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【静帝】 SNF 第三章

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 怪訝な眼差しを相棒に向ければ、ゆっくりと掛けていたサングラスを外して胸ポケットに差し込んだ男が、口元を自嘲気味に薄く歪めて、劣等感の滲んだ暗い瞳を小さな“想い人”へと落としてた。
 いくら静雄自身が望んでなくても、明らかに異常でしかない規格外の非凡な能力を有してしまった事実は覆らない。
 怪力のことが無くても、その異能さを疎まれ忌避される絶望の未来がいずれ訪れるなら――逃がしてやれる今の内に、己の特異性を包み隠さず露呈させ、あとは…如何なる終焉を迎えようとも、潔く下された最後の断を受け入れよう。

 ――誤魔化しを良しとしない、実直な男の悲壮な覚悟を、トムはそこに垣間見た。

 緊張に包まれた重苦しい静寂の中、すべてを見透かす神秘的な無垢の瞳で、じっと男を凝視していた子供は、やがて沈黙を打ち破るように「そういえば…」と、吐息混じりにひっそり囁いた。
「三度目の邂逅で、僕を見つけて保護してくれた時も…静雄さん、やっぱり同じようなこと言ってましたよね?“虫の知らせがした”とか、“なんとなく、そっちに居る気がした”とか」
 ふふっ、と小さな笑みを悲しそうに漏らして、「あの時はまだ、当てずっぽうの“勘まかせ”だったのに…」と、潤んだ瞳を痛ましげに細めて、子供は腕を伸ばして男の頬をゆっくり撫でた。
 優しく触れられた事に驚いて、目を見開いた男の視線とまっすぐ向き合いながら、子供は何度も何度も慰撫するように、男の頬を指でたどってなぞり続ける。
「ねぇ、静雄さん…。貴方は今のままでも比類なく強いし、僕はもう充分貴方に守ってもらってる」
 だから…と、胸を締め付ける切ない声音で、「そんなに頑張らなくてもいい」のだと、子供は静かに男を諌めた。
 自分のために…自分のせいで、誰よりも『平凡』に憧れていた男は、自ら進んでまた一歩『人外』の領域へと足を踏み入れ、ただびとの枠から逸脱してしまった。
 ひたむき過ぎる悲壮な男の生き様を、一途な想いを向けられた子供は、憐れに思う一方で…それでも、それ以上に愛おしいと感じずにはいられなかった。
「オレは…こんな、だから、敵も多くて…。オレの傍に居たら、おまえを…きっと、危険な目に遭わせちまうっ!おまえの身に、何かあったら…って思ったら、すげぇ怖くて…。ヤバそうな状況になってたら、助けに行きたい!って」
 そう、強く願ったら…自然と、情況が“感じ取れる”ようになってたのだと、男は言った。
 気味が悪いだろう?そう自嘲する男に、どうして嫌悪を抱いて拒絶の態度など向けられよう。
 常人には到底持ち得ぬ、遥か高みの卓越した《超感覚》を開眼した男の【魂】の根底には…どこまでも温かな、慕情の火影が踊ってた――。

