こらぼでほすと 解除18
「ママ、トダカさんのメニューに興味がおありなら、同じものかございますよ? 」
「うーん、塩でって食べたことがないな。」
刺身を塩で食べるというのは、ニールも知らない。カルパッチョなら、塩とオリーブオイルのドレッシングだが、それよりもあっさりしたものだろうという想像しかできないので試したい。では、それを、と、ラクスが運んできてくれる。テーブルには、それらも人数分用意されていた。
「どうぞ? 」
小鉢を渡されて、口にしたら、素材の味がよくわかる代物だった。極東の料理は、素朴なものが多い。素材の味を引き出すような調理法が主になっている。長年、特区に住んでいるニールにしても、このあっさりとした料理に馴染んでいて、こってりした洋食は、あまり好まなくなっているから、おいしい料理だ。
「ああ、これもいいな。」
「ママ、それ、一口っっ。」
リジェネが、隣りに座って、あーんと雛のように口を開けるので、ぽいっと放り込んでやる。もぐもぐして、うに? と、首を傾げた。
「味がない。」
「そうかなあ。ほんのり甘いだろ? 」
「娘さん、こういう淡白な味がわかるのは、三十代を超えてないと無理だ。」
「そうなんですか。・・・じゃあ、リジェネには無理なのかな。もうちょっと塩を足せばいいのかもしれない。ラクス、塩ないか? 」
「ありますけど、ママは、それぐらいのほうがよろしいんでしょ? リジェネのは、別に用意しますわ。アスラン、お願いします。」
「いいよ、ラクス。僕、他のものを食べる。」
違うのゲッチューとリジェネが席を立つ。そこに座り込むのは、山盛りの料理の皿を持ったカガリだ。
「おかえり、ママ。さあ、メシだ、メシだ。」
で、がつがつと、その皿を攫えて行く。国家元首様が、こんなでいいのか? と、ニールは心配するが、気にしてはいけない。ここでは、カガリも素だからだ。普段は、お上品にやっている。
「しばらくは居るのか? カガリ。」
「あと二日だ。アカツキで訓練して整備するぐらいしか時間が取れなかった。」
「そうか。また遊びに来いよ? 好きなもの作ってやるからな。」
「ああ、来年、寺に戻った頃に顔を出す。悟空と食べるのは楽しいんだ。お好み焼き大会をやろう。」
「それなら、お安い御用だ。」
「まあ、なにわともあれ、ママが完治してよかった。これで、うちにも遊びに来てもらえるからな。なんなら、しばらく、うちで滞在してくれてもいいな。私の癒しになる。」
「・・・癒し? 俺が? 」
「なるだろう。ママが、家庭料理で出迎えてくれるなんて、なかなか癒される光景だ。できれば、ピラピラのエプロンとかがいい。」
「・・・どこのおやじだ? おまえは。」
「親父とは、何事だ? 美人にエプロンは間違ってないだろ? なあ、キラ。」
「うんうん、それはわかるよ、カガリ。ママ、案外、ピラピラエプロン、似合うんだよねぇ。それで、おいしいおやつとかあると、幸せだもんね。」
「ピラピラエプロンって、何? キラ。」
「後で映像で見せてあげる、リジェネ。お寺だと、三蔵さんが怒るから見られないけどね。カガリのとこなら、オッケーだ。」
ニールの隣りでトダカが吹き出して笑っている。想像したらしい。どんだけ人を弄くる気だ、と、ニールも呆れつつ、食事する。バクバクと周囲で元気に食事してくれると、ニールも食べる気になる。
「ラクス、ママにコーディネートは頼んだぞ? 」
「うふふふ・・・それで、『おかえりなさい、まず食事ですか? お風呂ですか? それともワ・タ・シ? 』のオプション台詞もおつけいたしますわ、カガリ。」
「いいなあ、それ。ママ本体はいらないが、台詞はいいなあ。」
「こらこら、そういう遊びは恋人か伴侶とやってくれ。」
「じゃあさ、ママは、三蔵さんにやってあげてるの? 」
「はあ? キラ、俺が、それを冗談でもやったら撃たれると思うんだが? 」
「あーそうだよねぇ。三蔵さん、ものすごく照れ屋さんだもんね。ごくーがいるから、そんなことしたら恥ずかしいよね。」
「いや、それも違う。おまえこそ、アスランにしてやれ。」
「僕、ごはんなんか作れないもーん。裸エプロンならできるけど。」
「キィーラ、それ、こんなところで言わない。」
「だって、事実だし? あ、リジェネ、裸エプロンっていうは・・・」
「うわぁーキラッッ。リジェネに、そんなこと教えるなっっ。」
「なんで? 知りたいよね? リジェネ。」
「裸でエプロンって、料理したらヤケドしそうだよね? キラ。それ、なんの効果があるの? 」
「料理用じゃなくて、夜の遊び? 」
下ネタはまずい、と、ニールがキラの頭をポカリと拳骨する。純粋培養イノベイドに必要じゃない知識だ。だというのに、リジェネのほうは、キィーンと金目でヴェーダとリンクして、さっさと答えを見つけてきた。ほおほお、と、頷いている。
「うーん、ママだと、あんまり楽しくないな。それ、ティエリアがやってくれたら、ものすごく楽しいかも。」
「リジェネ? 」
「だって、ティエリアは可愛いでしょ? ピラピラエプロンは、ママも可愛いと思うけど。裸はねー。」
「あはははは・・・・そうだろうね。リジェネくん、ニールのは見たくないね。」
トダカも、リジェネに同意して大笑いしている。想像すると、かなり笑えるらしい。
「私も、ママは着衣のほうがいいな。」
「私も、ですわ。カガリ。」
「僕も。」
「俺も、ママニールのは、ちょっと。」
「やらねぇーよっっ。おまえら、そういう話題は深夜にやれ。だいたい、そういうのは可愛い女の子の凹凸があって成り立つもんだっっ。」
「あら、じゃあ、私が試してみましょうか? ママ。一応、可愛い女の子です。」
「なんで、娘の、そんなあられもない姿を見なきゃいけないんだよ。いらねぇーよっっ。カガリもなっっ。」
「あ、もしかして、僕、ご指名? 」
ニールのツッコミに、キラが自分を指差して、小首を傾げている。
「おまえのなんか、もっと見たくねぇー。アスラン限定でやれ。」
ハイネがいないと『吉祥富貴』のツッコミ役は、もれなくニールの担当だ。ぎゃあぎゃあと騒がしいのにツッコミだ。そして、なんだかんだと食事も進むので、ニールも少量ながら、いくつかの料理を口にした。すっかり口が、極東の料理に馴染んでいるから、久しぶりのマトモな食事という感じだ。
他は、まだ食べているので、ニールのほうはトダカのお酌をしている。ふと、窓の外が暗いので、あれ? と、気付いた。
「トダカさん、店のほうはいいんですか? 」
「今、改装していて休んでいるんだ。クリスマスシーズンだから、北欧風に家具も壁紙も変えたから、雰囲気は変わったよ、娘さん。」
「そうなんですか。開店準備は手伝いますよ。」
「いや、まだダメだね。来週ぐらいから頼もうかな。クリスマスウィークに突入するから、おやつと夜食をやってくれるかい? 」
「了解です。リジェネも連れて行っていいですよね? 」
「ああ、かまわないよ。店で食事して、先に帰ればいい。」
作品名:こらぼでほすと 解除18 作家名:篠義