Angel Beats! ~君と~
どうやら穴を空けるのではなく、挟んで見せかけているみたいだ。
「そうだったんだ……」
見せつけられるピアス。
銀色で樽の様に丸い。耳に付けたら、穴を開けている様には見えない。
「Yamaちゃんもどうだい?」
「僕は遠慮するよ…」
「そろそろ交代だ二人共…」
日向が割って入り、グローブを渡す。何か元気が吸いとられた様に、日向から力が感じ取れない。
「Time Limit…change」
「僕もそろそろ出なきゃ…」
受けとると、二人は持ち場に付いた。
「お母さん…」
ベッドに横たわっていて、白い布団をお腹の辺りに掛けている少女は喋る。
「なぁにユイ?」
「あたし…体治るのかな?」
ユイは事故に会って以来、その後遺症として下半身が動かなくなってしまった。
本人にとって、道端で歩いている人はとても幸せ者だと思う。歩いている人にとっては当たり前かもしれないが、ユイはその当たり前の事が出来ない。
「……」
「ごめん…変な事聞いちゃった……」
母親の悲しい眼差しを見てユイは後悔した。
いつも傍に居てくれて、いつも味方になってくれた母親。父が死んでも一人でユイを父の分まで、見守ってくれた母親。こんな身体になっても見捨てない母親。
「とりゃ」
プニプニとユイの頬を両手で触ってきた。
「お母さん…?」
「絶対…治るから……。だから、私は治るまで傍に居るから。治らなくたって良い。貴女が傍に居るだけでお母さんは幸せだから…」
「お母さん…」
自分が聞いて、アホだった。
こんなにユイのことを思ってくれていて…。
「あ…!そろそろプロレス……ってもう時間が!」
「え?…あ!ホントね……すぐにテレビを点けるわ!」
急いで窓側にあるテレビを点けると、覆面男とチャレンジャーの男がもう決着を付ける所だった。
『さあ、両者一歩も譲らない…!チャレンジャーの田所そろそろ限界か?肩で息をしている!一方の我らの覆面レスラーこと、ライオンマン!凄い余裕です!!おーっと、ここでライオンマンの右ストレートが田所のみぞおちに入ったぁぁぁあああああ!!!』
「お母さん…ライオンマン強いね!流石だよライオンマン!!」
目を輝かせてテレビに食い付くわが娘のユイ。
いつも寝たきりなので暇さえあれば、音楽番組、バラエティー、プロレス、等を見ている。
ただ母親としてユイには女の子らしく、プロレスではない番組に興味を持ってほしい。
「ええ。そうね…」
でも、本人が興味を持った事は強制して止めさせる、ということはしない。
『もうフラフラ状態!チャレンジャーの田所!!ですがここまで耐えられたレスラーは初めてです!ライオンマンに勝ってほしい所ですが、田所にも負けないでほしい!!』
「どっちの味方?」
「わ…判らないわ……」
『鬣(たてがみ)を靡かせ、次々と田所の攻撃を避けるライオンマン!!凄いぞライオンマン!!おーっとライオンマン…左ストレートを外した!?何て事!!これではノーガード状態!!!』
「あ…!」
(着いていけない……)
『田所の攻撃!おーっと何という華麗な避け方!!そして、田所の後に回りこんだ!わざと外させたのか!?田所、不味い!』
「おー!!」
(ごめんなさいユイ……お母さんまったく着いていけないわ………)
『田所の腹を腕でしっかり回しこんだ!!これは…やはりライオンマンの一撃必殺……』
ライオンマンは実況者が言う通りに、腕を回しこみ相手を持ち上げ、思いっきり床へブリッジで叩きつけようとしている。
『ジャーマン・スープレックスだぁあああああああ!!!』
ドガン!と床へ叩きつけられた田所は無抵抗状態になった。
『ワン・ツー・スリー・フォー・ファイブ・シックス……』
『田所、立つんだ!逆ブリッジだ!立つんだ!』
『ナイン…テン!!』
ゴングの音が鳴ると同時にユイは喜んだ。
「プロレスって良いね!お母さん!」
「ええ(ごめん…面白さが解らないわ……)」
外見は笑っても、心が笑っていなければつまらないもの。
『ライオンマン、強いぞ!!これでベルトの死守五十回です!!っ流石ライオンマン!!倒せる者はいるのか!?次の挑戦者はいつでも募集中だそうです!さてもうお時間になりました。実況は馬塲でお送りしました!次回も実況やりたいっすね!!次の番組は『ニュースの木』です!では、また皆さまに逢える日を楽しみにしています!』
「終わっちゃった……」
「そうね…(何処が面白いのかな…今度調べよう……)」
心の中で娘の為に決心する母親。
「お母さん!」
「なぁに?」
「あたし、ジャーマン・スープレックスしたい!!」
「その前に、足を動かせる様にしなきゃね…」
その言葉を聞いた瞬間、ユイは固まってしまったという。
作品名:Angel Beats! ~君と~ 作家名:幻影