こらぼでほすと 解除15
ギャアギャアと騒がしい食事が終わると、フェルトとニールはドックへ散歩に出る。もちろん、子猫たちと実弟も後を付いていくので、残るのは、スメラギとラッセだけだ。
そうなると、また、スメラギは、酒のカップホルダーを手にしている。ラッセも付き合いで、飲みに加わる。
「ドクター、ニールの健康状態は、実際のところ、どうなんです? 」
騒ぐわけではない。ニールのいないところでしかできない話のためだ。
「遺伝子情報の異常は完治したといえるでしょう。ただし、細胞異常のほうは、完全に修復できたわけではない。元の異常だったデータを許に作り出されている部分は、まだ正常ではありませんから、その部分の修復が終わるのに半年近くは経過を観察する必要がある。」
「・・・えーっと、つまり、半年後に、ようやくただの虚弱体になるってことですね? 」
「はははは・・・酷いなあ、スメラギさん。まあ、事実は、概ねそういうことですが。」
完全に全ての細胞が正常なデータで作り出されたものに変わるのに、それぐらいの時間が必要になる。再生槽に叩き込んだとしても、一ヶ月か二ヶ月はかかる代物だ。そこまで緊急を要しないから、日常生活の中で徐々に戻していく方法だと、それぐらいの期間になる。再生槽に叩き込んでも、それからリハビリすれば、同じような日数になるから、どちらでも大した違いはない。
「スメラギさん、ママニャンの復帰なら無理だぞ? すでに、うちの人間だ。組織のほうへ返すつもりは、うちにもないぜ? 」
「それは、わかってるわ、ハイネ。ただ、まあ、ニールだからね。ね? ラッセ。」
「そうだな。ニールだから、やらかすだろうからな。」
スメラギとラッセも、ニールの復帰は有り難いことなのだが、刹那たちマイスター組が強固に反対だから、さすがにそれを押し退けて認めるつもりはない。ただ、ニールは、それでも戻ろうと画策するだろうとは予想できるから、正確に拒否できる材料を用意しておこう、と、考えてのことだ。ついでに、自分たちのためにも、その拒否材料が必要だった。
「一応、俺も釘は刺したんだけどな。」
「動けるなら動くわよ? そういうところは諦めが悪いんだから。」
「動けるには、予後治療も含めて何年かかかるぜ? それも説明してある。」
「その何年か、っていうのがポイントなんだ。何年かで戻れるって考えてれば、そういう努力は惜しまない。」
「あーそういうことか。」
時間はかかっても、以前の状態に戻れると判っていれば、戻る努力はするだろう。だが、刹那は絶対に認めない。それなら、さっさと引導を渡しておくほうが無難だ。
「右目は完全には回復しないと申し上げておきましょう。それで拒否材料にはなるでしょう。」
「うーん、弱いですね。それなら、砲手か操舵士で復帰は可能です。」
「あと、エージェントだな。」
「もう、いっそのこと、『おまえはいらん。』でいいんじゃないか? せつニャンが認めないってことだけでも、拒否材料には十分だろう。」
「そうなんだけどね、ハイネ。私たちにとっても、ヴェーダのフルドライヴを命じられる人間は魅力的な人材なの。」
スメラギが悪戯な笑みで小首を傾げるので、ハイネも詰まる。確かに、そうなのだ。無条件にヴェーダをこき使える人間というのは、人材としては魅力的だ。そういう意味では、『吉祥富貴』側としても、ニールは確保しておくべき人間でもある。キラが頼んだぐらいで、リジェネはフルドライヴなんぞやってくれない。今回は、ニールの奪還に必要だったから、リジェネは無条件にキラの提案に従ってくれたのだ。
「ちょ、ちょっと、スメラギさん? 」
「だから、この事実は隠蔽しておかなくてはならないし、当人にも知られてはいけないので、拒否する理由が欲しいのよ。私たちのためにもね。」
もっと相応しい理由があれば、スメラギたちも諦められる。そうでないなら、いざという時に、それをカードとして使ってしまいそうだから、理由が必要なのだ。絶対に、ニールを引き摺り出せない理由というものがあれば、スメラギもラッセも諦めがつく。それもあって、この話を出した。
「そういうことなら、特大カードがあるぜ? 」
「あら、やっぱり? じゃあ、オープンしてくれないかしら? 」
「あんま、暴露していい話じゃないけど、ここだけってことでいいか? ドクターも。」
ハイネ以外は、黙って頷く。ドクターは知っていることだが、まあ、確認のためだ。一呼吸置いて、ハイネが口を開く。
「あいつ、壊れてるから無理。」
「「はあ? 」」
「ハイネ、それだけじゃあ、意味が通らないよ。」
