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【静帝】 SNF 第一章

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   ◇ ゴー・トゥー・ザ・パーク ◇ ― side 正臣 & 帝人 ― (1)

「ぅんで〜?さっきのアレは、一体なんだったんですか?帝人さん」
 先程の通りから、少し離れた所にある公園へと足を向けながら、両手を頭の後ろで組んだ姿勢のまま、正臣がチラリと非難がましい視線を、傍らを飄然と歩く帝人へと投げ付ける。
 わざと敬語口調で詰問する正臣に、何を怒っているのか全く解っていない様子の帝人が「さっきの?」と、きょとんとした丸い瞳であどけなく小首を傾げてみせた。
(ああ、もう〜可愛いじゃねえか、こんチクショウ〜〜っ!!)
 小学生の頃のままの面影を色濃く残した容貌と幼けないその仕草が、在りし日の情景を正臣の脳裏に呼び起こす。
(ちっこい頃は、オレの事「まーくん、まーくん」って呼んで、必死に後をおっかけて来てたのにさ〜。)
 無邪気にはしゃぎ回っていた子供時代――帝人の綺麗なふたつの瞳が、宝石みたいにキラキラと光をはじいて輝く瞬間を、いつだって一番近くでたくさん見詰めてたのは、自惚れなんかじゃなく、確かに“自分”だった筈…なのに…。
(〜〜なんだよ、帝人のヤツ…。あんなん聞いてなかったぞ、オレはっっ!!)
 つい今しがた、帝人とドレッドヘアの男との間で交わされた、ジェスチャーだけの無音の“会話”。
 言葉になんかしなくても、互いの意思はちゃんと伝わり通じ合っているのだと、そう見せ付けられた気がして、ひどく不快なもやもやとした苛立ちが、胸中いっぱいに広がった。
(そりゃ〜帝人が、あの!悪評付き纏う《池袋の自動喧嘩人形》に告られて、いわゆる“恋人同士”な関係になったってのは、聞かされてたさっ!けどっ…っ!)
 もう一人の、“如何にも”なチンピラ風体の男とまで、あんなに仲良くなってるだなんて、ちっとも知らなかったし思ってもみなかった。
 確かに、二人一組で行動している姿を見掛けることが多く、主に悪い意味で、巷に広くその名を轟かせている《地獄の取立コンビ》の片割れなのだから、平和島静雄と接触する際には、必然的にあの男とも、挨拶程度の言葉くらいは交わした事もあるだろうとは考えていた。
 けれど、それは、あくまでも“面識がある”程度の認識で…ただの、知り合いとしての関係止まりだとばかり、思ってたのに…。
 逆行再生などしたくも無いのに、脳裏に焼きついた先程の無声映画のワンシ−ンのような光景が、頭の中のスクリーンに何度も何度も映写される。

 ――「お〜い」と一声のみ発して、その男は帝人の注意をごく自然に己へと向けさせた。
 通りの先をちょいちょいと指差し、時計を嵌めた腕を軽く掲げて見せてから、今から向かう公園のある方角へと、くいっと顎をしゃくってみせる男の、意味深な態度がひどく癇に障って疎ましかった。
 帝人が、両腕で大きく“まる”と描き、何事かを伝える仕草を幾つか示すと、“了承”と男が緩慢な動作でヒラヒラ手を振り、ゆっくりと踵を返して歩き出す。
 彼等だけの合図(ことば)で刹那の疎通をはかり、取り押さえた債務者の腕を後ろ手に捻り上げた相棒を伴って、男の背中が遠ざかる。
 平和島静雄は、最後までこちらを振り返らなかった――。

