Angel Beats! ~君と~
「貴様、硬貨は全国共通かどうかは知らんが絵柄が在る方が表。『100』と書かれている方が裏だ」
殺気を放ち、更に相手を睨み付け相手を金縛りに陥らせ最後にこう言った。
「頭が可笑しいのは貴様だ」
「すんませっしたーーーー!!」
全力で土下座をすると、後からでも分かった。
ゆりが満面な笑みを浮かべている事を‥‥‥。
「土下座をしている奴は放っておいて、試合を開始する。それぞれ所定の位置に着け」
SSSチーム全員は円陣を組み合っていた。
『………………………………』
「ちょっと誰か言いなさいよ」
「んじゃ俺が言うよ」
「よろしく、音無君」
指示を受けると大きく息を吸い、吐いて、もう一度息を吸いそして―――――
「バラク・オ○マ!」
「いや、人名じゃなくて…………てか何でギャ○マンガ日和のネタを真似ているのよ!」
「まあ、それで良いんじゃね?」
「んじゃあ、せーの」
ゆりの意見を無視し、結弦は掛け声を掛ける。
『バラク・オ○マ!!!』
「何言ってるんだ?あのチーム」
「さあね」
「じゃあ、行って来い!音無!!」
「おう!」
バットの柄を握るとバッターボックスに入った。
「プレイボール!!」
低い声が試合開始の宣言を示した。
(全国大会優勝チームか……侮れないな)
ピッチャーはそれほど背は高くはない。大体、大山が少し大きくなった位だろう。
腕を回すと大きく振りかぶり、勢い良く投げた。オーバースローだ。
速い。
「ボール!」
ボールはやや下目の内角だった。
わざとボールゾーンに投げたのは様子見だろう。
(速いな……)
キャッチャーはボールをピッチャーに投げ渡すと元の体制に戻る。
ピッチャーは肩の調子を確かめるかの様に腕を廻した。
(ボール球を見切れるとはな………コイツ、出来るみたいだな。次の合図はっと。おいおい、『本気』を出せかよ‥……っったく、ま、俺は前半戦しか出ないけどな)
心の中で愚痴ると振りかぶり、ボールを投げた。
(速い!?)
さっきとは全然速さが違うボール。結弦は早めにバットを振る。
キィン!と音がするもボールは真後ろのバックネットに飛んだ。
結果はファール。これでワンボール、ワンストライク。
「ほーう、俺のボールに当てられたのはお前が初めてだ」
「それは誉め言葉なのか?」
「勿論、誉めてるさ。さあ、話は終わりだ」
適当に話を切ると、大きく振りかぶって投げた。
バットを思いっきり振るもボールに当たらず空を切る。さっきよりも更に速い。
「ストライク!」
ツーストライク、ワンボール。後、一球が最後のチャンス。
速くなって行くボール。まるで相手は球遊びをしているかの様に余裕の顔をしている。
(まずいな……)
「さあ、当てられるかな?」
「当ててみせる…!」
「意気込みは充分の様だが、当てられなきゃ意味が無いっぜ!!」
最後の掛け声でボールを投げる。
(げ!?)
まさか話の途中で投げられるとは…と思ったがもう心の準備はできている。
(いける!)
速いが所詮ストレート。タイミングさえ見極めれば当たる最高のチャンス。
結弦はそのチャンスを逃さない。
カァン!と良い音がしたがタイミングにラグが発生した。
ボールはピッチャーの頭上に、そしてグローブをただ上に上げる。それだけで捕られる。
「アウト!」
「すまない、ゆり」
ベンチに行くと即座にゆりの所へ行き謝る。
謝らなければきっと何かされる、そんな気がした。
「良いわよ謝らなくて。それにあんな速いボールに当てた事にこっちが驚きよ」
バッターボックスでは「Sihiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiit!!」と悔しがる声が聞こえた。多分、打てずにスリーストライクにされたのだろう。
(TK凄い悔しがってるな……あ!あいつ目元にバンダナを付けてるからか!いや、でも関係無いか……)
少し前の試合でもホームランを売っている。バンダナが有っても無くても関係は無いだろう。
とぼとぼ帰って来るTK。即座にゆりに謝った。
「Sorry, Ms.Yuri. 面目無い……」
「良いわよ、仕方無いわ。あのボールだもの」
「うん、そうだよTK。仕方無いよ」
「Yamaちゃん…Thanks」
(TKって大山の事を『やまちゃん』て呼ぶんだな)
別の所に感心をしていると、
「よし、次は俺の―――――」
「バッター交代!」
「えぇぇぇぇ!?ゆりっぺ俺の出番は!?」
「あんたは暫く出番無し!」
絶望的になった日向を放って置いて、代打をゆりは決めようとした。
(さて、どうしようかしら…高松君は意外な所で活躍しそうだし、関根さんは……論外ね………)
暫く考えた末、代打は決まった。
「遊佐、行って頂戴」
「ゆりっぺさん、私体力は有りません。それに下手したらヒットも打てません」
「ゆりっぺ~俺の方が絶対良いだろ!」
「あんたは黙って!」
観念したかの様にベンチに戻り、炭酸飲料を貰う。
「遊佐、耳を貸して」
ゆりは他の皆に聞こえない様、遊佐にある作戦を告げる。
「解りました。ですがちょっと恥ずかしいですね」
無表情ながらも少しだけ頬を赤らめる。
「絶対に上手く行くわ」
ハアと溜め息を吐くと細いリボンで縛ってあるツインテールの髪をほどいた。
髪は風に逆らう事は無く、ゆっくりと揺れる。
「遊佐」
「何でしょう音無さん?」
「そっちの方が似合ってるぞ」
「放って置いて下さい……」
恥ずかしながらもバットを手に取り、バッターボックスへと向かった。
(おいおい、何を考えているんだ?)
キャッチャーはミットを構えて遊佐を観察した。
(柄は短く持ってるか……、なら外角やや高めの方が打ち取り安いな)
この方法は結弦、TKをも打ち取らせた戦法だった。
相手の大地の踏み込み具合、バットの柄の持ち方、そして身体の向き具合、これで大体は打ち取り方法が判る。
TKだったら柄を長めに持っている、踏み込みは内側へ向いている。これだったら内角低めの方が打ち取り安い方法。
(今度はそう打ち取るか……)
ピッチャーはミットの位置を確認すると、振りかぶり投げる。
(『良い?まず、柄を短めに持って。相手がボールを投げたら即座に柄を長めに持って頂戴。そしたら打てるわ』)
(成る程、ゆりっぺさんは案外頭が良いみたいですね)
遊佐は作戦の内容が恥ずかしい訳では無い。ただ打って目立、その行為が恥ずかしい。それだけ。
即座に柄を長めに持ち、体制を整えるとキィン!と良い音がする。
(な…!?)
(打たれただと……!?こんなか弱そうな女の子に?)
ゆりが用いた作戦は心理も利用している。遊佐が打てたのは球の速度が少々遅めになっていたからだ。
打ったボールはサードラインのギリギリ越しそうで越さない所に勢い良く飛んだ。
「フェア!」
その言葉を聴く前にもう走り出していた。
作品名:Angel Beats! ~君と~ 作家名:幻影