「わかってますよ、ドクター。ママニャンは、壊れてんだ。・・・あいつ、自分自身の価値がわからないっていうかさ、死にたがりっていうか・・・精神的に壊れてる部分があるんだよ。だから、戦闘状態なんかだと正常な判断ができない場合があると思う。とりあえず、眼の前の味方を助けられれば、自分がどうなろうと関係ないって方向に流れていくだろう。そうなると戦術レベルで使えない駒だ。冷静じゃなくなったら、それで終わり。・・・・あんたらも思い当たるだろ? 過去、ママニャンがやらかしたことで。あれが、さらに悪化してる。精神的に不安定になるんだ。だから、壊れてて無理ってこと。」
日常レベルなら問題はないだろうが、極限状態だと、どうなるのかハイネにも判らない。人の生き死に敏感だ。アレハレロストの時に、それが顕著に現れた。身食いする馬のように、どんどん自分で壊れていくのだ。それが、戦闘状態だったら、どんなことになるのか、想像したくない事態になる。最近、リジェネが階段から転がり落ちた時も、かなりパニック状態だったから、ちょっとしたことで不安定になるのは立証できている。
「日常生活の上なら、多少、壊れてても、俺たちがフォローできるんだけどな。組織に復帰するなんて死ににいくようなもんだ。・・・・せつニャンたちが復帰を認めないのも、そこいらが理由だ。」
「見た目には判らないんだけど? 」
「わからないよ。今は正常だ。・・・だから、誰かが眼の前で怪我したり死んだりすると、精神的に不安定になってパニくるんだよ、そういうのが危ないってこと。・・・・・日常でも浮き沈みはあってさ。そういうのを、三蔵さんがフォローしてるんだ。いちゃこらしてるけど、それもあってのことなんだ。・・・・アレハレのロストの時は怖かったぜ? ほとんど、意識が飛んでる状態だった。」
え? と、スメラギとラッセも息を呑む。ニールがダウンしたと報告はあったが、ティエリアは、そのことを詳細には報告しなかった。その時点では、ティエリアはニールを復帰させるつもりだったからだ。よろしくないことは報告しないで、スルーしたから、スメラギも事実を知らなかった。
「だから、復帰は無理だ。そんな危険な駒を使うのはリスクが大きすぎるだろ? 戦術予報士さん。」
じじいーずは、この事実を把握している。その前から、ニールがおかしいことは気付いていたが、あれが決定的だった。トダカたちが心配するのも、それが大きいし、復帰なんて認められるものでもない。
「それ、キラくんたちも知ってるの? 」
そうなると、また、スメラギは、酒のカップホルダーを手にしている。ラッセも付き合いで、飲みに加わる。
「ドクター、ニールの健康状態は、実際のところ、どうなんです? 」
騒ぐわけではない。ニールのいないところでしかできない話のためだ。
「遺伝子情報の異常は完治したといえるでしょう。ただし、細胞異常のほうは、完全に修復できたわけではない。元の異常だったデータを許に作り出されている部分は、まだ正常ではありませんから、その部分の修復が終わるのに半年近くは経過を観察する必要がある。」
「・・・えーっと、つまり、半年後に、ようやくただの虚弱体になるってことですね? 」
「はははは・・・酷いなあ、スメラギさん。まあ、事実は、概ねそういうことですが。」
完全に全ての細胞が正常なデータで作り出されたものに変わるのに、それぐらいの時間が必要になる。再生槽に叩き込んだとしても、一ヶ月か二ヶ月はかかる代物だ。そこまで緊急を要しないから、日常生活の中で徐々に戻していく方法だと、それぐらいの期間になる。再生槽に叩き込んでも、それからリハビリすれば、同じような日数になるから、どちらでも大した違いはない。
「スメラギさん、ママニャンの復帰なら無理だぞ? すでに、うちの人間だ。組織のほうへ返すつもりは、うちにもないぜ? 」
「それは、わかってるわ、ハイネ。ただ、まあ、ニールだからね。ね? ラッセ。」
「そうだな。ニールだから、やらかすだろうからな。」
スメラギとラッセも、ニールの復帰は有り難いことなのだが、刹那たちマイスター組が強固に反対だから、さすがにそれを押し退けて認めるつもりはない。ただ、ニールは、それでも戻ろうと画策するだろうとは予想できるから、正確に拒否できる材料を用意しておこう、と、考えてのことだ。ついでに、自分たちのためにも、その拒否材料が必要だった。
「一応、俺も釘は刺したんだけどな。」
「動けるなら動くわよ? そういうところは諦めが悪いんだから。」
「動けるには、予後治療も含めて何年かかかるぜ? それも説明してある。」
「その何年か、っていうのがポイントなんだ。何年かで戻れるって考えてれば、そういう努力は惜しまない。」
「あーそういうことか。」
