進め! ハクタイ探偵団
どこの町にも怪しい場所ってあるよね。
え?ホウエンのからくり屋敷が一番怪しいって?
違う違う。そういうことじゃなくて怪談の舞台になりそうなところのこと。
あたしたちの町ハクタイシティのはずれにあるうっそうとした森。
ここに建つ奇妙な屋敷――今回のお話の舞台。
結構その筋の中では有名なところなんだ。
視線を感じるなんて序の口――中には幽霊を見たなんていういともいるんだから。
あたしたちはここのことを『森の洋館』と呼んでいる。
「ねえお姉ちゃんほんとに行くの?」
ムツキがおびえながらいう。
「当たり前でしょ。ここで行かなかったらハクタイ探偵団の名折れよ。」
もう何度目かのやり取りになってあたし、サツキは振り返らずに言った。
「怖かったら帰れば。その代わりもう探偵団に入れてあげないけどね。」
「それは職権乱用じゃないか?団長殿?」
眼鏡をずり上げながら幼なじみのジュンはいった。
わがハクタイ探偵団は
団長あたし
副団長ジュン
平団員ムツキ
の計3人で活動中。 今回も3人でうわさの森の洋館に訪れるつもりだった。
突然生ぬるい風が吹いてきた。前の方には古びた洋館が建ってる。
「ここが森の洋館。」
「ムツキほんとに入るのかい?」
「なによジュン。あんたまで怖気づいたの?」
「いや別に。あとポケモンたちをあんま騒いで脅かさないようにしろよ。
オレたちまだポケモン持ってないんだから。」
「分かってますよ。」
あたしたちは最後の細い木の間を潜り抜け洋館へと入っていった。
「うわ黴クサ。」
「後埃も混じってるよ。」
屋敷のろくに換気もできていない空気に文句をつける二人に対しあたしは
「いかにもなんかでそうって感じ。古びた館に血の惨劇が再び……。」
そんなことを言って「空気」を楽しんでいた。
「お姉ちゃん。」
また泣き言だろうと思って無視した。
「お姉ちゃん。」
わたしは少し違和感を感じた。
「お姉ちゃん。」
ムツキの声質と少し違う。
わたしはそっと隣のジュンに視線を向けた。
その後ろにはすそをしっかり握って放さないムツキがいた。
じゃああたしの後ろにいるのはだれ?
「お姉ちゃん、あそぼ。」
「キャー。」
「サツキ!」
怖い怖いなんなのよ今の?
あたしは夢中で駆けていった。
もうわたしの頭の中にはさっきのジュンの警告なんてなかった。
あたしはドアの一つを乱暴に開けた。
暗闇の中たくさんの目がこっちをみた。
ゴースたちだ。夜行性の彼らがどうして?
ドウシテコンナニオキテルノ?
アハハソッカオコシチャッタンダネ。
顔がひきつった笑みを浮かべる。
一刻も早くここから出ないとポケモン持ってないんだから……。
でもゆっくり下がるのが精一杯。 頭の中がパニックになってる。
どうしようドウシヨウ。
何とか廊下の壁側まではこれた、けど。
「!」
もう動けない。多分技、使われたんだ。『くろいまなざし』
もうだめ。1匹のゴースが別の技を繰り足そうとしている。
絶体絶命。あたしはぎゅっと目を閉じた。
「あれ?痛みがない。」
「っつ」
目の前にジュンが倒れている。
「ジュン!」
けれどあたしには答えないでゴースに向き合って言った。
「ごめんよ。ゴースたち。寝てるところすまなかったな。
もううるさくしないから静かに休んで大丈夫だ。」
ゴースたちは話し合いでもするように集まっていたが 部屋の中に戻っていった。
ふっと体が楽になった。
「ジュンあのさ、ありが」
「お前何考えてんの。」
「え?」
自分の服についた埃をはたきながらジュンはぼそっと言った。
「ムツキには散々言っといてこの様。挙句にポケモンたちにも迷惑掛けてさ。」
「ご、ごめ。」
「いいよ、謝らなくて。ただお前は団長失格だよ。
ほんとなら真っ先に団員守んなきゃいけないのにそんなこともしないで浮かれて。
ムツキもう大丈夫だ行くぞ。」
「え、でも。」
心配そうにあたしを見る。
「ほっとけばいいさ。……サツキ、お前が団長辞める気がないならそれでもいい。
ただオレは抜けさせてもらう。 自分で新しい探偵団でも作るさ。
お前は一人でハクタイ探偵団でもやるんだな。」
あたし一人残された。顔の辺りがやけに冷たい。手を当てるとぬれている。
涙が流れた跡が外気に当たる。怖いのか悔しいのか寂しいのか分からない。
「う、う、」
うずくまって泣いているとまたあの声が聞こえた。
「お姉ちゃんお姉ちゃん。」
「何よ」
「早く行って、追いかけて。」
「なんで?」
「悪いやつらがすぐそこまで来てるの。巻き込まれちゃうわ。」
「あたしには何も出来ないわ。団長失格だし。」
顔を上げるとそこには小さな女の子がいた。
「早く行って、友達を守りたくないの、弟のこと守らなくてもいいの?