「ねぇ、紀田くん。のど渇かない?少し公園で休憩しよう」
 男達の背中が完全に視界から消えたのを見届けた後、ようやく傍らに控えていた自分の存在をその瞳に映してくれた帝人は、けれど悪意の無い残酷な一途さで、疎外感に打ちのめされていた正臣の心を、容赦なく追い詰め切り裂いた。
(休憩しない?じゃなくて、休憩しよう、な訳ね。はは…は…)
 こちらの意向を伺うでなく、既に決定事項なのだと伝えるそのセリフが、帝人の中での優先順位が、どちらに有るのかを如実に物語っているようで、ひどく居た堪れない気分にさせられた。
 今から公園に行くという事は、きっと、あの男達とそこで落ち合う約束をしたのだろう。
 先刻の短い邂逅の中で交わした合図の意味を、帝人から説明されることは無かったが、なんとなくのニュアンスで、正臣にもそれ位は推し量ることが出来た。 
 このまま足を進めても、その先に待つのは、彼等との親密ぶりを目の当たりにさせられるだけの、苦痛に満ちた拷問時間だと思うと、自然、歩みが鈍くなる。
 けれど、あの場で正臣が嫌だと言えば、「じゃあ、今日はここでお別れだね」と、あっさりサヨナラされそうな雰囲気を、帝人が醸し出していたから…結局、離れることを惜しんで、付いて来てしまった。
(帝人は、オレが一緒の高校へ通おうって誘ったから、こうして今、この池袋(まち)に居るのに…。)
 胸を締め付けるこの感情が、嫉妬と呼ぶにも満たない、只のがんぜない子供染みた独占欲であることは自覚していた――。
    《 歌っておくれ、ナイチンゲール。私のそばで、私のために 》

 初めて帝人に上京を勧めた時は、両親に「子供の一人暮らしなんてとんでもない」と反対されてしまったからと、申し訳なさそうに断りの意を伝えられた。
 今は無理でも、高校を卒業したら、就職するにせよ大学へ通うにせよ、何とか東京(そっち)に行くことを許して貰えるように、時間を掛けて少しずつ説得してみるね、と、三年以上も先の不確かな将来を口にする帝人に、「おまえは、オレと一緒の高校生活を過ごしたくないのか?」と、ひどく卑怯な訊き方をして、しつこい位に何度も何度も、うるさく「東京へ出て来いよ」とせがみ続けた。
 ――そんなオレの必死さに、変なところで聡い帝人は、きっと何かを感じ取ったのだろう。
 「不承不承だけど、どうにか許しを勝ち取れたから…」と、入試間際のギリギリになって、オレに吉報を届けてくれた。
 けれど、事も無げな軽い口調で語られた経緯は、あっさり聞き流すには余りに重い内容で…。
 金銭面を持ち出しての難色に、「生活費は自分で働いて稼ぎます。だから学費の負担だけはお願いします」と頭を下げてまで、オレの要望に応えるために、尚も渋る両親を帝人は説得し続けてくれた。
 働きながら学校へ通うという事が、どれほど大変でキツイものなのか、質素で慎ましやかな切り詰めた生活を送る、帝人の暮らし振りを目の当たりにするまで、オレは気遣ってやれもしなかった。
 昭和のノスタルジア漂う、風呂も付いてないような安アパートの小狭い部屋にオレを招き、『一ヶ月一万円生活』ばりの節約レシピを披露してくれた帝人は、それでも「住めば都だよ」と笑ってた。
 驚いた事にその料理の腕前は、まさに“どこに嫁に出しても恥ずかしくない”レベルで…意外だと揶揄すれば、父親に「ろくに家事もこなせない半人前に、一人暮らしはまだ早い」と窘められたのが悔しくて、意地になって母親に師事したから、今では料理だってバッチリなのだと誇らしげに胸を張られた。
(おまえ、バカだよ帝人。オレの我が儘なんか、最後まで突っぱね通せば良かったのに。)
 自分が東京に呼び寄せたりしなければ、きっと帝人はこんな苦労なんて知らずに、平穏な日々を過ごしていたに違いない。
 その事を済まなく思う一方で、けれど自分勝手なオレは、そんな苦難の道を選んでまで、自分の許へ来てくれたのだと、仄暗い優越感にゆがんだ独占欲を満たされていた。
作品名:【静帝】 SNF 第一章 作家名:KON