こらぼでほすと 解除18
目が覚めたら景色が変わる。何度もやっていると、どうでもよくなってくる。次は、ラボだったなあ、と、目を覚まして周囲を見回したら、人影が動いた。
「目が覚めたかい? 娘さん。」
「よおう、ママ。久しぶり。」
片方は、いつもの声だからいいのだが、もう片方が微妙だった。はい? と、目を擦って、そちらに顔を向けたら珍しいのが仁王立ちしていた。
「カガリ? 」
「ああ、おかえり、ママ。おまえがオーヴを素通りだって言うから遠征して来たんだ。」
「・・あ・・・いやいや・・・おまえ・・・仕事・・」
「今のところは緊急のものはない。この時期は、ラクスと同じで私も少し休むんだ。」
「そうなのか? キラと交代してんじゃないだろうな? 」
「キラも、こっちにいるぞ。あんまり大勢で騒いだら、おまえの身体に悪いから、今、みんな、仕事してる。後で顔を出すはずだ。」
「リジェネは? 」
「ラクスの手伝いをしている。大丈夫か? 何か欲しいものは? 」
と、看病する気満々のオーヴの国家元首様は張り切っているが、目が覚めたばかりで頭が上手く廻らないニールには思い浮かぶものがない。そういえば、と、思い出したことを尋ねた。
「・・・・ティエリアたちは出かけたか? 」
「オーヴから、そのままエアラインで欧州へ向かった。私も直には逢ってないが、ラクスから、そう聞いている。」
「・・そっか・・・なら、いいんだ。」
エターナルの展望室で、一緒に特区には戻らない、と、ティエリアに言われた。せっかくの自由旅行だ。そちらを優先してくれ、と、ニールも頷いたが、やはり馴染みの顔がないのは寂しい気はする。するのだが、それ以上に騒がしいのがいるから、落ち込む暇はない。メシは? とか、散歩は? とか、一々勧めてくれているのだが、とてもではないが動ける状態ではない。
「・・・カガリ・・・・寝かせくれ・・・おまえ・・・声が大きい・・・」
「はあ? 」
「カガリ様、冷凍処理から蘇生させた場合は、すぐには動けません。しばらくは寝かせてやってください。」
「そうなのか? じゃあ、私は邪魔だな。」
「・・・ごめん・・・」
「いや、気にするな。とりあえず、私も仕事を片付けてくる。」
じゃあ、また後で、と、カガリはピューと出て行った。あのテンションの会話は無理だ。はあーと大きく息を吐いて、ニールも身体の力が抜ける。
「すまないな、娘さん。カガリ様が、どうしても立ち会うとおっしゃって。」
「・・いや・・・いいんですが・・・。ただいま、お父さん。」
「はい、おかえり、娘さん。もう少し眠っているといい。」
「・・・はい・・・・」
身体が、まだ活動状態ではないらしい。ふうと息を吐いて目を閉じると、意識が落ちる。ようやく、帰って来たんだな、と、思うのが不思議な気分だ。本来は、組織が帰る場所だったのに、もう、そこには居場所もないと確認してしまったかららしい。
夕方に、ようやく動けるようになって、トダカと別荘のほうに上がった。明日から、しばらくはトダカ家で療養するように、と、ドクターにも命じられた。トダカのほうは、一度、寺に顔だけは出しておけばいい、と、帰り道を寺経由にしてくれるという。なんとなく身体は重いので、大人しく里帰りすることにした。さすがに、この体調では、寺に帰っても動けない。
「おかえりーーママッッ。」
「お疲れ様でした、ママニール。」
上がってきたら、居間には滞在中のメンバーが勢揃いしていた。キラとアスランに出迎えられて居間に入ると食事の準備がされている。リジェネが、やってきてニールの右腕に懐いている。
「メシの時間だ。ちょっとは食え、ママ。食わないと体力なんか戻るはずがないんだ。」
「無理はなさらなくてもよろしいですが、少し摘んで行かれませんか? カガリが用意してくれたので鮮度のほうは保証付きです。」
次にカガリと歌姫様だ。居間のテーブルには、所狭しと料理が並んでいる。で、こちらに、と、案内された席の前には、あっさりしたメニューだ。あっさりメニューだが、量は、いつも通りだ。
「病人でも食えるメニューを用意させた。」
「・・・おまえ、また・・・」
「誰も全部食え、なんて言ってない。食えそうなものを摘めばいい。トダカ、相手をしてくれ。おまえも、こっちのメニューのほうがいいだろ? 」
カガリも、そこいらは考えて料理を持ち込んだ。胃に優しいもの、口当たりの良いもの、あっさりしたもの、というのを下準備させて、こちらのスタッフに調理してもらった。若者組のほうは、そればかりでは物足りないから肉だの魚だのが別に用意してある。
「あのね、ママ。鯛茶漬けなんか、どう? これ、おいしいよ? 栄養もたっぷり。」