大事なのはこれからなんだから。」
「うん。」
励まされてあたしは立ち上がり2人を追いかけた。
「ねえジュン兄ちゃん。お姉ちゃん放っておいて大丈夫なの?」
「大丈夫だろ。少しぐらいああしておけば反省するだろ。」
ムツキは涙と鼻水でぐちょぐちょになった顔で
「ボク心配だから、お姉ちゃん迎えに行くよ。」
と言った。方向転換をして向き直ると運悪くそこに人がいた。
「ご、ごめ……」
「ああー大事な団服が台無しじゃん。」
「どうするボク?この服すっごく高いんだよ。」
女の方が腰を屈め、ムツキに語りかける声は脅しを含んでいるようだった。
「子供相手にそこまで言わなくてもいいんじゃないですか。」
庇うようにジュンがムツキの前に出て妙な二人組に声をかけた。
「……君はワレワレが誰か知らないんだね?」
「はい。知りません。まぁそんな悪趣味な服の団体知りたいとも思いませんが。」
最後の方はひとり言のようだったがしっかりと聞こえていたようで、
「……正直なのは美徳だが長生きは出来ないね。よく覚えときなギンガ団って言うのさ。」
あたしはかなり走ってやっと二人の姿を見つけた。
けど様子がおかしい。大人の2人組も隣にいる。
そして男がモンスターボールに手を掛けた。
「ドクケイルいけ。サイケ光線」
「危ない!」
あたしはジュンとムツキの前に飛び出した。
そのとき
「ロズレイド、マジカルリーフ。」
マジカルリーフはドクケイルに命中。 そしてドクケイルは倒れた。
「ち、ずらかるぞ。」
「ジムリーダーが来るなんてついてないね。」
「ナ、ナタネさん。」
「怪我してない?3人とも?」
「はい。大丈夫です。」
ジュンが代表して答えた。
「それにしてもポケモンも持っていない子供に本気でかかってくるなんて。」
「あのどうして来て下さったんですか?」
あたしがそう聞くと彼女はこう答えた。
「虫の知らせってやつかな。なんか行かなきゃって気になったのよね。不思議。
まるで誰かに導かれてるみたいだったわ。」
え?ホウエンのからくり屋敷が一番怪しいって?
違う違う。そういうことじゃなくて怪談の舞台になりそうなところのこと。
あたしたちの町ハクタイシティのはずれにあるうっそうとした森。
ここに建つ奇妙な屋敷――今回のお話の舞台。
結構その筋の中では有名なところなんだ。
視線を感じるなんて序の口――中には幽霊を見たなんていういともいるんだから。
あたしたちはここのことを『森の洋館』と呼んでいる。
「ねえお姉ちゃんほんとに行くの?」
ムツキがおびえながらいう。
「当たり前でしょ。ここで行かなかったらハクタイ探偵団の名折れよ。」
もう何度目かのやり取りになってあたし、サツキは振り返らずに言った。
「怖かったら帰れば。その代わりもう探偵団に入れてあげないけどね。」
「それは職権乱用じゃないか?団長殿?」
眼鏡をずり上げながら幼なじみのジュンはいった。
わがハクタイ探偵団は
団長あたし
副団長ジュン
平団員ムツキ
の計3人で活動中。 今回も3人でうわさの森の洋館に訪れるつもりだった。
突然生ぬるい風が吹いてきた。前の方には古びた洋館が建ってる。
「ここが森の洋館。」
「ムツキほんとに入るのかい?」
「なによジュン。あんたまで怖気づいたの?」
「いや別に。あとポケモンたちをあんま騒いで脅かさないようにしろよ。
オレたちまだポケモン持ってないんだから。」
「分かってますよ。」
あたしたちは最後の細い木の間を潜り抜け洋館へと入っていった。
「うわ黴クサ。」
「後埃も混じってるよ。」
屋敷のろくに換気もできていない空気に文句をつける二人に対しあたしは
「いかにもなんかでそうって感じ。古びた館に血の惨劇が再び……。」
そんなことを言って「空気」を楽しんでいた。
「お姉ちゃん。」
また泣き言だろうと思って無視した。
「お姉ちゃん。」
わたしは少し違和感を感じた。
「お姉ちゃん。」
ムツキの声質と少し違う。
わたしはそっと隣のジュンに視線を向けた。
その後ろにはすそをしっかり握って放さないムツキがいた。
じゃああたしの後ろにいるのはだれ?
「お姉ちゃん、あそぼ。」
「キャー。」
「サツキ!」
怖い怖いなんなのよ今の?
