Angel Beats! ~君と~
(…よし、僕が……!)
ついに決めた。
皆の役に立つことを。
未だに、『俺がやる』 『あたしがやる』と言い争っている皆に――――
「僕がやるよ!」
この時、大山は一歩、進歩したと思った。
『じゃ、どーぞどーぞ』
「え?」
小枝は、解らない。何故、ここまで熱く議論をしていたのに…
小枝は思った。
(ダチョリブレかーーーーーーーーーーー!!?)
心の中で叫んだが、その思いは誰にも届かなかった。
「大山の意志で決めた事だ。尊重してやんよ」
「浅はかなり…」
「頑張れ!大山!」
「肉うどんを今度奢ってやるぞ!」
「ヱーーーーーーーーーーーーー!?」
こうして、大山はキャッチャーをやる事になった。
(あれ?……って事は…)
小枝は考えた。
キャッチャーの手が内出血する程の球…そして、好きな人……
(絶対に外せないじゃん!!)
そう。もしも好きな人がケガをしたら、大変だ。
「音無君、僕キャッチャーの経験ゼロだよ…」
「大丈夫。ど真ん中にミットを構えてろ」
野田はアホでも役に立たない事は解っているので、サードで突っ立ったまま。
もしも打たれたとしても素手で捕る、と意気込みをし、藤巻が近くでサポートをしている。
(ど真ん中って…ここら辺かな……?)
実際に構えてみるとキャッチャーミットは結構重いと実感した。プレッシャーものせいかもしれないが。
(絶対打たなきゃ絶対打たなきゃ絶対打たなきゃ絶対打たなきゃ絶対打たなきゃ絶対打たなきゃ絶対打たなきゃ絶対打たなきゃ絶対打たなきゃ絶対打たなきゃ絶対打たなきゃ絶対打たなきゃ絶対打たなきゃ絶対打たなきゃ絶対打たなきゃ絶対打たなきゃ)
こっちもプレッシャーが掛かっている事を大山は知らなかった。
『………』
観客席が妙に静けさを保っていた。
「静かね…」
「そうですね、ゆりっぺさん」
会話をしている内に結弦がボールを投げる。
(速っ!?)
予想外の速さに小枝は驚くが、バットを振らない訳にはいかない。
キィン!と良い金属音が響くが、ボールは真後ろのフェンスに直撃する。ファールだ。
(手が……)
かなり両手に何かが響いた。握力が弱まるも、精一杯強く握る。
(一球目でこんなに…センスがあるね……)
例え敵対する相手でも誉める、それが彼女のやり方。
「おかしいですね…」
「どうしたの?竹山君」
「スピード計測したところ、153キロ出ました。それと、『クライスト』とお呼び下さい」
「ちょっ…それ本当?」
「嘘をついてどうするんですか」
こんな緊迫した状況では嘘なんて通用しない。
冗談だろうと思い、竹山の目を見たがその目は真剣だ。156キロ出たのは本当だと分かった。
「……それもそうね…」
ゆりは結弦と小枝がどうなるのかは分からない。ただ、見守る事しか出来なかった。
「最早………、もう野球小説ね…」
「それは言ってはいけません、ゆりっぺさん」
(ボールが真後ろ……タイミングはあれで良いんだよね…)
(不味いな……一球目でタイミングを合わせられるなんて……)
二人は睨み合う。気が抜けると気圧されそうだからだ。
前まではうるさかった観客席も二人を見守る様な形で睨む。
(は…ハイレベル過ぎる!)
この状況下、大山はこんな事になるとは知らなかった。
今更ながらあの時は挙手はしなければと後悔する。
前を見ても、左前を見ても、『気』が溢れている様な気がした。それと何か後ろの存在感が凄すぎる。
「(僕がキャッチャーなんかで良いのかな?)………」
特徴が無い事が特徴な大山はそれでも構える。経験ゼロでも少しでも役に立つ様に。
(後…二球か……)
堂々と真ん中にキャッチャーミットを構えている大山にアンダースローで思いっきり投げる。
そのボールを計測した竹山は、
「160キロです!」
「ウソ!?」
驚くしか出来なかった。
(外す訳にはいかない…!)
思いっきりバットを振ると、また良い金属音が出る。
(打たれた……!)
(しまった…!?)
打ったは打ったのだが、ボールは思う様に飛ばない。
ただ打ち上がっただけ。
タイミングがずれた、それだけ。
(あれ?飛ばない……)
「セカンドフライ……」
(『お前…成仏(きえる)のか?』)
(消える…?)
謎の言葉が結弦の頭を過る。
最近はそんな事が起きなかったが、久々に起きた。
「……あー、負けちゃった………」
小枝は思わず、呟いてしまった。
負けるのは初めてなのだ。
(タイミング…合ってたと思ったのに)
たったの7キロの差。この差だけでこんなに違うもの。
(これで…約束が果たせるのか……)
日向はグローブが付いた手を伸ばす。
(そいつは…最高に気持ちが良いだろうな……)
パスッと日向のグローブから音がする。
アウトだ。
「アウト!ゲームセット!!」
長い戦いが終わった…
『ワアアアアアアアアア!!』
と何かで塞き止められていたのが崩れたかの様、観客席から声が上がる。
「落としてくれなかったな…日向……」
悔しいかったり、楽しかったり、何か色んな気持ちが混ざっていた。
「でも楽しかったよね。小枝さん」
自分より少し大きい大山が立ち上がり、声を掛ける。
声を掛けられるのは久々。少しだけ、恥ずかしそうに答える。
「そうだね…大山君」
振り向いた時、大山に見せた笑顔はそれはそれは、最高の笑顔で答えたという。
球技大会編 END
作品名:Angel Beats! ~君と~ 作家名:幻影