キラが、いそいそと、そのテーブルに載っているものを説明しつつ作ってくれる。白いご飯を少々、小振りのどんぶりに盛り、その上に蒸して細かくした鯛の身と、茹でて細かくした卵の白身と黄身、ノリ、ネギ、大根おろしを適当に乗っけて温かい出汁をかける。それをクシャクシャと混ぜて、木の匙と共に渡してくれる。
「・・・うん、これなら食べられそうだ。」
「そうでしょ? 」
「あと、海鮮スープもお勧めだ。和風だから、あっさりしているし材料も細かくしてもらった。」
土鍋を開けて、カガリが給仕してくれるのも、材料が細かく裁断されているスープ仕立てのものだ。注いだ椀に、さらに白身の魚の刺身を乗せている。スープの温度で、ほんのりと白身が色を変える。
「ママニール、その鯛茶漬けは、アクセントとしてわさびを載せるのもおいしいですよ? まず、味見して、調整してください。」
アスランが、わさびをニールの傍に寄せてくれる。なんていうか、至れり尽くせりな状態だ。
「トダカさんは冷酒ですよね? 」
ニールが、となりのトダカの世話をしようとしたら、まあまあ、と、トダカに止められる。ちゃんと手元に持参の酒瓶があったりする。
「私は、勝手にやるから、まず、娘さんが口をつけなさい。そうでないと、みなさんが召し上がれないんだ。」
こういう場合、主賓のニールが一番に口をつけるのが、極東の礼儀だ。ああ、そうか、と、ニールも気付いて、一口、鯛茶漬けを口に含む。出汁が温かくて、ほっこりとする味だ。
「うめぇー。あっちでパック食ばっかりだったから、こういうのは、ほっとするなあ。」
「それだって食べられなくて、ジャガイモスープオンリーだったとお聞きしておりますけどね? 」
「あれは、びっくりだったよ、ラクス。・・・・とりあえず、俺は食べた。ありがとさん。」
ニールが周囲に声をかけると、アスランが他のもののために給仕を開始する。キラとカガリは好きなものを、さっさと皿に盛り上げているし、リジェネはアスランがセットしてくれた鯛茶漬けを、もぐもぐして、おいしい顔をしていたりする。
「トダカさん、取り分けましょうか? 」
「いいんだ。私のは、こっちに刺身が用意してくれている。それで、しばらくは飲むよ。」
トダカの前には、懐石チックな小振りな器に、いろいろな料理が並べられている。一概に刺身と言っているが、塩で、とか、醤油で、とか、ポン酢で、とか、いうように分けられているらしい。
「目が覚めたかい? 娘さん。」
「よおう、ママ。久しぶり。」
片方は、いつもの声だからいいのだが、もう片方が微妙だった。はい? と、目を擦って、そちらに顔を向けたら珍しいのが仁王立ちしていた。
「カガリ? 」
「ああ、おかえり、ママ。おまえがオーヴを素通りだって言うから遠征して来たんだ。」
「・・あ・・・いやいや・・・おまえ・・・仕事・・」
「今のところは緊急のものはない。この時期は、ラクスと同じで私も少し休むんだ。」
「そうなのか? キラと交代してんじゃないだろうな? 」
「キラも、こっちにいるぞ。あんまり大勢で騒いだら、おまえの身体に悪いから、今、みんな、仕事してる。後で顔を出すはずだ。」
「リジェネは? 」
「ラクスの手伝いをしている。大丈夫か? 何か欲しいものは? 」
と、看病する気満々のオーヴの国家元首様は張り切っているが、目が覚めたばかりで頭が上手く廻らないニールには思い浮かぶものがない。そういえば、と、思い出したことを尋ねた。
「・・・・ティエリアたちは出かけたか? 」
「オーヴから、そのままエアラインで欧州へ向かった。私も直には逢ってないが、ラクスから、そう聞いている。」
「・・そっか・・・なら、いいんだ。」
エターナルの展望室で、一緒に特区には戻らない、と、ティエリアに言われた。せっかくの自由旅行だ。そちらを優先してくれ、と、ニールも頷いたが、やはり馴染みの顔がないのは寂しい気はする。するのだが、それ以上に騒がしいのがいるから、落ち込む暇はない。メシは? とか、散歩は? とか、一々勧めてくれているのだが、とてもではないが動ける状態ではない。
「・・・カガリ・・・・寝かせくれ・・・おまえ・・・声が大きい・・・」
「はあ? 」
「カガリ様、冷凍処理から蘇生させた場合は、すぐには動けません。しばらくは寝かせてやってください。」
「そうなのか? じゃあ、私は邪魔だな。」
「・・・ごめん・・・」
「いや、気にするな。とりあえず、私も仕事を片付けてくる。」
じゃあ、また後で、と、カガリはピューと出て行った。あのテンションの会話は無理だ。はあーと大きく息を吐いて、ニールも身体の力が抜ける。
「すまないな、娘さん。カガリ様が、どうしても立ち会うとおっしゃって。」
