Wizard//Magica Wish −3−
「はぁ…」
操真 ハルトは今日何度目になるかわからないため息を着いた。
今日は日曜日。多くの人が学校や仕事は休みの日である。
元々旅人であり、学校にも行っていないハルトにとっては彼の日常と何ら変化はないが、ここ最近、毎日、いや、毎時毎分気が抜けない生活を送っていたのだった。
今は河川敷、ハルトはコンビニで買った雑誌を顔に伏せ、堤防で昼寝をしていたのだが、ある殺気を感じ取り、姿勢は寝ている状態だが目は開けたままであった。
「あの橋の下…か、今度は…スナイパーライフル?どこで調達しているんだろう」
ハルトの頭元に魔力で作り出した鳥獣型の使い魔、「レッドガルーダ」が現在の状況を報告していたのだ。彼が危険を早期に察知できていたのはこの使い魔のお陰でもある。
ハルトは視線を橋の下へと移す。
微かに…だが、一部だけ周りと違う場所を発見する。
あれは良く、自衛隊が周りの草むらに紛れ、自分の体中に巻いて使うカモフラージュ用の雑草だ。
よく見るとスナイパーライフルの砲身がこちらに向いている。
「仕方ないな…」
「『コネクト』プリーズ!」
・・・
「誤差…ほぼ無し、風速…0メートル…目標との距離…約140メートル、今だこちらには気づいてないわね…いけるわ」
暁美 ほむら はハルトの予想通り、橋の下で草むらにカモフラージュしハルトをスナイパーライフルで狙っていた。ハルトは気づいているのだが、寝たふりをしているため、ほむら はチャンスと感じ取っていた。
「今度こそ…一発で仕留める…っ!!」
ほむら はひと呼吸し、ゆっくりと引き金を引き始める…が、その瞬間、ほむら の頭上に魔法陣が出現し、その魔法陣から ハルトの腕が現れた。
「え…きゃっ!」
魔法陣から現れたハルトの腕はそのまま ほむら のスナイパーライフルを掴み、魔法陣の中へ吸い込まれるように持ってかれた。
「気づかれたっ!!」
ほむら は立ち上がり、右手に拳銃を構え、そのまま勢い良くハルトの元へと走り出す!拳銃を乱射し、その銃声が聞こえたハルトも勢い良くその場に立った。
「お、おいおい!こんなとこで発泡したら一大事じゃない!?」
「あなたさえ消えてくれれば何の問題もないわ」
「『ドライバーオン』プリーズ!シャバドゥビタッチヘンシーン!」
「聞く耳無しか、仕方ない。変身!」
「『フレイム』プリーズ!『ヒーヒー!ヒーヒーヒー!!』」
ハルトはウィザードに変身し、軽やかなステップをしながら ほむら へと一気に距離を詰める。ウィザードは勢いを殺さずに回し蹴りを放つが ほむら はそれを交わし距離を取る。
「へぇ、可愛い顔して結構やるじゃない。まさに完璧超人だね」
「だまりなさい。けど、すぐにその口を開かないようにしてあげるわ」
「『コネクト』プリーズ!」
「それはどうか…な!」
ウィザードは先程 ほむら から奪ったスナイパーライフルを取り出し、ほむら 目掛けて何発か放つ。しかし、スナイパーライフルを放った瞬間に ほむら の姿は消えていた。
「は?…あれ、どこいった?」
ウィザードは辺りを見渡す、頭を軽く傾け、自分の後ろを向いた…。
「遅いわ」
「へ…うわっと」
瞬間、ウィザードの目に映ったのは自分の頭に拳銃を向けていた ほむら の姿だった。
危機をいち早く悟ったウィザードはその場でブリッジをし、一発目の銃弾をなんとか避ける。
「容赦ないね。でもこれなら!」
「『ビッグ』プリーズ!」
