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【静帝】 SNF 第六章 【完】

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『サタデー・ナイト・フィーバー』 第六章

   ◇ エピローグ ◇

 公園のベンチに小さな恋人と仲良く並んで腰掛けながら、平和島静雄は頭の中で、自らを鼓舞するように好条件を列挙してみた。
 今日は、あと一件『回収』を済ませれば、仕事をいつもより早く切り上げて終わらせる事ができる。
 明日は、いわゆる『恋人同士』の関係になってから、初めて、丸一日《休み》の取れた日曜日だ。
 帝人の方も、無事に期末試験を終わらせて、今はちょっと開放的な気分になっている。好機到来…仕掛けるとしたら、ここが正念場だ。
 面倒見のいい有能な上司たるトムが、業務日程をいろいろ調整して、わざわざこの週末合わせで時間が空くよう、都合を付けてくれただろう事は薄々察している。
 ――折角の“粋な計らい”を無駄にしてしまう程、静雄は愚鈍でも腑抜けでも無かった。

「なぁ、帝人。その…おまえさえ嫌じゃなかったら、今夜…う、うちに、泊まりに来ない、か…?」
 焦りは禁物だと再三にわたって思い知らさせられてはいたが、募る想いが見せる猥りがわしい夜毎の淫夢(ゆめ)に、いい加減、男は我慢の限界を感じていた。
 たどたどしい口調で、どうにかベタな“誘い文句”を伝えた男に、ぱちくりと瞳を瞬かせた子供が「お泊り…ですか?」と小首を傾げて復唱し、熱のこもった視線を向けてくる男の顔をじっと凝視め返しながら、考え込む素振りでもう一度小さく「…お泊り…」と呟いた。
(幾ら、世慣れてないコイツでも、一応は高1男子なんだし…。一人暮らしの男の部屋で『一夜を共にする』ってのが、ど〜いう意味合いかって事くれぇは、流石に、解ってる…よな?)
 無垢な瞳でまっすぐに男の心奥を覗き込んでくる子供からは、漠たる印象しか感じ取れない。
 ちゃんと『夜の誘い』だと理解してくれてるのか、子供の様子に一抹の不安を覚えた男は、「泊まりに来ても、朝まで寝かせてやれないかも知れねぇけど。…それでも来るか?」と駄目押しの、これまたベタな“口説き文句”をそらんじて、改めて子供の反応を窺った。
 あからさまな劣情を子供に曝け出すのは、大人として些か気が咎めないでも無かったが、惚れた相手と肌を触れ合わせたいと望むのは、至極当然の本能で…決して、色欲を満たす為だけに身体を求めている訳じゃない無い事だけは、誤解せずに信じて欲しいと、一途な眼差しで真剣に訴える。
(…ホントは、もうちっと育つまで、待ってやれりゃあイイんだろうが…。悪りぃな、堪え性がなくて。)
 視線を絡ませたまま、自嘲の滲んだ双眸を切なげに細めて「おまえと同衾したい」と重ねて乞う。
 使い古された表現で、情交を結びたい願意を伝えた男の気持ちが、今度こそ違(たが)うことなく通じてくれたのか、狼狽して大きく目を見開いた子供が、朱を刷いた顔を恥ずかしそうに俯けた。
 ――この反応は…脈あり、と受け止めても、良いのだろうか?
 ふくらむ期待と掠める不安に、男の鼓動が早鐘を打つようにドクドクと高鳴る。
 緊張し過ぎて眩暈すら覚える沈黙の中、息を凝らして子供の返答を待っていた男の耳に、微かな音量で奏でられた同意の言葉が、甘い響きを伴って遠慮がちに届けられた。
(聞き間違い…じゃあ、ねぇよな?今、確かに、色好い返事が、聞こえた…よなっ!?)
 興奮のあまり、男はつい舞い上がり掛けた。
 …が、いつもこのパターンで、思わせ振りな子供の言動に翻弄された挙句、ぬか喜びに終わっていた数々のほろ苦い経験を思い出し、「油断するのはまだ早い。何度肩透かしを食らったか思い出せ!」と懸命に自戒し、浮き立つ情動を抑え込んだ。

