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00腐/Ailes Grises/ニルアレ

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かといってあの時アレルヤに相談したのかはクリス自身でも解らないが、多分、あの幸せな空気に当てられていたのだろう。
どうせホームにずっと居座るくらいなら、結婚したらいいのに。
しないと言うのは目に見えていたが、マリナの想いの手前、ロックオンには幸せになって欲しいのだ。
そうじゃないと自分一人で幸せになってしまいそうで気が引けた。
もちろん、結婚したいというオンナノコの願望でもあるのだけれど。

「……アイツ?」
「やだっごめんっなんでもない!仕事仕事!」

クリスははっとしたように会話を中断してアレルヤの背中を押した。
困ったように眉を下げるアレルヤを尻目に、クリスは未だ来ぬ想い人の事を考えた。
なんで来ないの、ばか、と小さくぼやく。私はまだ祭りの日の予定が空いてるのよ。
そう思いながらも夢の為に手を抜くことなどクリスはしなかった。
流れるようなその作業風景の傍ら、熱心に仕事に打ち込むクリスの姿にアレルヤは見惚れた。
こんな風に、自分もなりたい。
何かに熱中して、そして悪びれる事無くまっすぐに、好きだと胸を張って言えるように。
*****





「――……雨ね」

スメラギがカウンターでグラスの曇りを拭いながらそう呟いたとき、アレルヤの視界が急激に明るくなった。

「きゃっ雷……結構大きかったよね。リヒティ大丈夫かな……」
「結構大きかったですね……、……?」

どうやら雷が落ちたらしい。街中にでは無かったが、随分と大きな音だった。
外はもう薄暗くなっていて、アレルヤは突然頭の中に光を当てられたかのように少しクラクラする。
その中でクリスが誰かを心配するような言葉を出して、アレルヤの頭に疑問符が浮かんだ。

(しらないなまえだ……)
「クリス、うわさをすれば、よ」
「スメラギさぁーん雨宿りさせて下さいー!」
「ご無沙汰ねリヒテンダール。ミルク代くらい出しなさいよ?」
「それくらい出しますってば!……って、クリス!?」
「お久し振りね、リヒティ?」

突然の来店者の前にクリスは仁王立ちになる。
青筋をたてて怒る様子は、もしかしたらアレルヤは初めて見たかもしれないと思った。
ロックオンに対して怒っている時より怖いかもしれない。
ひやひやしながら二人の様子をアレルヤは伺っていたが、どうやらリヒティと呼ばれた青年もまたアレルヤ同様怯えていた。

「は、ハハ……ッスメラギさんやっぱりミルクも要らないっす!」
「待ちなさい!!!! アンタ最近配達配達って、デートもろくにしないでっっ」
「そそそそそれはぁ……」
「かいしょーなしっ!久し振りなのに店出て行こうとするとかっ……浮気してやるわよ!?」

突然クリスがアレルヤの方へ飛び込んで来た。
腕を取られ、カウンターから引っ張り出されて先程来店した青年…リヒティの前へと連れられる。

「なっ……誰っすかそのイケメン!!!」
「新人のアレルヤ」
「えっ……あの……」

なんだかよく解らないが、自分は巻き込まれる体質なのだろうか、とアレルヤは内心頭を抱える。
愕然と青褪めるリヒティにクリスはアレルヤを紹介した。

「あの……クリス……」
「ねーアレルヤ?彼女に『仕事と私どっちが大事?』って聞かれたらどう答える?」
「……クリスが一番大事ッス!!」
「あのねえ……」
「でもクリスの欲しがってるものを買うにはお金が要るんっすううううううううううう!!!!!!!!」

言っちゃった……という顔をしたのは、とうの本人ではなく、カウンターに肘をついてその修羅場を眺めていたスメラギだった。
しまったといった様子でスメラギは眉間に手を当てる。

「……クリス、それは悪い女が使う言葉よ……」

スメラギがなんとかやっとのことで搾り出した言葉は、それだった。
クリスもバカじゃない。冬の祭りのプレゼントの話だということはアレルヤですら解った。

「……お金稼ぐ為に忙しくて会えなかったの……?」
「そっすよ!会いたくなっちゃうからなるべく店にも顔出さなかったのに……ってか今日シフト入ってる日じゃないっすよね!?」
「リヒティが会ってくれないからシフト増やしたのよ!!」

置いてけぼりにされてるのはアレルヤだ。
引き合いに出されたというのに結局よく解らないが二人はすれ違いを起こしていただけのようだった。

「ごめんアレルヤ……恥ずかしいとこ見せちゃった……」
「え?いや全然大丈夫だけど……どちら様で……?」

むしろアレルヤの方が少し萎縮してしまう。

「えーっと……一応、カレシ、の、」
「リヒテンダール・ツェーリっす!」

はた。アレルヤは止まる。んん?という事は?この間の話やら今日の話のあれらは……もしや、このリヒティと呼ばれている人の事だったのだろうか。

「……クリスは、ロックオンが好きじゃなかったの……?」

問題としてではなく単純な疑問だった。
やたらとロックオンの事を心配していたし、だから最初の見解がそれだった。
今の今まで見当違いな事を考えていたのに気付いて、アレルヤの頬がかっと赤くなる。

「やだー違う、違うって!」
「や、やっぱり二人はそういう関係だったんスか……!?」
「リヒティ、それ以上言うと本気で怒るよ?」

全力で否定するクリスであったがアレルヤの言葉にリヒティが重ねてトンチンカンな言葉を発した。
同じ屋根の下、年頃の男女が二人……考えうる事は、とどのつまり、世間的にもそう、らしい。
予想という点では当たらずとも遠からず、そういう発想になるのは間違いでは無かったとアレルヤは学ぶ。
であるのなら、何故クリスは、あの時あのような表情をしたのだろう。
ロックオンが病気だから≪結婚しない≫のだろうか。
心の深く暗い所でアレルヤは思考する。
雨は一向に止まず、何人かは諦めて店を出て行ってしまった。
リヒティもまた仕事に戻らないと、とクリスに何度もキスをしてしっかりと祭りの日の約束を取り付けて出て行った。
幸せそうに頬を染めて、クリスはどうやらやる気がアップしたのかメキメキと仕事に励む。





*****





「……ねえ、なんで私とロックオンがそーゆー関係だと思ったの?」

帰り道でクリスにアレルヤは問い掛けられる。
なんで、と聞かれてしまうと、早合点したとは口が裂けても言えない。
もちろんマリナの事もあり、そういう要因があったから……という理由もあったのだが。

「あ……ええと、マリナさんのこと……」
「マリナの話、聞いたの?」

クリスは意外そうな顔をする。
しかしアレルヤは全部を聞いたわけでも無かったので、首を横に振って補足した。

「ロックオンがマリナさんの事が好きだから、≪結婚しない≫って聞いて……クリスとは出来ないのかなあって思ったんだ……」

そう言うアレルヤにクリスは少し呆れた。
アレルヤの発想に対してではなく、アレルヤが嘘を吐こうともせず思ったことをそのまま口にしているのが解って、それで。
もちろんアレルヤ自身この場で嘘を吐こうともせず、素直にそれを伝えようという態度だった。
でもだからって、これでは親に怒られて言い訳をする子供のようなものだ。無駄に素直で、隠し事をしてない分、相手がアレルヤでないなら疑ってしまう。