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あなたのことがきにかかる

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ベッドに入ったとたんにそれまでの疲れを思い出したかのようにうとうとし始める弟の前髪を梳いてやりながら、ギルベルトは小さな声で囁くように言った。
「我慢しないで、さっさと寝ちまえよ。眠いんだろ」
「ん…」
「ほら、明日も仕事だ」
「うん…」
二人きりのとき、加えて眠いときの弟はまるで子供のような仕草を見せるときもある。
そういうルートヴィヒを見るのが、ギルベルトがとても好きだった。
そういう弟の姿を見ることができるのが、嬉しかった。

やがてルートヴィヒが完全に眼を閉じて、その寝息が深くなったのを確認してから、ギルベルトも眼を閉じた。

翌朝、ギルベルトが目を覚ますともうそこにルートヴィヒはいなかった。
朝から緊急の呼び出しでもかかったのだろうか。
自分にできることならなるべく手伝ってやりたいが、生憎最近のルートヴィヒを振り回しているのはギルベルトではできない、「ドイツ」たるルートヴィヒにしかできない仕事らしい。
大きなため息を一つついてから、ギルベルトはベッドから降りた。


早朝の公園で飼い犬たちと共に散歩していたギルベルトは、羽織っていたパーカーのポケットの中で携帯が鳴ったのに気付いた。
ルートヴィヒからのメールの時にだけ鳴るように設定してあるメロディに、ギルベルトは立ち止まって犬たちに話しかけながらポケットから携帯を取り出す。
「ルツのやつ、忘れ物でもしたんじゃねー?」
笑いながら言うギルベルトを、犬たちは不思議そうに見つめている。


『にいさん。
昨日は心配をかけてすまなかった。
この仕事を終えたら、長期の休暇がもらえそうだ。
二人でどこかに行きたい』

どこかに。
どこへ、ではなく。
それはつまり。

ギルベルトの笑いが更に深くなって行き、主人の喜びを敏感に察した犬たちが尻尾を振りながらそわそわと歩き回る。

「つまりあいつ、お仕事頑張った自分をお兄様にゆっくりもてなしてほしいって言ってんだなー!」

ギルベルトは小走りで駆け出した。
更に激しく尻尾を振りながら、犬たちもついてくる。帰ったらすぐ、良さげな保養地やホテルでも探そう。
久しぶりの長期休暇だ、国外にまで足を伸ばすのもいいかもしれない。
「まったく、うちの弟は贅沢もんだな!」

どんな至れり尽くせりでも、喜んでしてやろうっていう優しいお兄様がいるんだからよ!

笑いながら、自宅を目指す三匹と一人。
目ぼしい旅行先を見つけたら、その後は今日の夕食のメニューでも考えよう。