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【静帝】 SNF 第三章

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『サタデー・ナイト・フィーバー』 第三章

   ◇ インターミッション ◇ ― side トム + 静雄 ―

 平和島静雄を、『人外』の化け物・怪物よと、悪し様にそしる輩は数多いる。
 人の身でありながら、筋力のリミッターが存在しない特異体質に生まれ付いてしまった所為で、その異常性に目覚めて以降、彼の人生は幼くして大きくはみ出し『一般』の枠から遠ざかった。
 人並み外れた有り得ない怪力と、その全開パワーに耐え得るよう『一世代での進化』を遂げた肉体は、望むと望まざるとにかかわらず、刃物等の武器をほとんど物ともしない強靭さと、ケタちがいの驚異的な回復力とを、本人の意思にお構いなく一方的に彼の身躯に授け与えた。
 それを憐れむか羨むかは、受け止める側の見解の相違として――生来の特異体質を以って『人外』と見なすことは妥当であり、トムもまたその評価に異論を唱えるつもりは別にない。
 むしろ、相棒の立場にいるトムの観点からすれば、平和島静雄の『人外』っぷりは、もっと、こう…野生的な“動物じみた”その生態にこそ、色濃く特徴を醸していると主張したい所だった。
(…普通、匂いや気配や直感力!で、離れた場所にいる相手の“情態”読み取る能力なんて、備わってねぇべ!?〜〜少なくとも、分類学上『人間』と呼ばれる生き物には…っ!!)
 ぐったり脱力して不毛さに心底滅入りながら、トムはどこか虚ろな眼差しではるか遠くを眺めやった。

   * * *

 昼前から追っていた債務者を捕まえた時、偶然あの子が近くに居合わせ、陰ながらそっと成り行きを見守ってくれてた事には、視界に映る範囲の距離だったから、トムもしっかり気付いていた。
 ちゃんと言付けを守って近寄らずに静観していた姿勢の素直さに頬をゆるませ、回収した金を事務所に届けたら休憩に入る旨を、人目を忍んでこっそりと、ジェスチャーで素早く“愛し子”に伝えた。
 あとで公園で落ち合おうと誘いをかけたら、待ってるから昼食を抜くのはダメですよと優しく気遣われたので、了承との応えをヒラヒラ手を振ることで示し返して、後を引かれつつも一旦その場で別れた。

(…で、“早い・安い・うまい!”が売りの、手近な飲食店に立ち寄ったまでぁ〜良かったんだが…。)

 頼むから、どんぶり掻っ込んでる最中に、怪訝な顔してあらぬ方向ねめつけるのは、や・め・れっ!
 何かあったのかと片目を眇めて胡乱げに一瞥くれてやったら、首を傾げたままいっぱく間を置いてから、「…いや、大丈夫だったみたいっス。」と、綺麗さっぱり説明すっ飛ばして、結果だけ意味不明にぬかした挙句、あっさりマイペースに食事を再開してくれやがった相棒に、こ〜ゆう奴だと分かっていたさ…と諦観の境地で、トムは事由のいかんを深く追求するのを放棄した。
 そうして――じっくり味わう事なく昼飯をそっこうで腹に納め、店を後にしたトムが公園に向けて足を運ぼうと促したところで…相棒から、待ったの制止をかけられたのだ。

「あ〜なんか、取り込んでたみてぇで…あいつ、まだ手前でもたついてて公園に辿り着いてないっス」

 探るように集中力を高めた眼光を、鋭くかなたに遠望させてそう告げ知らせる、只者ならぬ《千里眼》能力を発揮する男は――果たして、本当に自分と同じ『人間』なのだろうか?
 確かに、以前から“宿敵”の存在を近くに察知するや否や、毛を逆立てた野獣のごとき猛々しさで一声「臭せぇ」と鋭く咆哮し、その殺気まじりの低音をトムの耳が拾った時にはもう、仕事をほっぽらかして撃退しに向かってた…という前科が、度々あったのは克明に記憶している。
 だから、離れた相手の居場所を匂いと気配で嗅ぎ付けるという、非常に動物っぽい探知能力を静雄が披露しても、その光景はかねてより見慣れてたので、今更そんな事では驚かないし動じない。

