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とある世界の重力掌握

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駆け寄った上条が素早く姫神の体を支えるが彼女はぐたりとしたまま動かない。

「んふはは…..吸血殺し(ディープブラッド)など最早不要。悠然、約束は守った。これでその女も己が血の因果から解き放たれたであろう! 」

高笑いを続けるアウレオルスだったが直後に異変に気付いた。

自らの完全なる錬金術『黄金練成(アルス=マグナ)』。何人たりとも逆らうことはできぬ絶対的な決定力。その力を持って明確な死を与えたはずの姫神の体がかすかに動いている。

「ん....はあ!はあ.....」

姫神が息を取り戻したのだ。

「な.....我が黄金練成を打ち消しただと? あり得ん、確かに姫神秋沙の死は確定した。その右手、聖域の秘術でも内包するか!? 」

「ごちゃごちゃうっせえ、んなこたもうどうだっていいんだよ 」

上条はアウレオルスの前に立ち上がる。彼と対等にやりあえる敵として。

「良いぜ....てめえが何でも思い通りにできるってんなら、まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!」

それが戦いのコングとなった。

アウレオルスと上条は正面から睨みあう。

ここまでは原作の通りだった。だが刹那、明らかに原作では起きない事象が発生した。

「降伏しなさい上条当麻。じゃなきゃこの子を燃焼させちゃうぞ? 」

一体どこに隠れていたのかステイルと同じ赤髪の少女が姿を現したのだ。

その両手は赤い装甲で覆われておりロボットの腕のようだ。

髪、瞳共に深紅でありその体の随所を覆うプロテクターも深紅。

その少女の姿に護はクリスが言っていたことや高杉が回してきた情報のことを思い出していた。

学園都市に許可なく侵入し、哀歌に重傷を負わせ、三沢塾を狙い、哀歌との戦いの後消息不明になった炎を自在に操る侵入者。その名は火野咲耶。

「突然.....なんのつもりだ? 」

「笑止....あんたが奴を殺しやすいように手助けしてるだけじゃない 」

咲耶はその装甲腕の掌に空いた穴をインデックに向けている。

上条が少しでも行動を起こせば容赦なくインデックスを焼こうと言うのだろう。

「あんたにとってこの子はかつては守りたいと願った存在かもしれないけど………今のこの子はあんたが守りたいと願った3年前の少女じゃないわ。したがってこの子をあなたが見殺しにするのを躊躇う理由はどこにもないのよ 」

その言葉にアウレオルスの表情が揺れる。アウレオルスもかつてのインデックスのパートナーの一人。誰よりもインデックスを大切に思い。誰よりも彼女を救うために奔走し。その結果敗れた者だ。今ここにいるのがかつて自分を思ってくれたインデックスではないのは重々アウレオルスも理解していた。それでも目の前に横たわる少女の姿は間違いなく自分が救おうとした少女なのだ。

「惑わされてはいけない! アウレオルス=イザ―ト! 」

その時部屋一帯に声が響いた。

その声の発生源にその場の全員の意識が向く。

そこには緋炎之護の柄を右手に握りしめ、入口に佇む護の姿があった。

「ここに倒れるかつてのインデックスのパートナーの一人、ステイルも自分がインデックスを救うためにできることだと信じていた役目を上条の右手によって否定されたんだ。それでもステイルはそれを受け止めて、これからもかつて自分が助けようとした少女に誓った約束のために生きていくことを選んだ。それに比べてあなたはどうなんだアウレオルス。今ここにいる少女はかつて助けようとした少女ではないから殺しても良いと一瞬でも思ったのならそれは間違いだよ。あなたは何のために力を持った?その力で何を守りたかった?自分のことをもう少女は覚えていない。だったら殺しても構わない。そんな考えのもとにあなたは力を持ったわけじゃないはずだ! 」

護の言葉に耐えきれなかったのか、アウレオルスは顔を横にそむける。

「うるさいわね……その口燃焼させてあげようか? 」

咲耶はその肩に背負っていた袋から日本刀を取り出した。

それを両手で握った途端、その刀身を深紅の炎が包み込む。

「私にはここでこの男に降りてもらうわけにはいかないの。べらべらしゃべって勝手にこの男の気持ちを変えてもらっては困るのよ 」

咲耶はその炎刀の切先を護に向ける。

「紅蓮の炎に沈め、重力掌握! 」

咲耶が振り抜いた炎刀のその刀身を包み込む炎が一気に波となって護に襲い掛かる。
だが、護はそこで終わらなかった。

護は通常ならあり得ないスピードで跳躍し横に長く迫る波を飛び越えた。

体内からルーが助けをしている関係で今の護は人間として出すことのできる最高の身体能力を駆使していた。

思わぬ事態に咲耶は第2波を放とうと再び炎刀を振りかざそうとするがそれより早く護の十文字槍が横なぎに振るわれる。

間一髪、その一撃を神業的な剣技で防いだ咲耶だが勢いは殺せずそのまま窓ガラスを割って外に吹き飛ばされた。

最上階から一気に真下へと落ちていく咲耶。もろに地面に激突し凄まじい音が響き渡った。

「上条、アウレオルスを君の右手でその混沌から救いあげてくれ! 僕はあの少女を、咲耶を抑える! 」

「分かった。任せとけ護 」

首を縦に振り頷く上条に拝み手をし護は階段に向かった。

護は階段を駆け下りながら思った。

上条さんならきっとアウレオルスをその右手で打ち破り、その彼が陥っている混沌と幻想をブチ壊してくれるはず。なら自分がやるべきことはその彼の戦いを邪魔する、自分が来たことで生まれた可能性の高い不確定要素となった人物。火野咲耶を抑えることだ。哀歌と互角にやり合い重傷を負わせたような相手があの程度でやられるとは思えない。

「火野咲耶.....彼女が何者かは知らないけど....作品の根本的な流れを変えさせるわけにはいかない.....学園都市第4位、古門護の名にかけて! 」
<章=第四十四話 とある部屋での真相暴露>

その少女は、生み出された存在だった。

「君の名は火野咲耶だ。分かるかい? 」

「ひの....さきや? 」

「そうだ、火野咲耶だ。私達の大切な子供だ 」

「たいせつな.....こども? 」

「そうだ、絶対に絶対にお前を離しはしない。お前はずっと私達と共に有りつづけるんだ 」

少女はその言葉を無邪気に信じた。

少女が幼い時を過ごしたのは大きな研究所だった。もっとも少女はその建物を研究所と理解していたわけではなく『大きなおうち』と思っていた。

無邪気に成長していく少女に対して大人達が掛ける言葉は彼女にとってとても温かで少女は満ち足りた日々を送っていた。

そんな少女が一つ不思議に思っていたのが、時折研究所を訪れる大人達が彼女の『お父さん』や『お母さん』たちに怒鳴っていくことだった。

成長するにつれ彼女はその大人達の怒声の中に自分の名が混じっていること。そして自分に関することで『お父さん』達や『お母さん』達が怒鳴られていることを理解した。

自分が何か悪いことをしたのだろうか、どうしてあんなに怒られなきゃならないのか、それを少女は知りたくて知りたくてたまらなかった。
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン