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初音ミクの崩壊~0と1の狭間で~

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「その少女の言う通りだ」
今までずっと沈黙していた、豊が口を開いた。
「その少女を病院に連れて行く意味は無い。龍輔、ここから一番近いのは誰の家?」
「え、あぁ、多分、拓馬の家だと思うけど」
「よし、拓馬の家に急ごう」豊がはっきりと告げる。



真夏の車内に静かに暖房が流れていた。

「な、なんで!?」
思わず声を張り上げた。
「どう見たってこの子、どこか具合悪いぞ」
「あぁ、病院に連れていかんと、万が一って事もあるし」
龍輔も同意する。
「あぁ、彼女が具合が悪いと言うのは分かる。が、病院では意味が無いんだ。彼女は、人間じゃないんだからな」
ニンゲンジャナインダカラナ…
にんげんじゃないんだからな…
頭の中で必死に漢字変換を試みる。
ダメだ。
人間じゃないんだからな
としか変換できない。

「人間じゃないって…じゃあ何なんだよ?喋るし…水だって飲む!マネキンやらロボットやらじゃないだろ?」
混乱する頭で豊に訊く。
「ロボット…というのが正解かな?人間にしては重すぎる体重。それに左腕の刻印が証拠だ。とりあえず家に急ごう」
確かに、少女の体は重すぎる。異常な程に。それは理解できるが…。

もう一度少女の寝顔を確認する。金属質な訳でもないし、かくばっている訳でも、何か配線がはみ出ている訳でもない。髪の毛はさらさらだし、皮膚は弾力がある。それに水だって飲んでいた。とてもロボットには見えない。
わからない…まるで、まるで、人間の体に機械を埋め込んだかのような…



「…ま。拓馬!」
「ぉおう!?」
我に返った。どうやら考え込んでしまったらしい。
「着いたぞ。少女を連れていこう」
龍輔の言葉に頷き、少女を皆で運びあげる。



俺の家は町外れにあるアパートの二階だ。両親は居ないが、居る。
簡単に説明すると。

実の父親→俺が産まれる前に事故死
実の母親→(今の義父と)再婚
実の母親→病死
義理の父親→(今の義母と)再婚
現在に至る。

つまり、俺は両親(どっちも義理)と血が繋がっていないのだ。
無論、俺という存在は二人にとっては邪魔であり、毎月の生活費とアパートをあてがわれ、独り暮らしを楽しんでいる。
俺としては、血も繋がっていない他人に気を遣いながら生活するよりは、独りで気ままに生活する方が性に合っているので、お互い万々歳だ。



鍵を開けて、廊下の電気を付ける。
「ぅおっ」
溢れでた熱気に思わず声が出た。
「とりあえずリビングのソファーに運ぼう」
3人がかりで、よろよろとソファーに運ぶ。
「よい…せっ…と」
最後は投げ出すような形で少女を寝かせる。
「ふぃー…っと。で?豊、何を話してくれるんだ?」
龍輔が身体中をボキボキいわせながら訊いた。
「あぁ、さっきも言ったが、彼女は人間じゃない。ボーカロイドというロボットだ。」
「ボーカロイド?」
俺は聞き返した。自慢じゃないが、そんな単語は初めて聞いた。
「あぁ。その名の通り、歌うためのロボットだ。」
「ちょっと待って、豊。」
俺は、彼女がロボットだということが、まだ信じられない。
「仮に彼女がロボットだとして、だ。こんな精巧なロボット、見たことも聞いたこともないぜ?こんだけ凄いロボットが出来てんなら、もっとニュースとか雑誌とか…有名になってるはずだろ!?」
俺の問いに豊は答えた。
「あぁ、ある意味有名になったかな。いや、有名になりかけた。『あまりにも出来すぎたロボット』として、世間では強烈なパッシングを受けたらしい…。まぁ僕も、ネットの掲示板でしか存在は知らなかったが…」
「…」
頭がこんがらがって何が何だか判らなくなってきた。龍輔も同じらしい。
「とりあえず…だ、豊。俺としては、その子がボウカイロ…ロボットだという、目に見える証拠がほしい。やっぱり、万が一の事を考えると、な」
龍輔の言葉に俺も同意する。豊の話は筋が通っているようにも聞こえるが、自分自身納得出来ていない。
「あぁ、そうだな…」
豊はソファーで横になっている少女の上半身を起こし、首の後ろ…うなじの辺りをごそごそやりはじめた。
「ちょっと…来て、見てくれ」
少女の上半身を支えながら豊が呼んだ。
言われるがままに、少女のうなじを覗きこんだ。
「なっ!!」
絶句。
龍輔も言葉を失っていた。
少女の首の後ろの皮膚が観音開きになっていて、その向こうには、基板やら配線やらが所せましと詰まっていた。
「これが、彼女の主電源だ。このスイッチを押すことでON、OFFが切り替わる」
奥に見えるスイッチを指しながら豊が言った。



「僕は僕でネットで詳しく調べてみる。明日報告するよ」



豊のそんな声を聞いた気がする。



我に返ると、外は薄暗くなっていた。
俺は、ずっとソファーで横になっている少女の事を考えていた。
考えても考えても、同じところをぐるぐる回っていた気がする。
いや、そもそも何を考えていたのだろう…。それすらも、判らない。
もしかしたら、ただ、ぼーっとしていただけなのかもしれない。

「寝よ」
今更、夢オチ…何て事はないと思うが、体と頭をゆっくり休めたい気分だ。
「…」
つい、少女の方を見てしまう。少女は身動き一つせず、すやすやと眠っていた。
すぅ、すぅという規則正しい寝息が聞こえる。
「やっぱり信じられねぇな…」
寝息を立てるロボットなんているのだろうか…。

自分の部屋に行き、ベッドに倒れこむ。

腹、減ったな…
服、着替えなきゃ…
あぁ、もういいや…
眠い…