 だが、しかし――トムが黙認できる領域は、そこまでだった。

 位置特定できる【GPS機能】搭載は(今どきの携帯電話や腕時計にも広く備わっている性能なので)良しとしても、だ!
 幾らなんでも、某国のスパイ衛星並みの【監視システム】内蔵となると…それは最早、洒落では済まない、危機的レベルの重大問題ではなかろうか?
(晴れて、あの子と両思いになれたから良かった様なモンの…一歩間違えたら、回避不能の《むっつりストーカー》を、野に放ってたトコだったべ…。)
 静雄自身にその認識は無くとも、結果的にあの子のプライベートを《覗き見》してるのも同然だ。
 『標的』に定められたあの子本人が、寛大にも、その異常事態を“許容範囲”と認めて受け入れてる奇跡だけが…せめてもの救いだと、しみじみ安堵せずにはいられないトムだった。

   * * *

 待ち合わせ場所に、いつもあの子より少しだけ遅れて到着する“偶然”を不思議がって、「まるで、こちらの行動が読めてるみたいですねぇ〜」と、何気ない口調であの子が感想を漏らしたことがある。
 あの子にしてみれば、特に時間を示し合わせた訳でもないのに、頃合いを見計らったかのような絶妙のタイミングでの毎度の登場に、ほんの軽い思いつきの冗談のつもりで、そう茶化してみたんだろうが…。
「…だってよ。おまえ、オレらの方が先に来てたら、“待たせちまった”って気にすんだろ?」
 遠慮がちなあの子の性格を思えば、恐縮がるのは目に見えてる。だから、いつも一足遅れて到着するよう、ペース配分を念頭に置いて、歩を進めるよう努めてた。
 あの子の方が後れて着いて、“申し訳ない”と心苦しく思わぬように…。されど、あの子を待たせ過ぎて、“何かあったのか”と要らぬ心配をさせてしまわぬように…。
 ――静雄の想いは、いつだってシンプルでささやかだった。

(〜っと、まぁ、そこだけ取り上げりゃ、ひたむきな純愛貫く男の、献身的な感動話?に聞こえねぇ事もね〜んだが。……実際は…なぁ?)

 まさか、冗談を肯定されるとは思ってなかったんだろう。
 ぱちぱちと瞳を瞬かせて、きょとんとした幼けない顔で静雄を見上げながら、「え、え〜と…それはつまり、僕がどこに居るか…後どれくらいで到着するか、静雄さんにはお見通し…って言ってます?」と、どう確認したら良いのか分からず当惑しきった様子で、たどたどしく問い合わせの言葉を紡いでた。
「匂いで、大体の居場所はわかる。あと、気配で、何となくおまえがどんな情態なのかも、分かる…と思う。…つぅ〜っても、機嫌は、おおざっぱな気持ちしか、感じ取れねぇけど…」
 口ベタな男が、朴訥な話し方で懸命に伝えようとする姿は、見様によっては微笑ましい光景に映らぬこともない。――その口から暴露される告白が、とんでもない内容でさえなかったら。
(なにも自発的に、その只者ならぬ『人外』っぷりを、白状する事もあるめぇに…。馬鹿正直に、そんな話を打ち明けられたって、普通ならドン引きする!〜っつか、しない訳ねぇべっっ!?)
 誰が、「離れた場所からでも、おまえのことはお見通しだ」と宣告されて、心中穏やかでいられようか。
 このタイミングで、自らの特異性をさらけ出す、静雄の真意が分からない。
作品名:【静帝】 SNF 第三章 作家名:KON