とある世界の重力掌握
ルーが中に戻り護に体の主導権が戻された。その瞬間護の瞳に涙が溢れた。
護がこの世界に来て始めて流した涙だった。
「こめん.......許してくれクリス.......僕は君を傷つけた..... 」
涙の雫がクリスの端正な顔に落ちていく。
涙を流す護に対してクリスは震える口を動かした。
その口の動きはこう言っていた。
『ありがとう』
その言葉を口を動かして伝えたクリスはそのままゆっくりと目を閉じた。泣き続ける護の腕の中でクリスの体から力が抜けていく。
その首が力を失い、護の胸板に首が倒れかかる。全身から完全に力が抜けて、体が一気に重くなったように感じる。先程までなんとか聞こえて来た心音はもはや聞こえず、抱きかかえるその体は体温が下がっていく。クリスは護の腕の中で死んだ。
クリスが死んだのと同時に、2人を閉じ込めていた白の空間は消え去り護は元の三沢塾の一階に戻った。
もう護は自分の腕の中で冷たくなっているクリスを見ながら泣いてはいなかった。護はこの状態になったクリスを救う為の方法を考えていた。
「クリスを.....助ける。クリスを助ける。クリスをクリスをクリスをクリスをクリスをクリスを...... 」
ブツブツと独り言を呟きながらも護はある人物にメールを送っていた。
その文面はただの1文、「三沢塾、仲間を助けてくれ 」それだけだった。
クリスを床に寝かせ、護は階段を上へ上へと上がっていく。
外は既に夜の帳が降りている。
時間的には上条とステイルがアウレオルスの前にたちインデックスが既に救われていることを説明しているころだ。
クリスを自分の力で救えなかった以上、護にできることは1つしかない。アウレオルスに対抗できる唯一の仲間。上条当麻をなんとしても助け、アウレオルスを倒す手助けすることである。
「待っていろよアウレオルス。僕がいる限り上条さんを殺らせはしない。上条さんならクリスの敵をきっと討ってくれる。上条さんはお前よりずっと強い。その強さを思いしれ 」
護か目指すは最上階、アウレオルスがインデックスと共に原作ではいた場所だ。おそらく姫神もそこにいるだろう。
なかば壊れたような心を抱えながら、護は階段を一歩一歩上がりアウレオルスのいる最上階までの道のりを進んでいった。
同時刻、とある大病院で一人の医者が携帯に来ていたメールを一読して微笑んだ。
「僕を誰だと思っている? 」
<章=第四十三話 とある空間の同士討ち>
「お前....いったいいつの話をしてんだよ 」
「なに? 」
「そういうことだ。インデックスはとっくに救われてるのさ。君ではなくここにいる上条当麻の手によってね。君にはできなかったことをこいつはもう成し遂げてしまったんだよ。ローマ正教を裏切り3年間も地下に潜っていた君には知る由もなかったろうがね 」
「そんな....馬鹿な。ありえん、人の身で....それも魔術師でもなければ錬金術師でもない人間にいったい何ができると言うのだ! 」
「必要悪の教会 (ネセサリウス)の、イギリス清教のこけんに関わるので多言は控えるが....そうだねぇ、こいつの右手は幻想殺し(イマジンブレイカ―)と言う。つまり人の身に余る能力の持ち主ってわけだ 」
「まて、ならば....」
「そう....君の努力は全くの無駄骨だったというわけだ。だが気にするなインデックスは君の望んだとおり今のパートナーと一緒にいてとても幸せそうだよ 」
護がようやく最上階にたどり着いた時、アウレオルスと上条・ステイル両名の会話は重要な局面まですでに進んでいた。
護は痛む体をさすりながら上条とステイルの様子を見る。
護は即座に部屋に入ろうとはしなかった。今部屋に入ってもこの後アウレオルスがやり場のない怒りにより豹変した時『倒れ伏せ侵入者ども!』の言葉通り侵入者として地面に問答無用で倒されてしまう。ならば今はアウレオルスにその気配を悟られない方がよい。
そう判断して護は部屋の入口の壁の向こう側に身を潜めつつこっそりと様子をうかがう。
本心から言えば今すぐ緋炎之護を振りかざしてアウレオルスに投げつけたい気持ちだったが、さすがに護もそこまで馬鹿ではない。今の自分がここで介入してもアウレオルスには勝てないということは先ほどまでの戦いで嫌と言うほど身にしみた護だった。
「! 」
よほどショックが大きかったのだろう。
アウレオルスはそのままよろよろと後ろに下がり机に手を置きなんとか体を支えているがそれがなければ倒れそうだ。その瞳は動揺に揺れている。
その横には護達が助け出そうとしていた少女。姫神秋沙が佇んでいる。その表情からはなにを思っているのかは読みとれない。
その時机の上に寝かされているインデックス (原作の展開通りになっているところから考えるに恐らく上条からの電話イベントの後原作通り訝しんでここまで来てしまったのだろう )の口から声が漏れた。
「とうま.... 」
その場の全員の視線がインデックスに向けられる。
「とう....ま 」
かつての少女ははっきりと今代のパートナーの名を呼んだ。その事実にアウレオルスの表情が歪む。
「インデックス! 」
思わず叫んだ上条の声に重ねるようにインデックスは呟いた。
「とうま....」
直後、おなかの鳴る愉快な音が部屋中に響き渡った。
「おなか減った 」
上条は思わずずっこけかけ、ステイルは壁の方を向いて笑いをこらえ、護は原作通りの流れに思わずため息をついた。
「りんご....りんごは....青森..... 」そのあまりのほのぼのとした風景にここがシリアスな場面だということを一瞬忘れかけた護だったが直後に聞こえてきた笑い声に表情を引きしめた。
「ふ....ふふふふふ....ハハハハハハ....ハハハハハハ! 」
突然笑い出したアウレオルスに護はいよいよ来たかと感じた。この流れで行くと、ここからアウレオルスの暴走が始まる。
「倒れ伏せ! 侵入者ども! 」
その言葉と共に上条とステイルは問答無用で地面へと叩き伏せられる。
「く! 」
「つ! 」
苦痛に顔をゆがめる2人に向けアウレオルスは明確な憎悪のこもった瞳を向ける。
「わが思いを踏みにじり....わが殊勲をあざ笑い! よかろう....この屈辱、貴様らの死で贖ってもらう! 」
「待って! 」
「姫神.....やめろ! 」
上条の声は姫神を止めることはできない。
「分かる。私、あなたの気持ち 」
「そいつは...もう.... 」
「でも違う、今のあなたは....」
「もう....お前を..... 」
「知ってる。私、本当は 」
上条は動かぬ体を無理やり動かしその右手を口元に持っていこうとする。
「本当のあなたは! 」
アウレオルスが首元に鍼をさすその瞬間、上条は右手の指を歯でかんだ。いかなる異能の力でも打ち消す幻想殺し(イマジンブレイカ―)によって上条を抑えつけていた戒めが消える。
「死ね 」
その一言が姫神秋沙の運命を強引に決定する。彼女の体がゆっくりと地面に倒れていく。
「姫神ぃぃぃ!! 」
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン