Wizard//Magica Wish −2−
「てあぁぁっ!!くっ…ぬあぁぁぁ!!!!」
結界内、杏子は無数に湧き上がる使い魔達を相手にしていた。
マミ程ではないが、杏子は魔法少女のキャリア歴は長い部類である…のだが、現時点では苦戦を強いられていたのだ。
鼠のような姿をした使い魔達は、杏子を餌と認識し、自分が切り裂かれるという事実を知ることなく闇雲に突っ込んでいく。
杏子は四方八方から攻めてくる鼠のような使い魔を次々となぎ倒していくが、一行に減る気配はなく、むしろ増殖していた。身体中に噛まれた痕が生々しく残っている。
「くそっ!ちょっとぐらい休憩させろよ!!はぁっ!!くっ…」
そんな中、遠くから鼠型の使い魔目掛けて炎の銃弾が降り注がれた。
杏子は何事かと振り向くと、そこには仮面の魔法使い…ウィザードの姿があった。
「大変そうだね、手伝おうか?」
「うっせぇ!!誰がお前の力なんて借りるもんか!」
「まぁまぁ、見ているこっちが辛いしさ、助けてあげるよ」
ウィザードは銀色の銃「ウィザーソードガン」を剣に変形させ、その軽やかな動きと共に使い魔をバッタバッタとなぎ倒していく。
杏子も負けじと使い慣れた己の槍を華麗に振り回す。地面には使い魔の亡骸でいっぱいであった。
「はぁっはぁっ…こいつらなぎ払ったら、また私を襲うつもりしてんのか?」
「うん、君のソウルジェムが欲しいんだ」
「だぁ~れがあげるか!ば~か!!」
いつの間にか、お互い背中合わせになっており、それに伴い生き残っていた使い魔達が一気に二人に飛びかかった。
「キャモナスラッシュシェイクハンズ!『フレイム』スラッシュストライク!!」
「次で決めるよ、杏子ちゃん」
「言われなくても!!…ん?」
あれ、なんでこいつ私の名前しってるんだ?
「てやぁぁぁ!!」
「はぁ!!」
お互い、斬撃による衝撃波を使い魔目掛けて降り注いだ。
使い魔は一瞬の内に浄化され、その場は先ほど戦闘が行われていたとは考えられないぐらい静かになったのだ。
「ふぃ~、一見落着っと」
「まて」
「ん?…あ」
ウィザードが気を抜いた瞬間、杏子はその隙を逃すまいと彼の首元に槍を突きつけた。
指輪を使ってこの事態をなんとかしようとしたが、間違いなく彼女はそんな猶予は与えてくれないだろう。
「どうせ襲われるんだったら、今度はあたしがあんたを倒してやるよ」
「あはは…ちょっとまずいかな」
「悪く思うなよ、…あばよ!!」
杏子は一切の躊躇なく、ウィザードの首を討ち取ろうとした、が、丁度その時
「っ!!待って、杏子ちゃん!!」
タイミングよく、まどか と さやか が現れたのだ。
まどか は二人の間に割り込む形でなんとか静止させた。
「あっぶね、助かったぁ…」
「な、なにすんだよ まどか!!こいつは私達の敵だぞ!!」
「杏子ちゃん!ちょっと待って!!」
まどか はウィザードに振り向き、右手に持っていた弓を下ろし、彼の仮面を見つめた。
まどか が戦闘態勢を解いたことに二人は驚き、念のため、ウィザードに対して構えはじめる。当の本人は何事か、と頭を傾けていた。
「どした?まどかちゃん」
「あなた…ハルトくんでしょ?」
「…え、あれ…うそ」
「もう一度聞きます…あなた、ハルトくんでしょ?」
「…は、はぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」
まどか は真剣な眼差しでウィザードを見つめる。
ちなみに、杏子は先ほどとは打って変わって随分と崩れた表情でその衝撃な事実に驚いていたのだ。
