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00腐/Ailes Grises/ニルアレ

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はぁ、と少し溜め息を吐いて、クリスはアレルヤと同じように、実直に言葉を紡いだ。

「ロックオンがマリナの事、確かに特別には思ってるかもだけど、私とは違う違う!」

マリナは言わば、ロックオンの前任のホームの家主だ。
体が弱く、いつも壊れかけのピアノを弾いていた。
時には子供たちに学びの楽しさを、ケーキを分け合って食べると美味しいということを教えてくれた。
そんな時にやって来たのがロックオンだった。
生まれつき≪病気≫だったロックオンはマリナを慕い、また、マリナは自分が居なくなった後のホームを任せられるようにロックオンに色々な事を勉強させた。
それが刹那には気に食わなかったのだ。

「私はねー、ただ心配なの」

どうして刹那はそんなにマリナに固執するのだろう。
仲直りした筈じゃなかったの?
クリスは刹那が飛び出した日を思い出した。
今も倉庫に仕舞われているマリナの肖像画。
あれを頼んだのは刹那だったのに。

「この間のフェルトの自転車とか、ソランのおつかいとか。ロックオンは誰かの為って言って何でもやっちゃうの。出来ちゃうの」

病気の癖に、とはクリスは言わなかった。
本当はもっと養生して欲しいと思うのは、アレルヤもクリスも同じだった。
しかし同時にアレルヤは、今の自分の体調の事をクリスに隠している事に気後れしてしまった。
これだけが唯一、彼と繋がっていられるものだったから。

「出来ちゃうんだけどね、誰かの為って……そこがね」

どうしてロックオンが結婚しないのをクリスが気に病むのは、きっと彼を置いて結婚して、幸せになってしまうのがクリスには辛い事なのかもしれない。
今だって、ロックオンが独りでホームを切り盛りしているに近い。
ずっと一緒にいたから、放っておけないのはお互い様だった。
ロックオンはホームのみんなを想っている。
少なくともアレルヤにはそう見えたし、クリスだって同じ気持ちのはず。

「アレルヤもしかして、勘違いして倒れちゃったの?」

え、とアレルヤから小さな声が洩れる。

「……ふふ、アレルヤ、ロックオンに恋しちゃったんだね」

唐突なクリスの言葉に、アレルヤは言葉を失う。
その日はホームに帰って、ろくに彼の顔がアレルヤは見る事が出来なかった。
恋だなんて、そんな綺麗なものなのだろうか。
これが恋ならいいのに。アレルヤはそう願う。
恋の病だと誰かが名付けてくれるのなら、身体の痛みも心の曇りも素敵な想いに変貌してくれるような気がした。
そして同時に、街をを歩く恋人たちの姿を見て思い知る。
恋人達は凹凸を埋めるように、心の喪失を防ぐように抱きしめ合う。
与え合うような温かい愛は、男女の間で芽生えたかのような。



13.12.6〜14.01.10