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【腐向け】サンタが贈り物 /ロイエド子

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「三十路にもなって純粋無垢にサンタを信じてやがるのはテメェか?」


自分以外誰も残っていない深夜の執務室。
突然振って沸いた声は幼くも年寄りにも思え、思わず背筋が凍った。
全く気配を感じなかった事を不審に思いながらも、気付かれぬよう発火布を胸ポケットから取り出し装着する。

ゆっくりと振り向いたその先にいたのは…。

サンタクロースのコスプレをしたそれはそれは可愛らしい小さな子供だった。
思わぬ展開に目を見開き呆然と立ち尽くす。


「てめぇが毎年毎年反吐が出るほどのあどけない心で願い事しやがるもんだから、サンタのジジイが三十路記念とか言って特別サービスしちまったじゃねぇか!」


配達する俺の身にもなれよな、と肩に乗せたずた袋を床におろし改めて私の正面に向かい合った。
まるでタイマンでも張る気なのかと言わんばかりの強い眼差しが突き刺さる。
発火布を付けたままの現状で何かあっても負ける気はせず、しっかりと受け止めてやった。

軍の執務室など大佐とは言え質素な部分も多々あり、その際たるものが飾り気の無い蛍光灯だったのだが、そんな安っぽい明かりの下でサンタの弟子の髪は驚く程にきらきらと輝いていた。
よくよく見ればその瞳さえも金色で、瞳孔の深い色彩と相俟って琥珀のようでもある。


「君は?」

ふと疑問を口にすると。

「サンタのジジイの弟子。」

案外素直に返ってくる返事。
そのギャップまでもが可愛くて、これだけ自分の好みのタイプなのだったらもしかして、と思った。


「じゃあ…私にプレゼントを持ってきてくれたんだね!」

「ってお前何普通に喜んでやがんだよ!仮にもアンタ国軍大佐なんだろ?!あったまおかしいんじゃねぇの?」

「だって嬉しいじゃないか、子供にしか配られないと解ってはいたけどもしかしたらと手紙を出し続けてもう15年以上だ!」

「………まじきもい。」


これでもかと繰り出される言葉は罵詈雑言と言っても過言ではないのに何故か耳に心地よく響く。
私は益々機嫌が良くなって、思わずその小さな身体を抱き上げてしまった。

じたばたと暴れだす四肢を押さえ込み、益々力を込める。サンタの弟子だと言うのに、柔らかな金髪からは何故かお日様のような匂いがした。


「だっ、から!何なんだあんたは、離しやがれ!!」

「んー、多分なんだけどね。」

「何だ!!」

「君がサンタクロースからのプレゼントなんじゃないかと。」

「は?」


だって私が手紙にしたためたのは「生涯を共に出来る最高の伴侶」だからね。


「そんな筈あるか!俺はちゃんとプレゼントを袋に入れてきたんだ、この手で。あの袋の中に入ってるから俺を離せっつーの!」

「君、サンタになるのかい?」

「そうだよ!これが最後のバイトで、滞りなく戻れたら正規のサンタになってもっさり白い髭が生えてくるはずなんだ!身体だってもっとふくよかになれるし…。」

「やめたまえ…。せっかく可愛いのに勿体無いじゃないか。」

「とにかくあの袋の中のもの見てみようぜ?きっとあんたが一番望むものが入ってるはずだからさ。」

「いいだろう。」


多分何も入ってないだろうけどね、とは言わないでおいた。今欲しいものなんて大総統の地位なんかより断然君なんだから。

そっと床に降ろしてやると、地に足が着いて安心したのかほっと安堵の息を吐く。
ちまちまと小走りで床に置いてある白いずた袋に近づいて、男らしくがばりと開いた。


「あ、ほら箱が入ってるぜ?開けてみてよ…俺は開けらんないから。」

「よかろう。」

「偉そうだな、脳みそファンシーなくせに。」

「君、自分の存在がファンシーだってそろそろ気付いた方がいいと思うよ?」

「うるせー!」


受け取った箱は然程大きくも無く、間違えてもここに伴侶さんは入らないだろうと思った。
入っていたら猟奇事件だ。
リボンを解き、無造作に包装紙をばりばりと破ると中からは謎の木箱。


「木箱…だね?」

「木箱だな。」


ぱかんと軽い音をたてて木箱を開けると、中には紙切れが二枚入っていた。
一枚目に目を通す。

私は内容を流し読み(仕事で培った特技だ)にやりといやらしく口元を歪めた。


「君、相当問題児だったようだねぇ。」

「なっ…、何が書いてあったんだ…。」

「君にはサンタの才能がないからお払い箱だと。」

「まさか!」


青褪めて便箋に飛び付き、文の内容を何度も何度も目で追っている。
ほぼ内容は先に述べたままなのだが、多分この子にとっての一番の問題は今私が手に持っているもう一枚の紙のほうなのだ。

がくりとその場に膝を付き、ぶつぶつと一人で何かを呟いている『元』サンタの弟子。
さぞやあの白いお髭を蓄えたかったのだろう。
しかし私は情け容赦なく、子供の目の前に手に持っていた紙を突き付けたのだった。


「……なに?…それ。」

「君の新しい戸籍みたいだよ?」

「え…でも俺サンタの木から生まれたのに…。」

「私と結婚する為にわざわざ用意してくれたのではないかね?」

「…あれ?これ…俺の性別女になってんだけど…。」

「君男の子だったのか?」

「ううん、サンタになるまで性別ないから。ってまさか!!」


可憐な外見とは裏腹に、男らしくズボンのウエストから腕を突っ込みなにやら弄り始めたと思ったら、ぎょええだかぎゅぶるだかまるで宇宙人のような奇声を発し、ガタガタと震え始めた。


「わ……。」

「どうした?大丈夫かい?」

「割れてる!!」

「生々しいなぁ…。」

「お、おれ…サンタになりたかったんだ…。」

「うんうん。」


私は我を見失い茫然とした体の小さな身体をそっと抱き上げ、ソファーの上で膝抱っこしてやる。
ぽんぽんと背中を叩いてやりつつ話を聞き、相槌を打っては言葉少なに慰めの声をかけて。
すると段々落ち着いてきたのか、漸く先程までの強気な発言がちらほら飛び出すようになってきた。


「おい、ファンシー三十路…俺の意思は関係ねぇのかよ!」

「だって君はサンタクロースがくれたプレゼントじゃないか。チェンジとかキャンセルは無しだよ。」

余裕の笑みを浮かべた私に、憎々しげな視線を向ける少女。
全く楽しくて仕方ない。


「エドワード…。」

「っ!!!なんで俺の名前っ!」

「書いてあるじゃないか、ここに。」


指差した先には戸籍謄本。
偽装なのか、魔法なのか解らないが、とにかくサンタクロースは素晴らしい人格者だと思う。

「くっそー!あのクソジジイ!!」

「あはは、可愛いなぁエドワード!」

「はーなーせー!」

ぎゅむぎゅむと抱き締めては頬擦りし、心行くまで感触を堪能した。
最高だな。


「さぁ、じゃあ行こうか。」

「へ?どこへ?」

「まずは婚姻届を出して、それから私たちの愛の巣へ、だよ。」

「やだー!」

「いい加減諦めたまえよ、君私と離れたらこれからどうするんだい?」

「うっ…。」

「それに……。」

言葉を詰まらせつんと尖る唇に、ちゅっと音を立ててキスをする。
腹を押さえ込んでいた掌をするりと股間に這わせ真紅の布の上からそっと縫い目をなぞり。