「お、おい!お前、どういう事だ!!本当に、本っ当にハルトなのか!!?」
「ん?杏子、こいつのこと知ってるの?」
「あぁ!!知ってるも何も、ついさっきまで一緒に遊んでたんだぞ!!?」
杏子は居ても立ってもいられなくなり、ウィザードの胸ぐらを掴み始めた。
「ふざけんじゃねぇぞ!!本当にお前はハルトなのか!!?名乗りやがれ!!じゃないと殺す!!」
「ちょっとちょっと、わかったよ…まどかちゃんの言うとおり、俺は操真ハルト、同一人物だよ」
「くっ!!くそっ!!!!」
ウィザードの顔面に杏子は強烈な一撃を与え、その衝撃で尻餅を着いてしまった。
本人は殴られた頬をさすりながら痛がりながらその場に立つ。
「ねぇハルトくん、なんでこんな事してるの?なんで私達のソウルジェムが欲しいの?理由を教えてほしいんだ」
「ごめん、まどかちゃん。それは話すことはできない」
「あんた…今の状況わかってるんでしょうね?もちろん、逃げられないわよ」
「わかってるから、その剣をおろしてよ…えっと、さやかちゃんだっけ?別に逃げようなんてしてないから」
「くっ…よくこの状況でそんな態度でいられるわね!!?」
「どっちにしろ、この後まともな展開になりそうじゃないからさ、今から慌ててもしかたないじゃない」
「ふっざけんじゃないわよ!!この人殺し!!!!あんた一体今まで何人の魔法少女を…っ!!!!」
「さやかちゃん!…ねぇお願い!何か理由があるんでしょ!?…じゃないと、…言ってくれないとわかんないよ」
「理由…そんなのないよ。最初に会ったときからいってるじゃない。俺はソウルジェムが欲しいだけだって。まどかちゃん達は黙って俺にソウルジェムを差し出せば良いんだよ…それで、皆…救われるんだから…」
「ハルト…てめぇぇぇぇ!!!!」
杏子はついに怒りが頂点に達し、再びウィザード目掛けて槍を振り下ろし始めた!!まどか は必死に静止させようとしたが、周りが見えなくなった杏子にいとも簡単に薙ぎ払われてしまった!そして、ウィザードの頭上、あと数センチという距離まで槍が振り下ろされそうになった…そのほんの一瞬だった。
「っ!!ぐああああっ!!!!」
「な、なんだ!?」
「え…?」
銃弾がどこからかウィザードへと放たれ、まともに銃弾を受けてしまったウィザードは何メートルか吹き飛ばされてしまった。
もちろん、今の攻撃は さやか と杏子のものではない。かといって、マミのマスケット銃による攻撃ではない…そこまで威力がなかったからだ。
「ついに見つけたわ…ウィザード」
暗闇から、コツ…コツ…とこちらに向かって歩いてくる人影があった。
まどか はそのシルエットに見覚えがあった…そう、彼女だった。
「ほむら…ちゃん?」
「転校生…あんたが?」
ほむら は まどか と さやか の間をそのままとおり抜け、ウィザードの元へ向かう。その右手には、ハンドガンを構えていた。
「お、おかしいなぁ…君にはまだ恨み買うようなことしてないんだけど…」
「………見つけた…全ての元凶」
「っ!!うっ…あぁぁ!!」
ほむら は躊躇なくウィザード目掛けてハンドガンを放つ。
ウィザードはフラフラになりながらなんとかその場に立とうとするが、ほむら がそれを許さない。
止まらな銃静音が嫌に痛々しく、先ほどまで頭に血が昇っていた杏子ですら引いてしまう程だ。
「おいお前!!いくらなんでもやりすぎだ!!確かにそいつがやっている事が許せなくても、ハルトは人間だ!!いい加減に…」
作品名:Wizard//Magica Wish −2− 作家名:a-o-w