「・・いや・・・いいんですが・・・。ただいま、お父さん。」
「はい、おかえり、娘さん。もう少し眠っているといい。」
「・・・はい・・・・」
身体が、まだ活動状態ではないらしい。ふうと息を吐いて目を閉じると、意識が落ちる。ようやく、帰って来たんだな、と、思うのが不思議な気分だ。本来は、組織が帰る場所だったのに、もう、そこには居場所もないと確認してしまったかららしい。
夕方に、ようやく動けるようになって、トダカと別荘のほうに上がった。明日から、しばらくはトダカ家で療養するように、と、ドクターにも命じられた。トダカのほうは、一度、寺に顔だけは出しておけばいい、と、帰り道を寺経由にしてくれるという。なんとなく身体は重いので、大人しく里帰りすることにした。さすがに、この体調では、寺に帰っても動けない。
「おかえりーーママッッ。」
「お疲れ様でした、ママニール。」
上がってきたら、居間には滞在中のメンバーが勢揃いしていた。キラとアスランに出迎えられて居間に入ると食事の準備がされている。リジェネが、やってきてニールの右腕に懐いている。
「メシの時間だ。ちょっとは食え、ママ。食わないと体力なんか戻るはずがないんだ。」
「無理はなさらなくてもよろしいですが、少し摘んで行かれませんか? カガリが用意してくれたので鮮度のほうは保証付きです。」
次にカガリと歌姫様だ。居間のテーブルには、所狭しと料理が並んでいる。で、こちらに、と、案内された席の前には、あっさりしたメニューだ。あっさりメニューだが、量は、いつも通りだ。
「病人でも食えるメニューを用意させた。」
「・・・おまえ、また・・・」
「誰も全部食え、なんて言ってない。食えそうなものを摘めばいい。トダカ、相手をしてくれ。おまえも、こっちのメニューのほうがいいだろ? 」
カガリも、そこいらは考えて料理を持ち込んだ。胃に優しいもの、口当たりの良いもの、あっさりしたもの、というのを下準備させて、こちらのスタッフに調理してもらった。若者組のほうは、そればかりでは物足りないから肉だの魚だのが別に用意してある。
「あのね、ママ。鯛茶漬けなんか、どう? これ、おいしいよ? 栄養もたっぷり。」
キラが、いそいそと、そのテーブルに載っているものを説明しつつ作ってくれる。白いご飯を少々、小振りのどんぶりに盛り、その上に蒸して細かくした鯛の身と、茹でて細かくした卵の白身と黄身、ノリ、ネギ、大根おろしを適当に乗っけて温かい出汁をかける。それをクシャクシャと混ぜて、木の匙と共に渡してくれる。
「・・・うん、これなら食べられそうだ。」
「そうでしょ? 」
「あと、海鮮スープもお勧めだ。和風だから、あっさりしているし材料も細かくしてもらった。」
土鍋を開けて、カガリが給仕してくれるのも、材料が細かく裁断されているスープ仕立てのものだ。注いだ椀に、さらに白身の魚の刺身を乗せている。スープの温度で、ほんのりと白身が色を変える。
「ママニール、その鯛茶漬けは、アクセントとしてわさびを載せるのもおいしいですよ? まず、味見して、調整してください。」
アスランが、わさびをニールの傍に寄せてくれる。なんていうか、至れり尽くせりな状態だ。
「トダカさんは冷酒ですよね? 」
ニールが、となりのトダカの世話をしようとしたら、まあまあ、と、トダカに止められる。ちゃんと手元に持参の酒瓶があったりする。
「私は、勝手にやるから、まず、娘さんが口をつけなさい。そうでないと、みなさんが召し上がれないんだ。」
こういう場合、主賓のニールが一番に口をつけるのが、極東の礼儀だ。ああ、そうか、と、ニールも気付いて、一口、鯛茶漬けを口に含む。出汁が温かくて、ほっこりとする味だ。
「うめぇー。あっちでパック食ばっかりだったから、こういうのは、ほっとするなあ。」
「それだって食べられなくて、ジャガイモスープオンリーだったとお聞きしておりますけどね? 」
「あれは、びっくりだったよ、ラクス。・・・・とりあえず、俺は食べた。ありがとさん。」
ニールが周囲に声をかけると、アスランが他のもののために給仕を開始する。キラとカガリは好きなものを、さっさと皿に盛り上げているし、リジェネはアスランがセットしてくれた鯛茶漬けを、もぐもぐして、おいしい顔をしていたりする。
「トダカさん、取り分けましょうか? 」
「いいんだ。私のは、こっちに刺身が用意してくれている。それで、しばらくは飲むよ。」
トダカの前には、懐石チックな小振りな器に、いろいろな料理が並べられている。一概に刺身と言っているが、塩で、とか、醤油で、とか、ポン酢で、とか、いうように分けられているらしい。
作品名:こらぼでほすと 解除18 作家名:篠義