ブリッジをしたままウィザードは部分倍化の魔法を使用し、ほむら 目掛けて巨大な足蹴りを放った。…が、直撃したと思われたが全く当たった瞬間が無かった。
「何もしても無駄よ。あなたの攻撃は私に届かないわ」
「えっ…」
空を見上げる。
そこには、髪をなびかせている彼女の姿が映った。
その他にもなにか球体が自分の頭に落ちてきた。
見覚えのある…そう、よく映画で軍隊が使う…
「うそ…」
次の瞬間、ほむら の放った「手榴弾」が起爆し河川敷で大爆発が起こった。
流石に周りの住人が気付いたのか、次第に一般人の声やら奇声が聞こえ始めた。
ほむら は再び髪をなびかせ、ウィザードのいた場所を凝視する。
爆煙が絶えず彼の姿が全く見えない。
「『バインド』プリーズ!」
「あっ…ぐぅ!」
「やれやれ…確かに俺の攻撃は君に当てたことないけど、なぜかこの魔法は絶対直撃するよね、もしかして縛られるの好きなの?」
「な、何を言っているの、馬鹿…」
爆煙の中からウィザードの姿と共に彼の拘束魔法が ほむら に直撃する。
ウィザードはボロボロだったがそこまでダメージを受けていなかったのだ。と、いうのもウィザードの魔力属性は「火」である。ほむら から放たれた手榴弾の爆発を吸収し、最低限のダメージで済んだのだ。
「さて、騒ぎが大きくなりすぎたな。せっかくだし、ここで君のソウルジェムをいただいていくとするか」
ウィザードは ほむら へと近づき、彼女の左手に装着されていたソウルジェムを奪おうとする…
「っ!!だめ!!!!」
「えぇ!うわっ!!」
が、途端に ほむら は血相を変え、全身を使いウィザードに体当たりをした。ウィザードは尻餅を付き、ほむら はうつぶせに倒れてしまった。
「ソウルジェムは…ソウルジェムは絶対にあなたには渡さない!!これは最後の希望なの!!」
「痛てて…おいおい、君そんなキャラだったっけ?」
ウィザードは急に態度を一変させた ほむら に少々驚いていた。
先程までクールだった彼女が、今は自分のソウルジェムを守ろうと歯をむき出しにし目を尖らせウィザードに殺気をみせる。
そう、例えるなら大人しく気高い黒猫から自分を襲ってくる敵から身を守るため毛を逆立て激しく唸る野良猫のようだった。
「ソウルジェムが希望ね…けど、君も知っているんでしょ?ソウルジェムの正体」
「えぇ、嫌という程見てきたわ。私の…私の大事な存在が、何度も魔女化する姿を!!」
「けど、俺はそれを…」
「冗談じゃないわ!!…あなたはインキュベーターよりタチが悪い存在よ!!」
「えっ…ちょっとそれはショックだな…けど、今の話はちょっと不自然だな。まるで俺のことを今まで見てきたみたいじゃない」
「見てきたわよ…もう、数え切れないぐらい…あなたの愚かな『罪』を!」
「は?…ちょ、ちょっと待てよ!」
罪?
一体なんのことだろうか。
確かに自分は魔法少女達に恨まれることは散々してきた。良くは思われなくて当たり前だ。
しかし、ここまで血相を変えてまで恨まれることを自分はしたのだろうか?ついこの前あったこの子にだ。
それに、彼女の話には不自然な点がいくつもある。
先程からずっと自分を見てきたかのような発言だ。
本当に?
自分の過去を?
…あの、絶望しきった自分の過去を…?
それとも、未来のこと?
けど、さっきから本当に未来を知っているような発言ばっかりだ。
もしかしたら、本当に彼女は未来が見えているのだろうか?
「なぁ、えっと…ほむら ちゃんって言ったかな。君は一体何者なんだ?俺は一体何をしたんだ?」
作品名:Wizard//Magica Wish −3− 作家名:a-o-w