 『急いては事を仕損じる…って言うべ?あの子相手にゃ、石橋を叩いて渡るくれぇの、用心深さで調度いい。…連敗記録をストップしたけりゃ、くれぐれも“確認”だけは、怠るんじゃねぇぞ』

 打ちひしがれる度に肝に銘じた、師匠のありがたい『忠告』を、頭の中で反芻する。
 慎重を期して、最後にもう一度「本当に自分と枕を交わしてくれるのか?」と問うた男に、俯いたまま小さく頷いてから、子供は目だけを男におずおずと上向けて、「体力差があるから、できれば手加減はして欲しい」との慎ましやかな要望を、含羞みを帯びた声音でそっと申し添えた。
(〜〜っっ!!ばっ…ヤバ過ぎるから、上目遣いでの“お願い”は、やめろ…っ!!)
 危うく、暴走する所だった。
 動悸・息切れ・眩暈――およそ、体調不良とは無縁の自分に、そんな諸症状を引き起こせるのは、焦がれて止まない、この“愛し子”くらいのものだと男は思った。
 それにしても…深読みしたくなるような際どい発言といい、スケベ心をそそる甘えた仕草といい、どうしてこの子供の見せる反応は、いちいち心臓に悪いのか…。
 誘惑する気で態とやってるなら相当の小悪魔だが、天然タラシなこのお子様の場合、期待を持たせる言動すべてが、素(す)の振る舞いだというのだから…何とも罪作りな話だ。
(…ちったぁ自重しろ。あんま無自覚に男心を煽ってっと、欲情させた責任、取らせんぞ?)
 お決まりのセリフで「朝まで寝かせない」だなんて脅しはしたが、無理をさせるつもりは端から無かった。
 それなのに、大切にしたいと思っている当のお子様本人が、必死に暴走を抑えている側から、男の官能を刺激しまくってくれたのでは、ブレーキに乗せていた足が横に滑って、うっかりアクセルを全開で踏み抜いてしまったとしても、致し方ない『事故』だと静雄は思った。
(まぁ〜その…なんだ。足腰立たなくしちまったら、ちゃんと介抱すっから。…そん時ゃあ、許せよ?)

 ――嗚呼、今夜が待ち遠しくて堪らない…っ!!

 帝人の意向は、念には念を入れて幾度となく確認した。はっきりと言質も取った。
 まさか、ここまで細心の注意を払ったにも拘らず、今回もまた『実は早合点だった』なんて、笑えない結果に見舞われる事は――流石に無いだろう。(…幾らなんでも、無い…と思いたい。)
「仕事、終わったら、アパートまで迎えに行く。…うちまでの道順、一緒に歩いて覚えてくれ」
 帝人一人でも、来たくなったらいつでも自由に往訪できるよう、しっかり場所を覚えてもらおう。
 今度は、先に中に入って部屋で待てるよう、明日帝人を送った時に、合鍵も渡しておくつもりだ。
 それから…いずれは、一緒に暮らしたいと思っている事も、今夜うまく行ったら話してみようか…。
 返事は急がなくて良い。同居ではなく“同棲”なのだと、認識した上で「考えてみてくれ」と伝えよう。
 今宵しっかりと情交を結んで、心身ともに『深い仲』に進展した自分達の、これからの姿を脳裏に思い描き、希望に満ちた明るい未来にそわそわと気持ちを浮き立たせる。

 純粋培養で育てられた《箱入り帝人》の手強さを、又しても思い知らされる憂き目を見ようとは…この時はまだ、知る由も無い静雄だった。

   * * *

 舞い上がっていた男にとっては束の間だったが、それを斜向かいから眺めていた少年にとっては、限りなく長かった休憩時間が、ようやく終わりを告げた。