釣り人日記・余話
「前にも言わなかったか。私の知っている…勇敢な少年の名前だ。それは強かった、私も一度は負けた」
「ふーん」
「お前の事だぞ」
「……じゃ、それが俺の名前?」
「そうだな。私がずっと呼んでやる。だからお前も忘れまい。違うか、オーリ」
しばらく首を傾げてから、彼はこくりと頷き、またふわりと笑みを浮かべた。作り物には見えない柔らかな笑顔で、彼は呟く。
でも、その名前よりも、あんたの名前の方がずっと大事なんだよ、トロイ。
こうして生け簀から彷徨いだしたオーリと呼ばれた少年がその後どうなりどこへ向かったか、それはどの国の記録にも残っていない。