「万が一、絶体絶命のピンチに陥ったら、静雄さんが颯爽と現れるなんて…ちょっと素敵ですね」
 面映ゆそうに頬を染めて、特撮モノのヒーローみたいだと、屈託なく子供は微笑った。
 《悪役(ヒール)》と謗られ蔑視される事には慣れていても、未だかつて憧れの眼差しを向けられた経験の無かった男は、滑稽なまでに激しく取り乱して顔からボッと火を出した。
 目のやり場に困る甘ったるい雰囲気に浸る二人に、くすぐったい気分を共有したトムが、そっとその場を離れようとした瞬間――なぜか子供が、お茶目な視線を、こちらへにっこり投げて寄越した。
「暴走されると困るので、危険度80%未満で静雄さんが救出に向かおうとしてたら…体を張って、食い止めて下さいね?トムさん」
 上司責任ですよ〜と、愉しそうな音調で笑声を弾ませる子供に、知らず釣られて苦笑う。
「僕だって男の端くれです。よっぽどの不測の事態じゃない限り、自力で危機をしのいでみせます!」
 頼もしさの欠片もないひょろっこい痩身の子供は、そう言い切って「任せて下さい」と胸を叩いた。
 逃げ足には絶対の自信を誇るトムだったが…生憎と、焦燥に駆られた“野獣”を押し止められる裏ワザ的な手腕など、これっぽっちも持ち合わせてはいなかった。
 それでも、「一方的に守られるだけの、足手纏いな存在にはなりたくない」と願う、子供の意気込みはひしひしと伝わってきたので…その健気な気持ちには、応えてやりたいとトムは思った。
「…無茶すんな、とは言わねぇ。“勇気”と“向こう見ず”は違うって事だけ、分かってりゃイイ」
 クシャリと子供の頭を撫でて、「やれるトコまで頑張ってみろ」とやんわり後押ししてやってから、トムは決まり悪げに困った表情を浮かべている相棒を、軽くいなして窘めた。
「この子にだって、男のプライドってモンがあるべ?危険度70%越えるようなら、ヤベぇと判断して行かせてやっから。少しは信じて見守ってやれ」
 この子供を大切に思ってるのは、トムとて同じだ。基本、放任主義をスタンスとする己が、唯一、不必要なまでに構ってしまう“別格”の存在なのだ。…心配じゃない筈あるものか。
 けれど、過保護に甘やかすだけでは為にならない。いざという時、自力で難を逃れられる様、とっさの機転を養っておく“経験”は、場数を踏んで、たくさん積んでおくに越したことは無いのだ。
 とはいえ…やはり不安は拭えないので、念の為に、窮地に追い込まれた際の“脱出手段”くらいは、一応、指南しておいた良いだろうか?
「いいか?身の危険を感じたら、迷わず急所を蹴り上げろ!情けは掛けんな?玉ぁ潰す気で、全力でやれ!どんな不逞の輩だって、大抵はうずくまって悶絶すっから、その隙ついて走って逃げろ!」
 トムとしては、限りなく本気で大真面目にそう助言したのだが…残念ながら、アドバイスされた側の子供には、場を和ますための軽妙な冗談口としてしか、受け取っては貰えなかった。
「どんな危機的状況ですか?それ…。節操なしの“痴漢さん”撃退するんじゃないんですよぉ〜」
 想定からして間違ってます!と、子供は一笑に付して右から左に聞き流したが…有り得ない絵空事と、否定できないから気を揉んでるのだ。
 いい加減、洒落にならない《危険ホイホイ体質》だとの自覚を、せめてもぉ〜少し!持って貰わないと…とてもじゃないが、危なっかし過ぎておちおち目も離せやしない。
 ただの取り越し苦労で済めば良いが、この子供に限っては、ほんっとに!色々“ヤバい”のだ。
(まぁ、相手の“毒気”を抜くことに関しちゃ、神業的な天然っぷりを披露してくれるこの子のこった。あちこちに“庇護欲”フェロモンでたらし込んだ、自称『保護者』がわんさか配備してる、この池袋(ブクロ)に居る限りゃ〜そうそう困った事態は起こるめぇ。…多分。)
 一抹の不安は残るが、大人の余裕ぶっこいて「信じて見守ってやれ」と窘めた手前、その舌の根の乾かぬうちに、まさか「…やっぱ心配だから、危険度60%で許可だしても…」とは、言い出しにくい。
 ジレンマに頭を悩ませるトムに、静雄の生ぬるい視線がもの言いたげに注がれる。
 小さな恋人を守りたい一念で、《超感覚》を開眼した男も男だが――その相棒たる男もまた、大概どうしようもない心配性だった。

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作品名:【静帝】 SNF 第三章 作家名:KON