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翌日は、各人の空き時間にニールを案内することになった。とはいっても、ニールの体調を考慮して、一人当たりの持ち時間は一時間ということにした。フェルトが空き時間の間は、ずっとついていたが、勤務時間に消えたところで、ロックオンの担当時間となった。
「どうする？　」
　一応、各人のＭＳを案内するということになっているが、律儀に、それを守る必要はない。休憩したいなら、それでもいい。
「ケルビィムは見たいな。デュナメスの後継機なんだろ？　」
「デュナメスもあるぜ？　リペアしてある。あんたが乗ってたのとは違うはずだが。」
「え？　」
「前の機体も全部、再生されたんだ。ティエリアとアレルヤの機体は、ここじゃないドックにあるんだが、エクシアとデュナメスは、こっちで調整してた。」
　さらに、現在、新しい機体も別のラボでイアンたちが開発している。刹那の機体は、刹那当人からの注文が多いから、まだ形になっていないが、それ以外は設計も完了している。第三世代の最初の機体は、再生して蓄電装置で動くように作り直された。それらは、今後、地上で使用する予定だ。ロックオンたちが、今、搭乗している機体も新しい機体が完成すれば、同じように、組織の拠点に配備されることになっている。
「朝からアリオスを見せてもらった時はドックで見なかったけど。」
「ああ、トレミーのほうに置いてあるんだ。」
　ドックではなく、トレミーの格納庫に、どちらも納められている。整備するのに、同じ場所にあるほうが、何かと便利だからだ。見たいというなら、ロックオンも案内する。本日、実兄はロックオンの私服を借りている。これなら、ぴっちりした服ではないから、それほど体格の差は感じなくていい。



　トレミーの格納庫に入ると、確かにデュナメスとケルビィムは並んでいた。色合いは似たようなものだが、細部が微妙に違う作りだ。ケルビィムも、最初からロックオン・ストラトス用に開発されているから、遠距離射撃に特化はしている。
「コンソールの計器の配置とかも似てるだろ？　」
　ケルビィムのコクピットに案内されて、ニールは、へぇーと周囲を見回す。高高度射撃まで可能にしている機体だから、やはり、ハロの支援が必要で、ちゃんとハロの席もあった。
「そういや、おまえ、ハロは？　」
「俺のハロなら、デュナメスにいるよ。あれは、近々、地上に下ろすんでさ。さすがに、ハロを乗っけておけないから、最低限、デュナメス単体で動けるようにデータを移行中。」
「地上？　」
「うん、第三世代初期シリーズは、地上に配備しておくんだってさ。それならマイスターだけが降下してミッションができるだろ？　いざって時の緊急用ってことらしい。」
　コクピットのパイロット席に座り、ラダーに足を乗せると、ニールにぴったりな位置にある。ロックオンと体格的には差はないのだから、そういうことだ。
「ケルビィムは、シールドビットっていう防御用の新装備が配備されてるから、ハロの仕事も増えてる。防御を強くしたんだろうな。」
　パネルを操作して、ロックオンが、それを説明する。射撃に特化した後方支援機だから、どうしても防御までは手が廻らない。デュナメスにも、シールドはあったが、浮遊可動式のものではなかったから、ある程度、防御もパイロットがしなければならなかった。デュナメスの戦績データから、それらが新しく開発されている。
「デュナメスのほうも、俺が最終調整はした。ケルビィムよりは機動力で劣るけど、あっちも似たようなもんだ。」
「・・そっか・・・」
「まあ、その代わり、火器の威力は、あっちのほうが強い。高高度射撃用の射撃の威力は、強烈だ。」
　比較するように並べてデータを説明してくれるが、そんなことをされても、ニールはデュナメスしか知らないから、実感には乏しい。そして、自分は、ここから外れているんだな、ということは理解できた。すでに、コードネームは実弟に渡した。ニールは、ロックオン・ストラトスに戻ることはないのだ。

　次は、デュナメスだ、と、案内されたら、そのコクピットにはハロが鎮座していた。律儀に、「ロックオン、ロックオン。」　と、ニールのことを呼んでくれる。
「ハロ、俺は、ニール。ロックオンじゃなくなった。呼び方は変えてくれ。」
「リョーカイ、リョーカイ。にーる、ヒサシブリ。オ元気？　オ元気？　」
「うん、元気だよ。ハロ、ロックオンのことをよろしく頼むな？　しっかりサポートしてやってくれ。」
「マカサレテ、マカサレテ。」
　もう、ハロも相棒ではない。ハロは、ロックオン・ストラトスの相棒だ。自分ではないのだ、と、思うと、少し寂しい気分になる。五年前までは、自分の座席だったが、これもロックオンのものだ。初めて、自分の実弟をコードネームで呼んでみる。
「ロックオン。」
「ん？　」
「刹那の背中は、ロックオンが守るって決まってんだ。」
「ああ、そうだな。」
「うちの子、利かん坊だから頼んだぜ？　暴走のストッパーもロックオンの役目だ。」
「うん。」
　眼の前のコンソールに手を延ばした。再生されたコンソールは、以前と配置は同じだ。ただし、生体認証が変更されているから、ニールでは動かせないものになっている。双子でも指紋や網膜パターンは異なる。パネル操作しようとしたら、生体認証のチェックが入って、警告音だ。
「あ、ごめん。ちょっと代わって。」
　ロックオンがシートに座り、チェックを受けると、警告音が止む。それから、ロックオンがニールのほうへ顔を向けた。
「どんなデータが見たい？　」
「おまえの射撃精度。」
「やだよ。俺、兄さんみたいな技術はないんだ。だから、あんたより成績悪いから見せない。」
　一年以上、ロックオンも組織で戦っているし、シュミレートもやっているが、命中率とか精度は、先代ロックオンを上回ったことがない。常時、９０パーセントを超える成績なんて、当代ロックオンには理解できない神業クラスの成績だ。
「それに、俺はライフルより拳銃で乱れ撃つほうが成績いいんだ。たぶん、高高度射撃は難しいと思う。」
「ライフルは練習と勘だと思うぜ？　」
「追々に練習はするさ。でも、あんたみたくできない。ま、それでもいいと思ってんだ。あんたと同じでなければならないわけじゃない。刹那の後方支援だって、俺のやり方でやればいいんだ。」
　優秀な兄と比べられて辛かったのは過去のことだ。今は、できることが違うのだと理解できている。だから、ロックオンの後方支援というのも、当代なりの方法でいいのだ。先代と、まったく同じである必要はない。たぶん、刹那も、先代のようなフォローは望まないだろう。それができたのは、ニールだったからで、ライルに同じものは要求しない。
「ああ、ライルのやり方で一緒に戦えば良いよ。俺のやり方は、あまりお勧めしないな。」
「そうだな。それに、刹那は、どっちかというと、俺の動きを感じて反応してるみたいだからさ。俺は好きなように動いてればいいみたいだ。」