かみさまのこども
「俺がトロイに頼んだ事だった」
でも、人には限界がある。……寿命というものが。それでも彼は自分自身に限界が来るまで、どれだけの風景と思い出を与えてくれた事だろう。感情も、記憶も、無くしたはずの名前も、……もう永遠に無くす事はない。
だから最初に彼の生まれた場所に行こう。キリルという青年が、そこを知っているというのなら。
それから次に、あの生け簀に行ってみたい。滞在するのではなく、ただ、彼と「出会った」場所だから。
それから…それから?ああ、色々な場所に行ったのに、自分にはもうそこがどこなのか分からない。でも、寿命がないというキリルなら……彼が自分に呆れたりうんざりしたりしない限りは……連れて行ってくれるだろう。今は胸元に、そして心の深いところに永遠に存在し続ける男と一緒に。どこまでも。
キリルは空いた手で自分の頭をかき回し、遠い昔彼を連れ回した男が何を思ってこの様々な物を欠いた少年を愛したのか理由が分かる気がした。……まあ、自分には今のところそういった気分は欠片もないけれど。同情と、思い出に纏わる感傷と、……興味と。そんなところだ。
じゃあ、行こうかオーリ、そう声をかけると、彼は最後に一度だけあの苔むした山を振り返り、こくりと頷いた。そしておぼつかない足取りで、一歩踏み出す。
新しい変わった連れと共に、うっすらと笑みを浮かべ、新しい世界へ。
──ひたすらに幸せな永遠の記憶を、もはや忘れる事のない深い場所に抱いて。