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【静帝】 SNF 第五章

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 わざとらしく身震いして大仰に怖がってみせる正臣に、悪びれない様子でさらりとトムは、「まぁ、そこそこ警戒されては、居るみてぇだな」と、曖昧な表現でおざなりに肯定しつつも、あくまで「舐められない程度に、睨みを利かせてるだけ」だと言い繕った。
 表向きの牽制を相棒に任せ、裏であれこれ根回しする役割は男が分担する。
 互いの『取り柄』を生かした連携で、表と裏の両サイドに脅威を与えている実態が、そこはかとなく見え隠れして…演技などではなく、今度は本気で怖気(おぞけ)立ち、正臣は慄然と震え上がった。
 悪目立ちする平和島静雄ばかりが話題に上るその陰で、この油断も隙も無い“食わせ者”の策士が、どれだけの計略を人知れず巡らせて来たのかなんて…とてもじゃないが、恐ろし過ぎて想像すらしたくない。

(底知れない『闇』を内に秘めたこの男が、帝人の味方で、本っ当ぉ〜に良かった!)

 けれど…と正臣は疑問に思う。だからこそ、過保護のレベルで帝人を大切にしているトムが、敢えて“切れ者”らしからぬ手段を講じた、その心理が一向に読めなかった。
 幾ら《平和島静雄》の名を“抑止力”に使う事が、危険回避の一番手っ取り早くて有効な措置だったとしても――侠気に厚いと見受けられる男の性格上、カミングアウトさせるに等しい『噂』を言い広める事に、男が帝人に対して何の負い目も感じてなかったとは、どうしても考えられないのだ。
 「なんでだ?」と明け透けに問うた正臣に、後ろめたさの滲んだ口元を皮肉げに歪めてトムは、「理由は二つ。一つは俺のエゴで、もう一つは“予防線”を張っておきたかったからだ」と返答した。

 人並みの『幸せ』とは一生無縁だろうと、全てを諦め期待を捨てていた男が、初めて自分から積極的に手を伸ばして求めた、唯一の『希望』…それが、あの心優しい弓張り月のような子供だった。
 何ものにも代えがたい、静雄にとって唯一無二の“生き甲斐”たる存在を、トムは、こそこそ人目を忍んで逢わなければいけない、日陰者の扱いにはしたくなかった。
 エゴと承知で、二人の関係を吹聴する『計画』を打ち出したトムに、恋人思いのベタ惚れ男は、当然ながら難色を示して、不服を申し立てたという。
 「自分は蔑まれるのに慣れてるから平気だが、偏見に満ちた好奇の視線に、帝人が晒されるのは不憫だ。傷付いて欲しくないから止めてくれ」――と。
 他に打つ手が無いわけじゃないのだから、別の方法で…と訴える男の手を胸元に引き寄せ、自らの鼓動を伝えるように心臓の真上にぴたりと押し当てた帝人は、「僕が今、すごくドキドキしてるの、分かりますか?」と柔らかな声音で、戸惑って硬直した男に語り掛けたそうだ。
 「貴方の事を考えると、こんなにも胸が高鳴る…この気持ちに、僕は正直で居たいです。この想いを偽って嘘をつく位なら、他人に後ろ指をさされる方がずっと良い。だから…僕なら大丈夫です」
 誰に何を言われたって“へっちゃら”だと明言し、ぎこちない笑みを懸命に作って恋人を見上げた子供は、「ここは一つ『有名税』と思って、朗らかな話題を街の皆さんに提供しましょう」と、ことさら陽気に茶化してから、ゆっくりと傍らのトムへと顔を向け、毅然とした態度で頷き了承の旨を伝えた。
 子供が、どこまでトムの真意を汲み取っていたのかは分からない。けれど、「朗らかな話題」と口にした微妙な言い回しが、手の内を全て見透かされてる印象をトムに覚えさせた――。

「え〜っと…帝人が、あんたの考え“読んでる”って思った、根拠って何?よく分かんねぇンだけど」
 話の腰を折った事を詫びた上で、首を捻って「あ〜もしかして、それが、あんたの言ってた“予防線”ってのに関係してんの?」と当て推量を述べた正臣に、勿体振った態度で大仰に頷いて肯定を示し、トムは具体的な例を挙げて、噛んで含めるような説明をした。
「つまりな?同じ興味本位で噂されるゴシップでも、《衝撃!平和島静雄はショタコンの変態野郎だった!》ってな感じに流される醜聞と、《朗報!池袋の自動喧嘩人形に春が来た!》ってな感じで伝えられる艶聞とでは、噂を耳にした世間の人たちが受ける、心証が違うだべ?って話だ」
 たとえ二人の交際を秘密にしておくつもりでも、人の口には戸が立てられない。
 悪目立ちする『有名』な静雄が、好奇と偏見の視線に常時さらされ続けている限り、どうしたってあの子の存在は否が応でも注目される。…到底、付き合ってる事を隠し果せるものではないのだ。
 いずれバレる関係なら、あの子を貶めるような薄汚い《スキンダル》として発覚するより先に、好感が持てる浮かれたゴシップとして世間を賑わせておいた方が、迫害から二人を守れるとトムは判じた。
「あの子が“お相手”なら、多分そんなに酷い中傷が、二人に浴びせられるこたぁ〜無いだろうとは、見越しちゃいたが…正直、口さがない連中をどこまで抑えられるか、俺にもいまいち自信が無くてなぁ〜」
 謗(そし)りを受けるのが相棒だけなら、きっと躊躇うことなく自分は計画を実施しただろう。愛し子が色眼鏡で見られる事態は免れないと察してたからこそ、中々危険を冒す踏ん切りがつかなかった。
 そんな、賭けに打って出るか否かで迷いを残していたトムを後押しするように、帝人は“決め手”となる囁きを、そっと言い添えたという。「どうか、卑怯な嫌がらせを“あの人”が仕掛けてくる前に、悪意に満ちた醜聞から、静雄さんの誇りを守って下さい」――と。
 『誹謗や中傷なんて、堂々としてれば案外あっさり引っ込んじゃうモノです!だから、トムさんは迷わなくて良い。いつものように最善の道を選んだと自分を信じて、心置きなく計画を敢行して下さい』
 すべてを見透かす無垢の瞳が、絶対の信頼を湛えて、トムに大丈夫だと語り掛けてる気がした。

「強い子だよな〜。本当はずっと、自分が静雄の“汚点”になってしまうんじゃないか…って。傍目には《不釣り合いなカップル》に映るんじゃないか…って気にして、恐れてたってぇのに」
 年齢差と性別ばかりは、悩んだってどうしようもないと頭じゃ解っていても、心のどこかでずっと、あの子はその事に引け目を感じて、静雄の将来を憂えてた。
 静雄の幸せを望まない“あの男”が、自分を利用して静雄に恥をかかせ、その名を穢してしまったらどうしよう…そんな不安を溜め込んでたからこそ、トムが“あの男”に付け入る隙を与えぬよう、先手を打って『噂』を広めようと一計を案じた裏の狙いを、違うことなく汲み取れたのだろう。
 静雄に相応しくない自分なんかが傍に居て、本当に良いのか…なんて、ズレた劣等感を抱いて世間に気兼ねしていたあの子に、誰もが羨む《似合いのカップル》に見えるから、「安心して良いんだ」と、自信を持たせてやりたかった。
作品名:【静帝】 SNF 第五章 作家名:KON