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【静帝】 SNF 第一章

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◆ 『天然みかど注意報』 シリーズ・第一弾! ◆

 『サタデー・ナイト・フィーバー』 第一章

   ◇ プロローグ ◇

 梅雨明け間近の、からりと晴れた、とある土曜の昼下がり――。
 池袋の街をのんびり連れ立って歩いていた、帝人と正臣の進行方向先がにわかに騒然とし、辺り一帯の空気が一瞬にして鋭い緊張に包まれた。
「だ〜か〜ら〜っ!足掻くだけ無駄だから、逃げんなっつ〜てんだろぉがぁあああ!!」
 逃げる債務者、追う静雄。引っこ抜かれた道路標識が、槍投げよろしく空を飛ぶ。
 余所者が思わず目を剥くような非日常的なこの光景も、地元民にとっては既に暮らしに馴染んだ、極ありふれた“恒例イベント”みたいなもの。
 もはや慣れっこ状態になっている池袋人たちの反応は皆一様で、とにかく巻き込まれないようにと端に避けて道を開ける!只その一点に尽きた。
 修羅の巷と化した通りの先を虚ろな目でぼんやり眺め、次いで己の横で 「ふふっ、静雄さん、今日もお仕事はりきってるみたいだねぇ〜」などと、微笑ましそうに口元を綻ばせながらズレた感想を述べて下さる親友殿に、正臣はどうしようもなく脱力する自分を覚えつつも、乾いた笑いを応えとした。
(は、はは…。青筋おっ立てた極悪笑顔の借金取りが、金を払えと脅しつけてる姿を見ての感想が、それなんですか?帝人さん…。)
 一体、何処をどう善意的に解釈すれば、あの獰猛な野獣の猛る姿が、まじめに頑張って働いてる〜的な、お仕事熱心な勤労青年(!)に見えるというのか。
(アレかっ?恋は盲目な“乙女”にだけ見えるという、ご都合主義の幻か?幻なのかっっ!?)
 嗚呼――恋愛フィルター、恐るべし!!

 危ないから、回収業務の遂行中は、見掛けても絶対!自分達に近寄ってはダメだぞと、この街では借金取りに無縁の一般人にまで、広くその風体と悪名の知れ渡った評判高き《伝説の取立コンビ》の二人から、くれぐれもと重ねて念を押されているらしく、帝人は言い付けどおり一定距離を保ったまま、ただじっと目を凝らして厳かに事の成り行きを見守っていた。
 やがて、往生際の悪かった今回のターゲットが渋々ながらも観念し、事態の収束を見た群衆は、欠片ほどの未練も残さず、あっさりとそれぞれの日常へと帰っていく。
 足を止めて遠巻きに眺めていた通行人たちが、再び歩き出して散り散りにバラけていく様を、その場にぽつんと取り残された帝人と正臣が、込み上がる寂寥感をその瞳に滲ませながら黙然と見送り、胸に去来する遣る瀬無さを覆い隠すように暫しひっそりと瞑目する。
 沈んだ気持ちを切り替えるべく浅く吐息し、互いの情けない表情に微苦笑を浮かべ合いながら肩を竦めたところで、「お〜い」と人波に掻き消されることなく届いた呼び掛け声に向けた笑顔は、果たして、ぎこちなさを残してはいなかっただろうか――。
作品名:【静帝】 SNF 第一章 作家名:KON