とある世界の重力掌握
それをベクトル反射で反らすアクセラレータに向けて護が緋炎之護を構えて突っ込む。
「第伍の技、緋龍炎撃! 」
勢いよく振られた緋炎之護から炎の龍が放たれたる。
アクセラレータは前回の戦いでこの攻撃を反射膜を持ってしても受け流せずダメージを負っていた。
よってこの攻撃が放たれたとたん顔色を変えた。
アクセラレータに制御されたままの大気が渦を巻き巨大な竜巻となって緋龍と衝突する。
凄まじい轟音と熱波が周り一帯に広がり、衝撃波が積んである鉄骨を吹き飛ばし、巻きこまれないようアクセラレータの注意から逃れた高杉が遠距離瞬間移動を行った。
近距離で同等の熱量を纏った衝撃波を受けた護とアクセラレータだが、アクセラレータが保護膜の加護によりそれらを全て弾いたのに対して護は通常の衝撃波にアクセラレータが反射した衝撃波が加わり凄まじい力に押され勢いよく後方に吹き飛んだ。
だがアクセラレータにそれを追撃する余裕はない。背後から業火を浴びせ続けている鳥頭のゴーレムがいるからだ。
「なめンじゃねえぞォ! 」
返し刀.......いや、この場合は返し拳でベクトル操作により加速した右手をゴーレムにぶち当て全身にヒビを走らせバラバラにするアクセラレータ。
だが武器を破壊されたダビデに焦りはない。
それに違和感を覚えた直後、アクセラレータは背後で響く音に戦慄した。
慌てて後ろを振り返るアクセラレータの前で自分が崩したはずのゴーレムがズズズズ と音を立てて再生していく。
「生憎だが、ゴーレムは壊しても壊しても再生する。そう簡単に倒せないぜ。さて、今回は本気を出すぜ? 」
刹那、ダビデは巨大な火薬玉のようなものを取り出した。
導火線のようなものの付いた古典的なそれに火をつけ放り投げる。
なんらかの爆発攻撃かと警戒するアクセラレータだが直後に首を傾げた。
確かにダビデは火薬玉を放り投げた。だがその投げた向きはほぼ真上。明らかにアクセラレータに向けて投げてはいない。
その上、ダビデ本人は火薬玉から逃れるように後方に走っている。
アクセラレータが見上げる前で火薬玉は爆発した。
刹那、その火薬玉から飛び出したのは無数の子弾、正確に言えば特殊なペイント弾である。
地面で間隔を開けて71箇所に着弾したペイント弾がはじけ地面に文字を現出させる。
「あの文字......さっきの!? 」
アクセラレータが警戒し身構えた直後71箇所の文字が描かれた場所から71体の巨体が湧き出してきた。
「さて、そんじゃ楽しんでもらおうかぁ。この『72柱の巨魔』で 」
その昔、エルサレムにソロモンという王がいた。
このソロモン王はエルサレム神殿を築く際、神から授かった指輪を使って72体の悪魔を使役し神殿を完成させたという。
ダビデの術式はこの伝承をベースにしている。
即ち現れた71体のゴーレムと最初に出現したゴーレムアモンはそれぞれソロモンが使役したといわれる悪魔の象徴を刻み込まれた擬似悪魔と言うべき存在なのだ。
結社随一のゴーレム使いであるダビデ。その彼が使役する巨大な擬似悪魔達がアクセラレータの前に立ちはだかる。
「さあ、饗宴(パーティー)の始まりだ。とくと味わえ! 」
ダビデの叫びと共にゴーレムたちが一斉にアクセラレータに襲いかかった。
妹達(シスターズ)を巡る一連のながれは既に原作の流れから、少なくともこの時点では外れていた。
原作ではこの時点ではあり得なかった魔術(ダビデ)と科学(アクセラレータ)の邂逅。
これが何を示すのかを知るのはただ神のみ。
<章=第五十三話 とある車場の邂逅事件>
アクセラレータとダビデの戦いは激しさを増していた。
アクセラレータにとって自分と接戦を演じる相手と戦うのは久しぶりであり、すこし歓喜が混じっている様な表情を浮かべながらベクトル操作による攻撃をかけていく。
一方のダビデにしても、科学側にしろ魔術側にしろ72体のゴーレムによる同時攻撃を相手に互角以上の戦いを展開する相手との戦いに高揚感と興奮を感じていた。結社一のゴーレム使いである彼はまた生粋の戦闘狂でもあるのだ。
「ゴーレム72体の攻撃でも潰れんか。こいつは大した大物だぜ.......こいつ相手にはむしろ数で押さない方が良いかもな 」
ダビデは別に吸血鬼や人造神のような人外の存在ではない。よって体内で精製するマナには限りがある。72体もの擬似悪魔(ゴーレム)を同時に使役する状態をいつまでも維持できる訳ではない。
つまり、長期戦はダビデに不利なのだ。ゴーレム72体を同時に操る術式『72柱の巨魔 』はダビデが扱う術式の中でも最強の威力を誇る。擬似体とは言え悪魔をモデルにしたゴーレムの力はは絶大でありそれの集団攻撃は今まで結社の敵としてダビデの前に現れた者をただ1人の例外を除いて叩き潰してきた。
だがそんな強大なはずの攻撃が目の前の敵、アクセラレータには通じない。いくらゴーレムがその巨大な拳を振り下ろそうが、それぞれの悪魔を象徴する魔術攻撃を加えようが、その全てが例外なくアクセラレータの斜め後方にそらされてしまう。
「(........あいつがなんらかの力を使ってるってのは理解できるんだが........狙いを逸らす力とかか?だがそれなら『全ての攻撃を斜め後方に逸らす』意味が分からねえ.......それにウォールの瞬間移動野郎とナタリーを狙った時の攻撃は『狙いを逸らす力』で出来るものとは思えない............くそ!科学側についての知識なんてそうあるわけないだろうが........分る事は、こいつが能力者の中でもかなりの実力者だろうってことだけか.....) 」
アクセラレータに対する考察を行いながらダビデは72体にアクセラレータの意識が向いているのを確認した上で懐から取り出したチョークで地面に紋様を描く。
「神(ヤハウェ)を信じぬものは地に飲まれん。かつての反逆者共と同様、永久(とわ)に奈落のそこに封じられんことを! 」
ダビデの叫びと共に地面に描かれた文字が光を放つ。
刹那、文字が描かれた地面を起点にアクセラレータが立つ場所にまで地面に一直線にヒビが入る。
アクセラレータが首を傾げた直後、彼の足元の地面がパックリと大きく口を開いた。
そのままアクセラレータの体は奈落の底に向けて自然落下する......訳がなく背中に発生させた小規模の竜巻のようなもので滞空した。だが、直後アクセラレータの表情が曇る。
「これは......下から引力が? 」
「その通り、悪魔が住まう地獄が地下にあると仮定し、擬似悪魔たちをその象徴として地下に一定の位置に配置することで発動する。ユダヤの神、ヤハウェに逆らった反逆者や異教の者を神が地の底に落としたという逸話を元にした術式さ 」
引力という下向きのベクトルを操作して上向きにしようとしているにも関わらず、能力を使った干渉が出来ないという異常事態にアクセラレータの額を汗が流れる。それは端的に彼の焦りを示していた。
アクセラレータが焦るということは色々と珍しい。だがもちろんダビデにそんなことが分るはずがない。
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン