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【静帝】 SNF 第五章

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「あの子の憂いを晴らすにゃ、内輪の声じゃ届かねぇ。ありのままの“他人の評価”ってヤツを、はっきり教えてやる荒療治が必要だった。…忌憚のない暴言も含めて、包み隠さず全てを正直に…な」
 差別や偏見の目を向ける者も中には居たが、大衆の殆どは二人を好意的に受け止めてくれた。
 匿名性が高い分、毒を含んだ言葉の暴力を振るい易いネットへの書き込みも、二人の人格を傷つける様な薄汚い野次を飛ばした者の方が、逆に品性を問われて吊し上げの対象になっていた。
 誰に憚る恋愛をしている訳でもなし、何も恥じる必要は無いのだと、縁もゆかりも無い見知らぬ他人から温かく《好一対》だと認めて貰えて、やっと気持ちが楽になったのだろう…。
 人目のある真っ昼間の公園で、ああして静雄と寄り添っていても、今はもう笑顔の下に隠し切れずに透けていた、心苦しげな憂いを覗かせる事が無くなった。
 偏見を覆し、自らの人徳で世間を味方に付けた愛し子が、嬉しそうに笑ってる…上々の首尾だ。
「カミングアウトさせちまったこたぁ〜一応すまなかったと詫びとくが…今あそこで浮かべてる、あの子の晴れやかな笑顔に免じて、乱暴なやり方選んだ事についちゃあ、結果オーライで勘弁しといてくれや」
 総合的見地から、すべてを計算尽くで帝人のために最善の措置を講じてくれたのだと、納得させるに余りある理由を並べ立てて、トムは二人を《周知の仲》にさせた所業について、悪びれない態度でさばさばと正臣に謝った。

(は、はは…。一遍にどんだけの“効果”狙って、『噂』流してんだっ?田中トム…っ!!)

 呆れを通り越して、いっそ感服すら覚える男の《知略家》振りに、なんだか心配するだけ馬鹿げな境地に至った正臣は、男に倣うように「…こっちこそ、いろいろ難癖つけちまって悪かった。」と詫びを入れ返し、両手を上げて降参のポーズをして見せた。
 喧嘩で伸されて平和島静雄を逆恨んでる連中も、欲心を惑わされて見境をなくした変態共も、この男が監視の目を光らせている限り、決して帝人に近付く事すら出来はしないだろう。
(…っつぅ〜か、間違いなく平和島静雄と張るレベルで、この男の頭の中も、帝人を中心に回ってるよなっ!?〜〜絶対にっっ!!)
 正臣は、どんよりと澱んだ目をトムに向け、「表と裏の《池袋最強》コンビが、両側からがっちり挟んでガードしてりゃあ、帝人の安全は保障されたも同然だ…って、じゅう〜ぶん確認させて貰ったゎ」と、脱力気味にげんなり呟き、乾いた笑いを虚ろに零した。

 何の魂胆で頻繁に出向いて来るのか、やたらと馴れ馴れしい態度で帝人に接触を図ってくる“あの男”が、この先どんな罠を仕掛けて『機』が熟するのを待ち受けていようとも――攻防一体の《無敵コンビ》が、強固な結束で帝人をぴっちり抱え込んでいる以上、万に一つも死角を突かれて後れを取ることは無いだろう。
(なに企んでよ〜とあんたの勝手だが…帝人だけは、絶対!あんたの思い通りにはさせねぇ!!)
 薄笑いを浮かべた“あの男”のいけ好かない得意顔を思い出し、正臣がピリピリと神経を高ぶらせたのが伝わったのか、言い忘れてた事を付け足すような気軽さで、おもむろにトムが口を開いた。

「そうそう。うぜぇ位にあの子の周りをうろちょろしてた、目障りな情報屋の“坊や”だけどなぁ〜っ」

 忠告がてら、一応“ご挨拶”だけはしといたから。「…まぁ、暫くは大人しくしてんじゃねぇか?」なんて不穏当なお言葉を、事も無げにさらりと仰るのはやめて頂けませんか、田中司令…。
 しかも、「静雄を挑発してガチンコ対決してるだけなら、たかが子供の喧嘩にいちいち割って入るのも面倒だから、勝手にやらせとけば良いかと、今までは好きにさせといたが…」って、あんた!
 辺り一帯を危険区域と化する『戦争』とまで言われてるよ〜な、あの!傍迷惑なタイマン勝負を、ただの“子供の喧嘩”扱いで、これまで軽く流してたって…。(肝が太いにも、程があんだろ〜っ!)
「奴(やっこ)さんが、静雄への嫌がらせ目的も兼ねて、要らぬ波風を立てる気満々で、興味を惹かれたうちの“子猫ちゃん”にちょっかい出してるのは、見え見えだったからなぁ〜」
(…子猫ちゃん…。オヤジだ、オヤジがここに居る…。)
 「何かやらかされてからじゃ遅せぇから、取り敢えず、困った悪さをしねぇように、軽く釘だけゃ〜刺しとこうかと…」って。一体どんな“教育的指導”を施したら、あの性悪男が「暫くは大人しくしてる」だなんて、神妙な心掛けを持つようになるのか、是非とも教えて貰えますかぃ?トムの兄貴…。
「まぁ、下らない悪巧みにあの子を利用しようとさえしなければ、当面は邪魔にならない程度には泳がせといてやるさ。…だが、チラとでも良からぬ事を考えようものなら、その時は…」
 その時は――羽目を外し過ぎた報いとして、素敵な《反省会》に強制参加させられるビジョンしか思い浮かばないのは、自分の気のせいでありましょうか、軍曹どの…。
「も、もし、“あの男”が不審な素振りを見せたら、そん時は…?」
 よせば良いのに、怖いもの見たさで軽はずみな問い掛けをおこなった事を、正臣はすぐに後悔する。
 どうなるのかと、恐る恐る声を潜めて尋ねた正臣に、「どうって…そりゃあ、おめぇ…」と口を濁し、一旦そこで言葉を飲み込んだトムは、思わせ振りな仕草で殊更ゆっくりと眼鏡を押し上げてから、他聞をはばかる話を打ち明けるように低く押さえた声で囁いた。

「“おいた”にゃ“仕置き”と、相場は決まってんべ」

 ニタリと凶悪なまでに凄絶な笑みを浮かべて、爽やかに言い切った男の背後に、正臣は、「悪い子は居ねぇが〜」と、鉈(なた)を片手に東北の夜を闊歩する、《なまはげ》の幻像を確かに見た。
(いっ…いぃやぁああ〜〜っっ!おっかないの、何か出たぁあ〜〜っっ!!)
 目尻に涙を滲ませた正臣が、声にならない悲鳴を上げたのと、休憩時間の終了を知らせるアラームが、トムの嵌めた腕時計から鳴ったのは、奇しくも同じタイミングだった――。
   * * *
作品名:【静帝】 SNF 第五章 作家名:KON