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こらぼでほすと 解除15

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「ああ、フェルト、ちょっとコンサート気分でも味わおうか? 」
「うんっっ。」
「ティエリア、悪いけど今からいいか? 」
「大丈夫です。では、トレミーへ戻りましょう。」
 ぞろぞろとドックの居住区を散歩していた面子が、トレミーへと引き返す。三夜連続のコンサートだというから、明日には、本番も拝めるだろう。ラクスの歌には力がある。それを眺めるだけでも、いい暇つぶしになるだろう。ただし、ものすごい違法行為だということは、ニールもスルーの方向だ。実は、他所から映像データを盗んでいる行為だったりする。ついでに、ヴェーダを私用に使っているのだが、そんなことは、ティエリアもスルーだ。



 ハイネの携帯端末に連絡が入った。はいはい、と、応じたら、ニールが、歌姫様のリハーサル映像を観るんだが? というお誘いだった。
「いや、俺らは酒盛り宴会中だ。そっちで勝手に盛り上がってくれ。」
 四人で、グダグダと世間話しつつの飲み会をしているので、わざわざ映像データなんか見たいとも思わない。滅多に逢わないラッセやスメラギと意見交換するほうが楽しい。ということで、携帯端末は切ったのだが、ハイネは、ぶはっと吹き出した。
「くくくくく・・・・ほんと、わかってねぇーな? ママニャン。」
「どうしたの? ハイネ。」
「これから、うちのオーナーのリハーサル映像の鑑賞会をするんだとさ。」
「え? リハーサルって、もう映像化されてんのか? 」
「編集はされてるんだろう。もしくは、ティエリアかリジェネが加工したんだと思うぜ。ヴェーダを何に使ってんだか・・・・あはははははは。」
 個人的にヴェーダを使用できるニールがやることなんて、この程度だ。ティエリアなりリジェネなりに命じれば、それこそ、電脳空間内のことなら、なんでもござれのはずだが、ニールが頼むのは、そういう些細なことでしかない。平和的といえば、平和的な使用方法だろう。
 で、難なく、ニールのリクエストに応えているほうもおかしいといえばおかしい。だいたい、リジェネが呼んだだけで飛び出てくるのだって、常時、ニールの動向をチェックしているからだ。普通は、呼んだぐらいでは、すぐに現れられるはずもないのだ。歌姫様の映像データも然りだ。かなり厳重にプロテクトされた場所にあるはずのデータを、ひょいひょいと盗んでいるのだ。ただ、単にニールが観たいという理由で。自分が、どれだけ特権を持っているか、ニールは気付いていない。それはそれで、らしいといえば、らしいので、ハイネも大笑いする。
「うちで鑑賞会をするの? まあ、いいご身分だわね。普通は、ティエリアが怒ると思うんだけど。」
「怒らないさ。ティエリアだって、ママニャンの言うことには是が非でも応じたいって思ってんだからさ。」
 トレミーを私用する許可なんてティエリアは認めないはずだが、ニールに関してだけは甘いらしい。観たいと言えば、どこからかデータを探してくるぐらいのことはする。
「あいつ、リタイヤした後のほうが最強になってんだな。」
「そりゃ、ラッセ。ママニャンは、キラもオーナーも身内認定なんだからさ。うちでも最強だぜ? 亭主と亭主の連れ子は、肉弾戦なら負けなしの人間だしさ。今回の貧乏くじ騒動で、俺も、よくわかったよ。ママニャンを害すると、ものすごいことになるってことがさ。」
 ニールが地上で築いたものが、それだけ大きいということだ。当人は、全然、気付いていないのだが、イノベーターとヴェーダ、そして、スーパーコーディネーター、神様枠と妖怪枠の人外、さらに歌姫様が、ニールの背後に立って守っているのだ。こんな最強の布陣はないだろう。ただし、当人は庶民派貧乏性な男なので、その力を行使できることに気付いてもいないなんてことになっている。天然すっとぼけも、ここまでくると立派だ。
「つまり、ニールを引き摺り出そうとすると、そこからも攻撃されるってことね? 」
「されますよ、スメラギさん。まず、亭主の連れ子とキラが笑顔で奪還に来ると思う。あいつらが、タッグを組むと、もう誰も敵わない。ついでに、レイも飛んで来るかな。いや、それよりも、トダカさんも危険なんだな。あの人の手駒は、よく読めないから、どうやるか皆目、わからんし。その前に、拉致する段階で、亭主に殺されるんじゃないかな。」
 まず、寺から拉致するのが難しい。坊主がいなければ、他の人間がいるだろうし、その誰かも元軍人か人外だったりするのだ。やった場合の報復も怖ろしいことになるはずだ。
「三蔵さんって、ただのお坊さんじゃないの? 」
「ただの坊主は、懐に常時、マグナムは潜ませてないんじゃないか? スメラギさん。うちにいるのも、おかしなのばかりだからさ。ただの人はいないなあ。」
 『吉祥富貴』は普通ではない。所属するのも、ただの人では無理な話だ。何かしらあるから、つるんでいるのだ。その中で、ニールはせっせと心を傾けて世話をした結果、そういうおしかな生き物に慕われてしまったのだから、自業自得ともいえるかもしれない。



 一口にリハーサルと言っても、歌姫様の場合は最終リハーサルだから、衣装もつけて歌も全部、歌うものだ。たまに、動きの問題や照明の加減で中断したりもするが、それが臨場感が合って楽しい。
「派手なコンサートなんだなあ。」
 その模様を、全員でソファに適当に座って鑑賞していた。親猫の両隣には、桃色猫と紫猫が陣取って、ソファの背後から黒猫が親猫にガバリと抱きついている。
「僕、コンサートなんて初めて観るよ。すごいもんなんだねぇ。」
「俺も、こういうのは初めだよ、アレルヤ。」
「ニールは地上で鑑賞していないんですか? 」
「ああ、ラクスが個人的に歌ってくれるのは聞いたことがあるけど、こういう大掛かりなのは観た事ない。」
「ラクスの歌、気持ち良いね? 」
「そうだな。あいつは、声に乗せて伝える力に特化したコーディネーターなんだそうだ。だから、聞くだけで気持ちが穏やかになるんだろうな。」
「ラクス・クラインのコンサートなんて、絶対にチケットが取れないんで有名なんだぜ? 兄さん。あんた、チケットぐらい貰えるだろ? 」
「くれるだろうけどなあ。特区でのコンサートっていうのも少ないんじゃないか?・・・・・刹那、俺の首を絞めるな。おまえも座れ。」
「ここがいい。」
「もう、立って観るつもりか? 」
 ピアノが微かに入る程度のアカペラに近い歌は、とても綺麗だった。ゴチャゴチャと話していた親猫も子猫も画面に釘付けになる。声と共に届けられるイメージが、仄かに暖かく輝く緑の星となって頭に浮かぶのだ。それだけは全曲、歌い終わった。
「やっぱ、すげぇな、ラクス・クライン。直接じゃなくても、これだけの威力があるのか。」
 ロックオンの歌の好みからは外れているが、聴かずにはおれない威力があった。間近で、これを聞いたら、天国気分を味わえるだろう。フェルトに到っては感動しすぎたのか、ちょっと泣いていたりする。
「刹那、どうだ? 」
「これは子守唄か? 眠くなるな。」
「・・・・さいですか。」
作品名:こらぼでほすと 解除15 作家名:篠義