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君が何かを企んでいても

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   そんな恋人の予想外の言葉に、思わず押し黙ってしまったイギリスの明らかな落ち込み様は、受話器越しからも汲み取れてしまうものだった。その反応に香港は苦笑まじりにフォローをいれようとする。
「あのさ、マジごめん?でもイギリス、そんなガチヘコみしなくてもすぐに会えるし…
「ごめんな。」
もう一度ごめん、と低めの声で、しかし妙にはっきりと繰り返すイギリスにさすがの香港にも少し動揺の色が浮かんだ。
「は?なんでイギリスが謝るんだよ。意味わかんなくね?」
「ごめん、おまえ本当はこういうの嫌だったのか?…俺と付き合うのもやめたかったのか?」
イギリス?と呼びかける香港の声は彼の耳にはまともに届かなくなっていた。
「ははっ、俺ってばそうとも気付いてやれないでいたなんてな…。ただひとりで好きでいて、浮かれて必死になって…ほんと、情けねぇ…
「STOP!!」
もう一度イギリスがごめん、と呟きかけた瞬間、香港の少々怒気の含まれた大声が受話器から彼の耳をつんざいた。恋人の、珍しく分かりやすい感情的な声にイギリスはようやく我に返る。しかし弁解をするにしろ、まだ完全に平静さを取り戻していない状態では上手く返す言葉が見つからない。

   しばしの気まずい沈黙を破ったのは香港の溜息だ。
「ちょっと、話が見えないんだけど…イギリスは俺と別れたいわけ?」
「ちっ、ちがうっ!ただ、お前は俺に合わせて付き合ってくれてたのかなって思ってたから…
やっと付き合えて嬉しかったけど、ずっと不安、だったんだ。お前、何考えてるかやっぱよくわかんないとこあるし…」
   またひとつ溜息が香港からもれる。が、今度のそれはすこし含まれる意味合いが違う。
「やっぱ会わなきゃな」そう小さく独り言ちた彼の語気はやわらかかった。あのさ、イギリス——と、ひとつ間を置いてからそのまま言葉を繋ぐ。

「たしかに、俺はマイペースなとこあるし、西洋のみんなみたいにしょっちゅう愛してるとか言えないけど…それでも俺は俺なりに、イギリスのことちゃんと想ってるよ。
もし俺とイギリスの気持ちに差があっても、俺は俺のペースでイギリスのこと、これからも好きになるからさ。」
香港が彼なりに丁寧に選び出していく言葉が再びイギリスの五感を揺さぶり、世界の輪郭を明確にしていく。
「イギリスが俺を恋人として扱ってくれるようになったこと、ほんとにすっげー嬉しいよ。だから、ガラになく俺のためにクリスマスとかイベント頑張っちゃうのも嬉しいけど…
イギリスがいつ疲れちゃうか分かんないのが、俺は怖いよ。」
最後は尻すぼみになってしまったが、彼の言葉ひとつひとつを取りこぼすほどにはイギリスも愚かでない。

ーーああ、恋というものは何故こんなに欲張りになってしまうのだろう。
はじめは想うだけで幸せなはずなのに、次第にお互いの気持ちにズレが許せなくなる。その不安や焦燥感が許せないのは、自分の心の平穏のためなのがたまらなく恥ずかしい。しかし今は同時に、香港が本音を聞かせてくれている事実にたまらなく満たされてゆく思いがした。
そうして黙って話を聴いていたイギリスに対し、香港はそのままゆっくり話を続ける。
「…全否定したいわけじゃないけど、とくに俺たちは永遠とかそういうこと無邪気に信じられないのは、ある意味仕方ないじゃん?でも、だけど望めば普通の人間よりも長く一緒にいることだってできるし。なのに、ムリに頑張り過ぎて結局ダメになるとか…
俺、イギリスとはそんな風になりたくないよ。」
   普段ストレートに気持ちを伝えてくれなかった香港が、一生懸命に言葉を続ける様子にいよいよ強い愛しさがこみ上げてきて、甘く頭がしびれた。
何故、彼は自分の気持ちを現してくれないなどと思ったのだろう。ちゃんと相手に問いかけずに、自分の中だけであれこれ考えてしまっているのは俺の方だったか。
「——うまく言えないけど、そんな感じでよくね?」
「…うん、そうだな。それでいい。」
ありがとう香港、と続けた言葉はとても自然で素直に出てきた。そんなことは久しぶりで、すこしくすぐったくなる。

「——じゃぁ、仲直りついでにとりあえずドア開けてくんない?」
「は?」
   イギリスが間抜けな声を出したと同時に玄関のチャイムが鳴った。慌てて受話器を放り出し、脚をもつれさせながらドアを開けると、そこにはスーツケースを携えた亜細亜系の青年が立っていた。頬が上気しているのは寒さのせいだろうか。
それはまごうことなき自分の恋人であったが、イギリスの頭は再びパニックを起こしてその現実をさっぱり情報処理できないでいる。急に冷気を吸い込んだせいか、鼻の奥がツンとした。
「あー、さっむ。なんでこんな英国って寒いの?俺もう凍え死ぬ的な。」
マジさみぃと愚痴りながら、大義そうにスーツケースを持ち直して家に上がり込むと、そのままリビングの方へ廊下を慣れたように進む。ドア口で惚けていたイギリスも鍵を閉めて後を追った。
「おまっ、なんで…来れないんじゃ…」
「だぁーかーら!来週はムリって、けどスグ会えるって、俺言ったじゃん。今日ってか昨日の便だけ超ミラクルにゲットできたから頑張って仕事詰めまくって来たの。そのこと言おうとしたら、イギリスってばいきなりテンパるしマジないんですけど。」
マフラーを外しながら呆れ顔で話す香港に、イギリスは顔を赤らめる。
「…っ!だからって、なんでその連絡が今日なんだよ!わかった時点で言ってくれればこんな事に…ああっ、もう。まだお前の部屋掃除してねーぞ?」

「なんつーの、サプライズ的な?イギリスってそういうの好きなのかなーって思ったから。」
   そう言った香港の笑顔に、思わずイギリスが彼を抱きしめたのは反射に近い行動だった。離れていても時々思い出していた恋人の身体の輪郭が今この腕の中にはっきりとある。この感覚を嬉しいだとか、愛しいだとか、言葉にすることもできたのだろうがイギリスはそれをよした。今はこの抱きしめる腕の強さに、彼の偽りない気持ちすべてを乗せたかったのだ。まだ羽織ったままの香港のコートからは微かに冬の匂いがした。

「イギリス…」
「うん?」
しばらく無言で抱きしめられていた香港が、もぞもぞとイギリスの腕の中から顔を出してきた。
「俺、イギリスのいれた紅茶飲みたい。」
ん、と顎をしゃくってダイニングに置き去りにされたポットを指す。
「昼飯は?」
「クリスマスマーケット連れてってくれんしょ?だったらとりあえず、一緒にお茶飲みたい。」
「…そうだな。」
   ゆるゆると解かれる腕はそれまで密着していた身体を離す代わりに視線を絡ませ、お互いに少し照れくさくさせる。そのままどちらともなく交わしたキスには、ほんのりとシナモンやクローブの香りがした。

(劇終)