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00腐/Ailes Grises/ニルアレ

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彼女への想いだけが特別な訳じゃないと。
そんな風に考えてしまう自分にすら心が痛む。
灰羽は穢れを嫌うなんて、自分の心が穢れていたら、一体自分はどうすればいいというのだろうか。

「あ、いや、刹那は……」

しかしアレルヤの言葉に、ロックオンは予想外の反応を示した。
あまり後ろ向きな言動をロックオンはしない。
それを知っているからアレルヤは自分自身の感情のままの言葉を聞いたロックオンがどんな反応をするかを見ようとした。
驚いたような、少し後ろめたさがあるような、そんな表情だ。
途惑って、どう表現したらいいのか困惑しているようにも見える。

「刹那は、ここを出たんだ。今は街で暮らしてる」

そうロックオンは曖昧な答えを乗せた笑みをアレルヤに返した。
巣立った訳ではないという事をどう説明しようとしたのか。
この街の何処に、他の灰羽がいるというのだろう。
アレルヤはロックオンはおろか、まだこの世界の何も知らないという事を突き付けられたような気がした。
――自分のやるべき道が、わからない。ロックオンの言葉が、わからない。
黒い部屋に置き去りにされた見知らぬ誰かの絵が、此方を見て微笑っていた。
彼らは、彼女らは、いつか旅立った灰羽なのだろうか。
日常を切り取った絵の中に、幾つかの抽象的な何枚かが飾られていた。
壁に描かれた石礫には、レールが敷かれていた。
道の先から、射し込む光。
せめて、生まれる前に見た夢が、もう少し幸せだったら良かったのに。
今の暮らしに幸せを感じてしまう。
それに気後れしてしまうから。
*****





日に日に元気を無くして行くアレルヤの姿に、クリスが気付かない筈が無かった。
マリナが初めて倒れた時の事を思い出した。あの時のような禍々しい波がまたホームに渦巻くのかと。
しかしクリスの予想は杞憂に終わった。
他の灰羽ただ一人として、不浄の気に当てられて「病気」にはならなかった。
それがただたんにアレルヤが新参者であったからかは分からない。
まるでそれがクリスには、アレルヤ一人が皆への悪意を一身に背負っているような……そんなように感じた。
何がアレルヤを、そんな想いに苛むのだろう。
何がロックオンを、そのような負の感情で包み込むだろう。
アレルヤなら「彼」の良き理解者になれると思っていた矢先の出来事だった。
刹那は彼とは違う道を選んでしまった。慕っていたはずのティエリアは、刹那を気にかけ一緒に出て行った。
マリナがいなくなって、道しるべがなくなってしまったこのホームを、必死に取り繕うようなロックオンの姿が居た堪れない。
こんな彼らを残して、どうしてマリナは巣立っていくことが出来たのか、クリスには解らない。
ロックオンは何も話してくれない。昔からそうだ。いつも独りで、自ら抱える痛みを誰とも分かち合う事無く。
真の意味でアレルヤがロックオンの理解者になれるとでもいうのだろうか。
しかしクリスにはどうする事も出来なかった。
どうにかできるのなら、もっと昔にロックオンと分かり合えている。
どうにかできるのなら、まだマリナや刹那は、彼の傍にいてくれたのだろうか。
せめて気晴らしに、と、時折ふらりと出掛けるアレルヤに、クリスは自分が働いているカフェの臨時アルバイトをしないかと誘ってみた。
スメラギのカフェでウェイトレスを兼任しているが、その実は料理をそこで学んでいる。
声を掛けて見ると、意外なほどアレルヤはあっさりとそれを承諾した。
フェルトの時もこうだったのだろうか、アレルヤの人の良さに少し心配になる。
頑なとしてホームを出ようとしないロックオンに比べてまだアレルヤは扱いやすい……とも思いもしたが、アレルヤがロックオンに距離を置いているだけなのかもしれない。

「……フライパン持つの、初めてでしょ?初めてにしては上出来ね」
「ありがとうございます」

今日はアレルヤはスメラギにオムレツの作り方を教えてもらっていた。
卵を焼くだけだが、卵の溶かし具合、火の強さ、どれぐらいフライパンが温まったら流し入れるか。
そして肝心なのは、その形作りだ。
意外にもアレルヤは褒められていた。
必死にフライパンと菜箸を動かすアレルヤは、ほんとうに何もかもが初めてだった。そもそものキッチンに入る事自体。
男が料理なんて……とアレルヤは思ってはいたのだが、男性の方が料理人が多いのだとクリスは教える。
何故かは教えられなかったが女性は味覚が変わりやすいそうで、安定した味を作り出すためにプロには男性が多いらしい。
クリスもよくそれが解っていない。灰羽にそれらは関係するのだろうか……と、そういう気持ちもあったが異性であるアレルヤにその理由を素直には告げられなかった。

「今度アレルヤに新作スイーツ、試食して欲しいなあ」
「スイーツ? クリス、お菓子まで作れるのかい」
「ホームの三時のおやつはいつも私が作ってるのよ」

いつも子ども達が美味しそうに頬張っているお菓子はクリスのお手製だった。
かわいらしい形で作り上げ、子どもたちを見た目と味で楽しませるのが何よりも楽しくて。
アレルヤはクリスの料理はホームでいつも食べているが、お菓子はもしかしたら初めてかもしれない、と考える。
小さな子達が争う程のお菓子の新作を食べれらると聞いて、少し浮き足立つ。
アレルヤはクリスのことが嫌いになった訳ではないのだ。
クリスははなからアレルヤの事を嫌ってなどいなかったし、ほんの少し嬉々としているアレルヤの様子を見て安心した。

「知らなかった。クリスはなんでも作れるんだね」
「ふっふーん……なんたって自分でお店開くのが私の夢なんだから!」
「あれ?お嫁さんじゃなかったの?」
「お嫁さんじゃなくても、好きな人とお店を開きたいの」

子供たちを笑顔にするようなお菓子を作りたい。出来るなら、好きな人と一緒に――そう夢を語るクリスの笑顔は、アレルヤが倒れる前に話をした時のような、陰りのある表情では無かった。
楽しそうに夢を語るクリスを見て、アレルヤは不思議なくらい自分の心が平常であるのに驚く。

(大丈夫じゃないか。苦しくなんて、ないじゃないか)

まるで感情が麻痺したかのように、アレルヤの心には風すら吹かない。
薬を常用しているよつになりつつあるのを、アレルヤはクリスに隠している。
ロックオンが『クリスが心配するから』と自分の薬のレシピを分けてくれた。
この痛みがどういうものか未だアレルヤには分からなかったが、クリスからすればロックオンは病人なのだと。
そんなに心配する事じゃ無いんだけどな、とロックオンは少し呆れたようにも、嬉しそうにも取れる笑みをくれた。

(ああなんだ、もしかして両思いなんじゃないのか?)

アレルヤはそうクリスに言ってあげたくなるが、恋愛ごとに経験が豊富な訳でもないアレルヤからのアドバイスなど不容易にも程が有る、と考えを改める。
そう、アレルヤが思い直した矢先だった。

「でもね〜……最近アイツ、配達ばっかで……」

めったに店に来やしない、とクリスは不機嫌そうに口をとんがらせて呟いた。
アレルヤが倒れた時てんやわんやしたのだが、その時のクリスの悩みは数日たった今でも解決されていない。