あたしは夢中で駆けていった。
もうわたしの頭の中にはさっきのジュンの警告なんてなかった。
あたしはドアの一つを乱暴に開けた。
暗闇の中たくさんの目がこっちをみた。
ゴースたちだ。夜行性の彼らがどうして?
ドウシテコンナニオキテルノ?
アハハソッカオコシチャッタンダネ。
顔がひきつった笑みを浮かべる。
一刻も早くここから出ないとポケモン持ってないんだから……。
でもゆっくり下がるのが精一杯。 頭の中がパニックになってる。
どうしようドウシヨウ。
何とか廊下の壁側まではこれた、けど。
「!」
もう動けない。多分技、使われたんだ。『くろいまなざし』
もうだめ。1匹のゴースが別の技を繰り足そうとしている。
絶体絶命。あたしはぎゅっと目を閉じた。
「あれ?痛みがない。」
「っつ」
目の前にジュンが倒れている。
「ジュン!」
けれどあたしには答えないでゴースに向き合って言った。
「ごめんよ。ゴースたち。寝てるところすまなかったな。
もううるさくしないから静かに休んで大丈夫だ。」
ゴースたちは話し合いでもするように集まっていたが 部屋の中に戻っていった。
ふっと体が楽になった。
「ジュンあのさ、ありが」
「お前何考えてんの。」
「え?」
自分の服についた埃をはたきながらジュンはぼそっと言った。
「ムツキには散々言っといてこの様。挙句にポケモンたちにも迷惑掛けてさ。」
「ご、ごめ。」
「いいよ、謝らなくて。ただお前は団長失格だよ。
ほんとなら真っ先に団員守んなきゃいけないのにそんなこともしないで浮かれて。
ムツキもう大丈夫だ行くぞ。」
「え、でも。」
心配そうにあたしを見る。
「ほっとけばいいさ。……サツキ、お前が団長辞める気がないならそれでもいい。
ただオレは抜けさせてもらう。 自分で新しい探偵団でも作るさ。
お前は一人でハクタイ探偵団でもやるんだな。」
あたし一人残された。顔の辺りがやけに冷たい。手を当てるとぬれている。
涙が流れた跡が外気に当たる。怖いのか悔しいのか寂しいのか分からない。
「う、う、」
うずくまって泣いているとまたあの声が聞こえた。
「お姉ちゃんお姉ちゃん。」
「何よ」
「早く行って、追いかけて。」
「なんで?」
「悪いやつらがすぐそこまで来てるの。巻き込まれちゃうわ。」
「あたしには何も出来ないわ。団長失格だし。」
顔を上げるとそこには小さな女の子がいた。
「早く行って、友達を守りたくないの、弟のこと守らなくてもいいの?
大事なのはこれからなんだから。」
「うん。」
励まされてあたしは立ち上がり2人を追いかけた。
「ねえジュン兄ちゃん。お姉ちゃん放っておいて大丈夫なの?」
「大丈夫だろ。少しぐらいああしておけば反省するだろ。」
ムツキは涙と鼻水でぐちょぐちょになった顔で
「ボク心配だから、お姉ちゃん迎えに行くよ。」
と言った。方向転換をして向き直ると運悪くそこに人がいた。
「ご、ごめ……」
「ああー大事な団服が台無しじゃん。」
「どうするボク?この服すっごく高いんだよ。」
女の方が腰を屈め、ムツキに語りかける声は脅しを含んでいるようだった。
「子供相手にそこまで言わなくてもいいんじゃないですか。」
庇うようにジュンがムツキの前に出て妙な二人組に声をかけた。
「……君はワレワレが誰か知らないんだね?」
「はい。知りません。まぁそんな悪趣味な服の団体知りたいとも思いませんが。」
最後の方はひとり言のようだったがしっかりと聞こえていたようで、
「……正直なのは美徳だが長生きは出来ないね。よく覚えときなギンガ団って言うのさ。」
あたしはかなり走ってやっと二人の姿を見つけた。
けど様子がおかしい。大人の2人組も隣にいる。
そして男がモンスターボールに手を掛けた。
「ドクケイルいけ。サイケ光線」
「危ない!」
あたしはジュンとムツキの前に飛び出した。
そのとき
「ロズレイド、マジカルリーフ。」
マジカルリーフはドクケイルに命中。 そしてドクケイルは倒れた。
「ち、ずらかるぞ。」
「ジムリーダーが来るなんてついてないね。」
「ナ、ナタネさん。」
「怪我してない?3人とも?」
「はい。大丈夫です。」
ジュンが代表して答えた。
「それにしてもポケモンも持っていない子供に本気でかかってくるなんて。」
「あのどうして来て下さったんですか?」
あたしがそう聞くと彼女はこう答えた。
「虫の知らせってやつかな。なんか行かなきゃって気になったのよね。不思議。
まるで誰かに導かれてるみたいだったわ。」
作品名:進め! ハクタイ探偵団 作家名:まなみ