと大事なことを思い出した。

「そういや、黒子や美琴のほかに初春と佐天さんもいるんだった!たしか初春はバックアップに努めていて、佐天さんは、男の子を...... そうだった!」

そう、佐天は強盗の一人がさらおうとしていた男の子を助けようとして一人で強盗のところに向かいけがを負ってしまうのだ。

「いくら、原作介入してしまうとしても....どうしてもそれだけは避けたい..... 」

実はというと、と禁、レールガン両シリーズのファンである護が作中、どうしても納得できなかったのがこのシーンだった。

そうしなければ美琴が介入するきっかけを作れず面白くなかったのかもしれないが、かといって無能力者である佐天さんがけがを負わなくてもよいはずだと護は思っていた。

なにも佐天さんが傷つかなくても黒子が最初から3人いっきに倒せばいいのに.....という理不尽な考えまで浮かんでくるほどだった。


実際は、警告されていたにも関わらず行動したのは佐天なのだから、怪我した責任は彼女自身にあるのだが......そういった理屈を踏まえていても納得できなかった。

なぜなら佐天さんはもっとも読者である自分に近いと感じていたからだ。

特殊な力を持たない、なにか特別な技能を持つわけでもない、生まれが特別なわけでもない、『普通』の少女。

そんな子が傷つくのを護は納得できなかった。

「だけど.....ここで動けば....原作へ介入すれば、もう後戻りはできなくなる......この世界で起こるすべてのことに巻き込まれる立場になってしまう..... 」

護の前に用意された選択肢は2つきり。そして時間はそうないし、待ってはくれない。

「それでも、構わない。だれが、何の目的で僕をこの世界に送ったかなんてわからない 」

護は唇をかむ。

「だけど、目の前で起ころうとしていることが分かっている以上....それを見ないふりできるような器用さは僕にはないんだよ!! 」

あまりにも幼稚な言い訳、あまりにも無責任な言い草、だがなんであれ護は選んだのだ。この世界を新たな『自分だけの現実』とすることを........


「離せ!」「だめー!!」

佐天は強盗犯から子供を取り返そうと、必死で子供をつかんでいた。

もとより体格や力が違う男相手にかなうはずがないことくらい分かっている、それでもこの子がさらわれそうなのを見つけた時、頭で『私にもできることはある』と思うより先に体が動いた。

「くそ!」男が前蹴りの構えをとる。「!!」思わず身構える佐天。だが、男の蹴りが放たれることはなかった。

「な....なんだこれ.....足が....上がらねえ! 」

「女の子相手に何やってるんだ、あんたは 」

「んん!?」

強盗犯の男は前から平然と歩いてくる少年にいぶかしげな目を向ける。

「なんだ、てめえは 」

「古門 護。3日前、この学園都市に編入になった者だ」

「ホウ....要するに新参者ってことだ.....なんだこの能力は? 」

「さあね....何て呼ばれることになるのかは僕も知らない......まあ、それなりにかっこいい言葉にはなるんじゃない?なにしろレベル5の力だからな! 」

「レ....レベル5だと!3日前に入ったばかりの新参者がレベル5だと?なめんじゃねえ! 」

「それじゃあ、見せてあげようか?レベル5の力を 」

「ん?.....なんだ? 体が重い..... 」。

「重力だよ。僕の能力は、重力を自在に操る力。きみがどう動こうと勝ち目はないよ。」

「なめんなよ.....クソガキ....! 」

男は必至で動こうしているようだが上からかかるGによってその場に縫いとめられているかのように一歩も動けなかった。

男が動けない状態なのを確認した上で護は先ほど自分の力を試していたときに考え付いた技を試してみようかと考えた。

だが今の自分では一度に重力を使用した技を複数使うのは難しい。

ここでこの技を試そうとすれば男の動きを止めている重力の増加を解かねばならない。

だがそれでも決着をつけるため護は重力の増加を解いた。

ぜいぜいと荒い息を吐いてへたり込む強盗の男を見つめながら、護は自分の掌を前に突き出し、周りに普遍的に存在する重力をその掌に集めるイメージを行う。

その途端護の周囲半径1メートルの空間の重力がほぼ一瞬で護の掌の前で無色透明な力の塊となった。

一瞬で重力を抜き取られ無重力状態になった護の周囲の空間は圧力が0の真空となる。

よって無重力になった空間にあった空気は近くの重力がある空間すなわち護のすぐ周りに流れ込みその空気に運ばれて小石なども護の周辺で渦巻く。

その姿に銀行強盗の男は自分では勝てないと悟ったのか慌てて腰を上げバンに向かおうとする。

「直接重力の塊をぶつけたら下手したら強盗を殺してしまう......だったら..... 」

護は男がバンへとたどり着く前に彼に当たらない角度に掌を構えた。

護が狙ったのは強盗たちが乗ってきた車だった。

「超重力砲(グラビティブラスト)
! 」

護の声とともに護の掌にためられた重力の塊が車に向かって放たれ、その側面に直撃する。

刹那、車は轟音とともに車体をゆがませて吹き飛び、はるか先の路上で横転して大破した。
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン