こらぼでほすと 解除16
当初、刹那は当代ロックオンを守りつつ戦っていた。何がなんでも、当代は死なせられなかったからだ。今は、それほどではないが、当代の動きを把握しているらしく、あまり離れたりしないように戦っている。ある意味、連携はできているのだ。さすがに乱戦状態だと、そこまでフォローはできないのだが。
「マイスターらしくなったな? 」
「そりゃなるさ。俺しかロックオンはいないんだから。・・・まあ、こっちのことは任せておけよ? 兄さん。俺が、なんとかしとくからさ。」
「ああ、任せる。」
「あんたは、ちゃんと療養して身体を元に戻してくれ。そのうちでいいけど・・・・・一緒に墓参りに行こう。アニューを紹介するよ。」
二人揃って、ハイクロスの前に並んだのは、もう十数年前のことだ。それから一度も、二人で並んだことはない。いつか、そういう機会を持ちたい、と、ロックオンは考えていた。
「それは、ちょっと先の話になりそうだな。」
「慌てることはないさ。アレルヤたちが地上に降りちまうから、俺も動けないしさ。あんたの身体も、すぐに治るもんでもないんだろ? 」
「そうらしい。」
「いつか、あんたが動けるようになったらでいい。・・・アニューの墓を、うちのハイクロスの隣りに用意したんだ。だから、あっちで紹介する。」
再始動が終った後で、ロックオンはアイルランドに真っ先に下りて、その手配をした。愛していた女には、家族も過去もなかったから、自分の家族の隣りに眠らせたのだ。そこには、何もないが、自分が愛したという証拠にしたかったからだ。
座席の背後から、ニールがロックオンの頬を撫でる。そんなふうに愛せた女性がいたことは、ニールにしてみれば喜ばしいことだ。ニール自身には、そういう相手はなかった。今後も作れそうにない。
「わかった。・・・俺、おまえに個人的に紹介できる人間が居ないなあ。」
「義兄さんとかいるだろ? もう、すでに紹介されてる。」
「そういや、そうだな。」
「俺より、あんたの個人的な関係者のほうが多いぞ? トダカさんとかさ。トダカさん、兄さんのことは、ものすごく可愛がるけど、俺、スルーなんだぜ? 双子なんだから、対等に扱って欲しいぜ。」
「あまり会う機会がないからだろ? ・・・ああ、トダカさんは、刹那とフェルトが孫みたいって言ってるから、おまえは孫の嫁なんだな。」
「うわぁー、なんかイビられそうな配役だな。」
「イビらないよ。・・・・あの人は、俺が心配なんだ。おまえのことは心配してないから、あんまり関わらないんだと思う。」
「それは、わかるなあ。あんた、ものすごく情緒不安定になったりするもんな? いいんじゃないか? そういうのを心配してくれる相手は貴重だ。」
ロックオンも自分の頬に添わされている手を、自分の手で握る。大切な家族だ。どこにも独りで行かせるつもりはない。それから、シートの横に引っ張り出す。実兄の身体が、シートの横に現れる。見上げたら、少し寂しそうに微笑んでいた。
「愛してるよ? 兄さん。俺も刹那も、あんたを愛してる。」
だから、不安にならなくていい、と、心で呟いて強く手を握って睨んだ。すると、実兄も握り返してくる。
「俺も、おまえと刹那を家族として愛してるよ。」
ふわりと微笑が柔らかいものに変化する。実兄の壊れた心に届くまで、何度でも、この確認は続けるつもりだ。
「そう、愛してくれよ? 俺たち、家族なんだからさ。」
「恥ずかしいことを、ぬけぬけと言うなあ。」
「言うよ? あんたは、たまに俺のことはスルーなんだから。」
「そうかなあ。・・・・なんか、ライルは解ってくれてるって思うから。」
「わかってるけど、俺も大切にしてくれ。」
「はいはい。」
「ほぉーらぁ、おざなりだ。まだ、見る? 」
「いいや、もういい。ちょっと疲れたから、横になるよ。」
「うん、じゃあ、俺の部屋へ戻ろう。」
格納庫は低重力帯だ。ニールは、うまく動けないから、ロックオンが腕を取って誘導する。ふわりと、コクピットから外へ飛び出る。ゆっくりと降下するのだが、身体の姿勢が上手く保てないニールをロックオンが庇うようにして降りて行く。床に辿り着いて、見上げると、蒼然とデュナメスは立っている。ニールは足許に近寄り、そこを撫でた。
・・・・無茶して、ごめんな? デュナメス・・・・また、ロックオンと戦ってくれ・・・今度のロックオンは、もっと強かで理念のために戦うから・・・・・・
ニールが搭乗していた機体てはないが、データは移行されている。ボロボロの状態でデュナメスはトレミーへ戻った。未熟だったとは思わない。敵が狡猾で強かった。そして、自分が完全ではなかった。デュナメスは、そのマイナス要素の上で戦った。不本意だったろう、と、内心で詫びた。
しばらく、ニールのやることを黙って見ていたが、ロックオンが強引に、その腕を掴んで移動し始める。
「あれは、あんたのじゃないって言っただろ? もう、こっちのことは関わんな。」
「ラッライル? 」
「あんたのデュナメスは先代ロックオン・ストラトスと一緒に消えたんだ。あれは、あんたのじゃないし、あんたもロックオン・ストラトスじゃない。そんな顔するなっっ。」
当代ロックオンが見た先代ロックオンの顔は、とても深い悲しみを称えていた。その表情に、当代ロックオンは背筋が凍る。壊れている状態のニールの表情だったからだ。この場所で、そうなるとは思わなかった。だから、慌てて引き剥がした。
当代ロックオンも、その戦闘データは閲覧した。どうしようもない状態だったのだ。先代ロックオンだけが悪いわけではない。あれだけの物量をぶつけられたら、四機のMSだけで無事に切り抜けられるはずもなかったし、先代が私怨で戦った相手と相討ちしたことが、その後の刹那たちの戦闘を結果的には助けていた。今、それを滔々と説明しても、ニールは理解できないだろう。その後のことを、ニールは知らない。
格納庫の端まで引っ張って、もう一度、ニールに向き直った。そして、振り向かせる。そこには、デュナメスとケルビィムが並んでいる。当代ロックオンが、二機の機体を指差す。
「あれは、俺の機体だ。あんたはやれるだけのことはやった。それは、俺が認める。今後は、俺がやる。それでいいだろ? ロックオン・ストラトスッッ。」
物凄い剣幕の実弟に、実兄は、少し微笑んで頷く。
「もう、そのコードネームは、俺のじゃないけどな? 」
「俺が代わるまでは、あんたのものだった。ここで、きっちり交代しろ。」
「俺は、おまえを組織に勧誘するように刹那に命じた時点で、交代したつもりだった。」
「そうだ。あんたは、ニール・ディランディだ。ロックオン・ストラトスは俺だ。だから、あんたがデュナメスのことで悲しむことなんか、なんもねぇーんだ。あれは、再生された機体だ。あんたのデュナメスはトレミーと共に散った。データは移行したが、それも俺用に書き換えている。」
「・・・うん・・・・」
「あんたは、『吉祥富貴』の人間だ。あんたは治療がてらに遊びに来ただけだ。こっちの組織のことは考えなくていい。」
沈ませてはならない。ロックオンも、それだけは阻止する。大声で怒鳴るように名前を呼んで抱き締めた。
「ニールッッ。」
作品名:こらぼでほすと 解除16 作家名:篠義