とある世界の重力掌握
「あァ、そうだなァ......だがよ、一つ忘れてンじゃねえのかァ?俺の力はベクトル操作、そしてその力はあらゆるベクトルを観測し、触れただけで変換する能力。 確かに俺は今テメエの力で動けねえが......ベクトルに触れてないわけじゃないンだぜ! 」
次の瞬間、護の周囲の大気がかき混ぜられ、M7クラスの暴風となって護の体を吹き飛ばした。
「な!? 」
中空に吹き飛ばされ、そのまま真っ逆さまに落ちて行く護だが重力操作によりなんとか地面に無事に着地する。
だがそこにアクセラレータがベクトルを操作し放った列車用のコンテナが突っ込んでくる。
「超重力砲(グラビティブラスト)! 」
護が放った重力波がコンテナを吹き飛ばす。だがその隙をついたアクセラレータの拳が真っ直ぐに護の顔を捉える。
「がは! 」
ベクトルを利用した拳の一撃は彼の細身の体から放たれたと思えない重さを持つ。
そのまま吹き飛ばされた護は並びたつコンテナの一つにぶち当たりコンテナの側面にめり込みをつくる。
そのまま地面に崩れ落ちる護を見てアクセラレータは歪んだ笑みを浮かべる。
「まずは1人ってことかァ。さて、次は誰が暇潰しに付き合う気かァ? 」
既に護の重力操作から開放され自由になっているアクセラレータが次に目をやったのは救民の杖のナタリーである。
「第4位は重力操作、そこの奴は瞬間移動系能力者(テレポーター)
、となるとさっきの火柱を起こしたのはテメエだよなァ?どんな理屈かしンねえが反射を狂わせた不確定要素は早めに潰さしてもらおうか! 」
言葉と共にアクセラレータは周囲に積まれている鉄骨に触れる。
その途端、ベクトルを操作された鉄骨が凄まじい勢いでナタリーに襲いかかる。
「エロハが示すは世界樹(セフィロト)の中、その力が示すは太陽、黄金(アカツキ)の光を持って汝が敵を打ち砕かん! 」
彼女が言葉を放った途端、手にもつカードが爆発的な閃光を発する。その光は光線となって直進し、迫る鉄骨を一瞬で消しさった。
当然、その先にいるアクセラレータに光線は向かう。
「ち! 」
舌打ちしつつアクセラレータはその光線を避けるためベクトル操作により背中に竜巻の小型版のようなものを纏わせ宙に舞い上がる。
直後、光線がアクセラレータのいた場所の後方にあったコンテナに直撃し、その側面に大穴を開けた。だが光の効力はそこまでのようで、そこで光は消えた。
アクセラレータは空中に滞空しつつ光を放ったナタリーを忌々しげに見た。
以前のアクセラレータなら敵の攻撃をわざわざ避けようなどと考えもしなかっただろう。
だが数週間前の第4位との戦いの際に、突如現れた奇妙な少女にアクセラレータはベクトル反射を素通りする攻撃で一方的に倒された。
今も下でカードを構えるナタリーはその時の少女ほどではないがベクトル反射に異常をきたすような攻撃をしてくる。よってアクセラレータはナタリーの攻撃を避けたのだ。
上空のアクセラレータと下のナタリーの視線がぶつかり合う。
刹那、アクセラレータは自らを覆う保護膜に触れている大気のベクトルを操作する。
ナタリー周辺の大気が揺らぎ、その全てのベクトルがアクセラレータの手中に収まる。
「ヒャハハ! 吹き飛べ! 」
アクセラレータの奇声にナタリーが身構えた直後、彼女の体は一瞬で遥か高空に吹き上げられた。
「畜生! 」
ナタリーが魔術師とは言え、そんな高さから落ちれば確実に死ぬ。そう高杉が考えたのは当然だった。
無限移動により空中にいるナタリーをお姫様だっこする高杉。
だがそれで助けられたわけではない。なにしろまだ周辺の大気はアクセラレータに支配されたままなのだから。
アクセラレータの力によって巻き起こされた幾つもの巨大な竜巻が四方八方からナタリーを抱いたままの高杉を襲う。
瞬間移動で避ける高杉だが移動した先にも直ぐに竜巻が迫る。地面に着地しても逃げられない。このまま逃走しようにもリーダーを置き去りにしたまま逃げるわけにはいかない。
しかもアクセラレータは少しでも距離を置こうとする高杉をあざ笑うかのように背中に小規模の竜巻のようなものを作り出し距離を詰めながら竜巻をぶつけてくる。
つまり逃げられないのだ。高杉の『無限移動』は正確な位置と座標が分かればその距離を無視して移動できるが、その為には精密な座標計算が必要になる。
だがナタリーを抱えた状態で、それもアクセラレータの攻撃を避ける為に常に瞬間移動をしなければならない状態での長距離移動用の座標計算は殆ど無理である。
よって高杉はひたすらアクセラレータの攻撃を避けるしかない状況に陥っているのだが......
アクセラレータがそんな高杉の隙を見逃すはずがなかった。
竜巻の攻撃ばかりを想定していた高杉はアクセラレータが移動しつつ触れていた鉄骨をベクトル操作して高杉に向けて放ったのを見て慌てて瞬間移動する。だが移動した高杉の目に映ったのは視界一杯に入る巨大なコンテナ。
アクセラレータは高杉の瞬間移動の行動パターンから移動の未来予測地点を計算し、そこに向けて強風でコンテナを吹き飛ばしたのだ。
高杉に避ける術はなかった。
刹那、突然高杉達の頭上を何かが舞い、地面で炸裂する。炸裂した何かが消えた後に残ったのは奇妙な文字。
その直後、突然声が響いた。
「アモン! 」
その声が響いた瞬間、地面から壁が湧き出す様に現れた。
いや、それは壁ではない。巨大な土人形の体である。
「おい、学園都市最強の能力者。うちのメンバーが世話になったな 」
高杉達の後方から聞こえて来た青年の声にアクセラレータが訝しげな目線を向ける。
「だれだァ、てめえは 」
アクセラレータの言葉に少年は口元を吊り上げて笑みを浮かべる。
「律法学者(ラビ)ダビデだ。そこの奴の同僚さ。悪いが貴重な組織の人材を殺させるわけにはいかねえんだ 」
前方でいくども続く異常事態に半ば混乱するアクセラレータ。
そんなアクセラレータに後方からも異常事態が襲いかかる。
「第壱の技、緋炎斬波!」
声とともに放たれた緋色の炎はアクセラレータに届く事は無く保護膜に触れた瞬間、斜め後方にそれて行く。
だがその攻撃は間違いなくアクセラレータのベクトル反射に異常をきたしていた。
「この声は......第4位......まさか、あの時の? 」
いつものふざけた調子の言葉使いが消えているアクセラレータに向けて、ボロボロの体を動かし立ち上がった護は己の武器、アクセラレータに唯一対抗できる自らの力、緋炎之護の切っ先を突きつける。
「これ以上、やらせはしないよアクセラレータ。まもなく僕達の切札が来る、それまで付き合ってもらうよ! 」
「切札だァ? いったい何を言ってやがる? 」
「それについてはすぐ分かるさ。今は........ 」
護の十文字槍にダビデのゴーレムアモン、2つの異質な武器がアクセラレータに向けられる。
「お前の力で対応しきれない異質な攻撃に注意を向けるべきだぜ! 」
護の言葉を継いだダビデの手が振り下ろされアモンの開かれた口から凄まじい業火が迸る。
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン