二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

サンタクロース幻想(後編)

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
「如何でしたか? 聖夜を彩るに相応しい、心温まる短編だったと自負しています。」
 そう言って八城はすっかり冷めてしまった紅茶のカップに口を付けた。彼女の視線の先には、高校生くらいの少女が不貞腐れた顔で座っている。その少女は、唇を尖らせながら、先ほど読み終えた原稿をぺらぺらと指先で弄っている。その様子を見て八城はくすりと笑い捨てるのだった。
「おや、お気に召しませんか。……たまには、こういったハートフルな物語に触れるのもよいかと思ったのですが。」
「そうね。素敵なシナリオだったと思うわ。ハートフルボッコな“右代宮縁寿”のクリスマスと違ってね。……プレゼントの箱に3人もの人間をぐちゃぐちゃに詰め込むなんてどういう神経してるのかしら。」
「くすくす。これは失礼。……しかし、あなたの仰るそれは1986年のカケラのはず。1985年の“右代宮縁寿”は家族に囲まれて幸せなクリスマスを過ごしたのではないですか……?」
 まだ幼かったからほとんど覚えていないと、縁寿は吐き捨てる。ティーカップの紅茶を一気に飲み干して、ソファーの背もたれに体重を預けた。ふーっ、と鼻で溜め息を吐くと、天井に視線を逸らしたまま口を開く。
「1985年。……そこがおかしいのよ。」
「おかしい、とは……?」
 がばっと縁寿が身を起こす。テーブルに敷かれた原稿用紙の、最後の一文を指でなぞりながら、八城に詰め寄った。
「これが1985年のクリスマスの話であると、この最後の一文に明記されているわ。……なのに、この物語の中には右代宮金蔵が登場してしまっている。」
 八城の言葉を待たずに縁寿は捲し立てる。
「右代宮金蔵は1984年に死亡しているはずだわ。だから、1985年のクリスマスに金蔵が現れるなんておかしいのよ……!」
「はて、私は右代宮金蔵を登場させた覚えなどないのですが。」
「なるほど。朱志香お姉ちゃんの前に現れたのは、ホンモノのサンタクロースだったと? ……くだらない。朱志香お姉ちゃんはサンタの正体が自分の祖父、つまり金蔵だと見破っているわ。」
「それは朱志香が、目の前のサンタを金蔵だと誤認しただけです。それに彼女は、25日の朝に“サンタさん”からプレゼントを貰ったと主張しているではありませんか。」
「それがあんたの魔女幻想? いいえ、サンタクロース幻想ね。でもお生憎さま。過去のゲーム盤で【全ての人物は右代宮金蔵を見間違わない】ことが確定している……! つまり、サンタクロースの格好をしていようが、どんな変装をしていようがッ、観測者である朱志香が“こいつは右代宮金蔵だ”と認識した以上、その人物は右代宮金蔵でなければならない。……だって金蔵を誤認することは許されていないのだからッ!」
 ぱちぱち、と八城が微笑を浮かべながら乾いた拍手を送る。それを見て縁寿は、自分がかなり興奮状態であったことを悟り、無表情を装おうとするが、それすらも八城に見透かされているように感じて、バリバリと頭を掻き毟った。
「くすくす。よく出来ました。……あなたの仰る通り、この物語には右代宮金蔵が登場しています。もっとも私の紡いだ物語が、過去のゲームにおける赤き文字を遵守しているとは限りませんが。」
「いいえ。あんたはベアトリーチェの赤き真実を守ってるわ。その上で、右代宮金蔵を登場させるためのロジックを組み上げていると、……私は確信している。」
 私をそこまで信頼して頂けるなんて光栄の極みですよ、と八城は座ったままお辞儀をしてみせる。その動作が妙に仰々しくて鼻につく。……物語そのものを信用しているのであって、それは作者である八城本人のことではない、と縁寿は付け加えた。
「ふふ。それでも私には最高の賛辞です。……では、特別に種明かしをして差し上げましょう。どうして1985年に、朱志香が金蔵を観測できるのか。」
 ……右代宮金蔵の没年は1986年より2年前、1984年であると推測されている。正確な日付は不明だが、過去のゲームから察するに、1984年の11月29日か、あるいはその数日中であると考えられる。つまり1985年どころか1984年のクリスマスにさえ現れることはできない。今回の物語は、1985年であることが明記されてはいるものの、それ自体が赤き真実で語られたわけではない。そのため、『実は1983年以前のクリスマスなのではないか』という青き真実で斬り込むこともできるかもしれない。……しかし、その仮説を否定するに値する根拠が3つも作中に存在するのだ。……まず1つ目、朱志香が高校生であること。1986年の朱志香が18歳で、受験生であることは第一のゲームから明かされている。そこから朱志香が高校に入学するのは1984年であるということが導き出される。……次に2つ目。郷田が右代宮家に勤めていること。郷田は1986年のゲーム盤で“一昨年から勤めている”と発言している。……最後に3つ目。それはベアトリーチェの肖像画だ。この肖像画が掲げられたのが1984年ということは過去のゲームで何度も語られている。以上の3点により、【この物語の時代設定が1984年以降であることが証明される】のである。……では、金蔵の亡霊が現れたとでも言うのだろうか。魔女は存在しなくとも、亡霊の存在は否定できないと…? そんな馬鹿な……。
「ここを、もう一度、お読みになってください。」
 白くしなやかな八城の指が、原稿の一部分をなぞる。縁寿は素直に、そこに書かれている文字を追っていく。
“朱志香は料理の蘊蓄などわからないが、郷田が何かを説明するたびに斜向かいで感嘆の声を上げる次期当主の姿を見て―――”
 特に不審なところはない。クリスマスディナーという特別な晩餐であるなら、郷田も饒舌になるだろうし、彼の蘊蓄に対して蔵臼がいちいち反応する姿も容易に想像できる。
「では、次にこちらを。」
 八城の指が次に示した箇所は物語のラスト、朱志香が蔵臼にブローチを見せびらかす場面だ。ぱっと見た限り、特に違和感のある点は見当たらない。
“朱志香はさっそくブローチを着けて朝食の場に現れた。自分の席に座ると、左隣で新聞を読んでいる蔵臼に―――”
「………あれ、……なんで。」
「くす。お気づきになりましたか。」
 縁寿は何かに気付いた様子で、先ほど八城に示された二つの文を見比べる。……そう、この二つを並べたとき、どうにもおかしな点が現れるのだ。
「夕食のときは、蔵臼伯父さんがお姉ちゃんの斜向かいにいるのに、朝食のときは左隣の席になっている……。どうして夕食と朝食で席の位置が異なるの? ……いや、違う。席が変わってるんじゃない。これは…………。」
「その通りです。夕食時、朱志香の斜向かいに座っているのは、蔵臼ではありません。」
 斜向かいで感嘆の声を上げる次期当主、……なるほど、その次期当主が“蔵臼”であるとはどこにも記述されていない。ではこの次期当主とは何者なのか。それが蔵臼でないならば、該当する人物は一人しかいない……。
「つまり、この次期当主というのは、“右代宮理御”のことなのね。」
「ご名答。この物語は、右代宮理御の存在するカケラなのです。だから、1985年に右代宮金蔵が姿を現しても、何も問題がない。」
作品名:サンタクロース幻想(後編) 作家名:Long28