時間はかかっても、以前の状態に戻れると判っていれば、戻る努力はするだろう。だが、刹那は絶対に認めない。それなら、さっさと引導を渡しておくほうが無難だ。
「右目は完全には回復しないと申し上げておきましょう。それで拒否材料にはなるでしょう。」
「うーん、弱いですね。それなら、砲手か操舵士で復帰は可能です。」
「あと、エージェントだな。」
「もう、いっそのこと、『おまえはいらん。』でいいんじゃないか? せつニャンが認めないってことだけでも、拒否材料には十分だろう。」
「そうなんだけどね、ハイネ。私たちにとっても、ヴェーダのフルドライヴを命じられる人間は魅力的な人材なの。」
スメラギが悪戯な笑みで小首を傾げるので、ハイネも詰まる。確かに、そうなのだ。無条件にヴェーダをこき使える人間というのは、人材としては魅力的だ。そういう意味では、『吉祥富貴』側としても、ニールは確保しておくべき人間でもある。キラが頼んだぐらいで、リジェネはフルドライヴなんぞやってくれない。今回は、ニールの奪還に必要だったから、リジェネは無条件にキラの提案に従ってくれたのだ。
「ちょ、ちょっと、スメラギさん? 」
「だから、この事実は隠蔽しておかなくてはならないし、当人にも知られてはいけないので、拒否する理由が欲しいのよ。私たちのためにもね。」
もっと相応しい理由があれば、スメラギたちも諦められる。そうでないなら、いざという時に、それをカードとして使ってしまいそうだから、理由が必要なのだ。絶対に、ニールを引き摺り出せない理由というものがあれば、スメラギもラッセも諦めがつく。それもあって、この話を出した。
「そういうことなら、特大カードがあるぜ? 」
「あら、やっぱり? じゃあ、オープンしてくれないかしら? 」
「あんま、暴露していい話じゃないけど、ここだけってことでいいか? ドクターも。」
ハイネ以外は、黙って頷く。ドクターは知っていることだが、まあ、確認のためだ。一呼吸置いて、ハイネが口を開く。
「あいつ、壊れてるから無理。」
「「はあ? 」」
「ハイネ、それだけじゃあ、意味が通らないよ。」
「わかってますよ、ドクター。ママニャンは、壊れてんだ。・・・あいつ、自分自身の価値がわからないっていうかさ、死にたがりっていうか・・・精神的に壊れてる部分があるんだよ。だから、戦闘状態なんかだと正常な判断ができない場合があると思う。とりあえず、眼の前の味方を助けられれば、自分がどうなろうと関係ないって方向に流れていくだろう。そうなると戦術レベルで使えない駒だ。冷静じゃなくなったら、それで終わり。・・・・あんたらも思い当たるだろ? 過去、ママニャンがやらかしたことで。あれが、さらに悪化してる。精神的に不安定になるんだ。だから、壊れてて無理ってこと。」
日常レベルなら問題はないだろうが、極限状態だと、どうなるのかハイネにも判らない。人の生き死に敏感だ。アレハレロストの時に、それが顕著に現れた。身食いする馬のように、どんどん自分で壊れていくのだ。それが、戦闘状態だったら、どんなことになるのか、想像したくない事態になる。最近、リジェネが階段から転がり落ちた時も、かなりパニック状態だったから、ちょっとしたことで不安定になるのは立証できている。
「日常生活の上なら、多少、壊れてても、俺たちがフォローできるんだけどな。組織に復帰するなんて死ににいくようなもんだ。・・・・せつニャンたちが復帰を認めないのも、そこいらが理由だ。」
「見た目には判らないんだけど? 」
「わからないよ。今は正常だ。・・・だから、誰かが眼の前で怪我したり死んだりすると、精神的に不安定になってパニくるんだよ、そういうのが危ないってこと。・・・・・日常でも浮き沈みはあってさ。そういうのを、三蔵さんがフォローしてるんだ。いちゃこらしてるけど、それもあってのことなんだ。・・・・アレハレのロストの時は怖かったぜ? ほとんど、意識が飛んでる状態だった。」
え? と、スメラギとラッセも息を呑む。ニールがダウンしたと報告はあったが、ティエリアは、そのことを詳細には報告しなかった。その時点では、ティエリアはニールを復帰させるつもりだったからだ。よろしくないことは報告しないで、スルーしたから、スメラギも事実を知らなかった。
「だから、復帰は無理だ。そんな危険な駒を使うのはリスクが大きすぎるだろ? 戦術予報士さん。」
じじいーずは、この事実を把握している。その前から、ニールがおかしいことは気付いていたが、あれが決定的だった。トダカたちが心配するのも、それが大きいし、復帰なんて認められるものでもない。
「それ、キラくんたちも知ってるの? 」
作品名:こらぼでほすと 解除15 作家名:篠義